エコツーリズムとは?エコツアーとの違いや日本・海外での興味深い事例を解説

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ここ数年で、〇〇ツーリズムという言葉をよく耳にするようになりました。中でも、もっとも使われているのはエコツーリズムという言葉かもしれません。
その語感から、環境に配慮した旅行、または環境にいい旅行というイメージが思い浮かぶことでしょう。しかし、エコツーリズムの具体的な定義となると、はっきりわかる人は多くはないのではないでしょうか。
いったい、エコツーリズムとは何なのか?この記事ではエコツーリズムを改めて探ることで、日本そして世界の旅行の今の姿を探ります。
エコツーリズムとは?
もともとエコツーリズムは、途上国の自然環境問題を考える過程から生まれた歴史があります。その後、先進国ではより広く、自然をはじめ、地域の文化などの持続的な観光振興を目指す概念として、エコツーリズムは論じられてきました。
日本では、1990年頃からエコツーリズムに取り組む民間事業者が、各地の観光地で見られるようになってきたとされます。
90年代後半には、日本エコツーリズム推進協議会(現、日本エコツーリズム協会)などの民間推進団体の設立が相次ぎ、エコツーリズムを考える動きが進んでいきました。
2007年には参議院において、エコツーリズム推進法が成立、翌年から施行されています。
エコツーリズムの3つの主要な要素
エコツーリズムの定義は、国ごとや研究者によってさまざまな解釈があり、世界的に統一された確たる定義があるわけではありません。
日本では、エコツーリズム推進法、また日本エコツーリズム協会の定義などから、エコツーリズムの主要な要素は次の3つとされています。
自然環境の保護
まず挙げられるのが、自然環境という資源を生かし、その資源が損なわれることのないように適切な管理に基づく保護、保全をはかることです。
エコツーリズム推進法の基本方針の概要は、自然観光資源などが損なわれないよう、事前にルールなどを決めて、ガイダンスやプログラムを実施し、その状態を継続的にモニタリングしていくというもの。
自然を守るルールを決めて、自然との適切な触れ合い方を考えて楽しみ、自然の状況をつねにチェックしていくということが基本的な考え方となっています。
地域文化の尊重と貢献
2つ目は、自然と同様にその地域の文化を生かした観光を成立させ、地域固有の文化が損なわれないようにするということです。エコツーリズムでは、自然だけではなく、その地域の歴史や文化も大切な地域資源、財産と考えます。
地域資源を健全に保護し存続させることと観光業を成立させることで、地域の経済への波及効果を実現することがエコツーリズムの考え方です。
旅行者がその地域の文化を尊重し、魅力的な地域資源と触れ合う。そのような機会が続けて提供されることで、地域の暮らしが安定し、地域資源が守られていく。その一連の流れが、エコツーリズムの目的のひとつとなっています。
環境教育の推進
自然、地域文化とともにエコツーリズムの大きな意義とされるのは3つ目の環境教育の推進です。
観光客は、エコツーリズムの旅行を経験することで、自然や文化の重要性に気づき、それらを大切にし保全することへの意識が高まります。
自然や文化といった地域資源の重要性に気づくのは旅行客だけではありません。それぞれの地元、つまり旅行者が訪問する先の地域住民も、旅行者の存在によって、地元の自然や文化などの地域資源の価値を再認識することができます。
環境教育の推進とは、旅行で訪ねる側、旅行者を受け入れる側、その両者にさまざまな気づきを与えることを指しているのです。
エコツアーとの違い
エコツーリズムとよく似ているエコツアーという言葉も聞いたことがあるのではないでしょうか? エコツアーはエコツーリズムの考え方に沿ったプログラムのことです。
エコツアーは商品そのもので、エコツーリズムはその基本的な目標、概念であるといえます。
エコツアーにはさまざまな種類がありますが、「自然を体験するツアー」「有名観光地などを訪ねる従来型の旅行をエコツーリズム化したツアー」「地域の自然、産業、文化などを体験するツアー」に大きく分けることができます。
現在、数多くの旅行会社などが、さまざまなエコツアーを企画、発売しています。その内容は千差万別ですので、どれを選べばいいか迷ってしまうかもしれません。
日本エコツーリズム協会がホームページでいくつかのツアーをすすめていますので、こちらが参考になるでしょう。
同協会が推奨するツアーには、次のようなツアーがあります。
「奥入瀬渓谷コケさんぽ」(青森県)、「ホエールウォッチング&ドルフィンスイムツアー」(東京都小笠原)、「トトロの森とクロスケの家ガイドツアー」(埼玉県)、 「飛騨街道と街歩きツアー」(岐阜県)、「初めての熊野古道エコツアー」(三重県)、「対馬の自然と歴史を満喫するシーカヤックツーリング」(長崎県)
これらは推奨ツアーのごく一部ですが、これだけでも内容の多彩さがわかります。
エコツーリズムのメリット
自然環境の保護などを目的とするエコツーリズムは、歴史や文化の尊重も目指しているように、さまざまな面でメリットがあります。
環境保護の推進
まず何よりも、自然の美しさや奥深さに改めて気づき、旅行者も地元住民も自然を愛する気持ちが高まって、自然環境を保全しようという意識が強くなるという点があげられます。
旅行者は、自然と向き合うことで、自分自身の自然に対する考え方が変わることでしょう。
地元住民は、地域固有の自然環境、そして自分たちにとっては当たり前だった生活や文化などの魅力を見直す機会となり、地元に自信と誇りを持つきっかけとなります。
地域経済の活性化
その地元の人たちの意識の変化は、地域経済の活性化にも結びつきます。
地域の自然、歴史、文化が観光資源となるという気づきは、観光振興の新たな可能性を見出すことにつながります。
地元の観光資源を見出すことができれば、地域の魅力の再認識、旅行者へのプロモーションなどを地域一丸となって考え、観光戦略を練るという機会が生まれます。
「自然や文化を大切に」し、「地域の真の魅力を楽しみ」、そして「地域が主体となる」という視点が基本となった地域経済の活性化を目指すことができるわけです。
教育的価値
エコツーリズムでは、自然観光資源の状態は継続的にモニタリングされ、その環境を保全しつつ楽しめるようにプログラムやルールの作成が実施されます。
ルールやモニタリングなどの作成、実施に当たっては、専門家や研究者が関わり、ツアーの実施には地域のガイドや住民が関わります。
そのため旅行者は、ただ自然や文化と触れ合うだけではなく、地域の人たちに案内されたり、ガイドから説明を受けることなどによって、より深く自然や文化について学ぶことができるわけです。
エコツーリズムの課題
一方、エコツーリズムには課題とされている点もいくつかあります。代表的なものとして次の3点があげられます。
オーバーツーリズム
観光客が多く集まり過ぎるオーバーツーリズムは、エコツーリズムだけではなく、観光全般の問題といえます。
エコツーリズムでも観光客が人気スポットに集中するという弊害はあり、その地域への大きな負荷となっています。
以前から、観光庁などをはじめ、関係機関はオーバーツーリズムが発生しないように、観光客の地方への分散などの対策へ取り組んではいます。
しかし、効果が出ていないのが現状です。省庁や地方自治体、関係企業などが協力し、問題の解決へ向けて活動を続けていますが、旅行者もオーバーツーリズムを意識しておくことが、重要だといえるでしょう。

適正な管理の必要性
メリットの教育的価値で触れたとおり、自然環境を保全、持続されるためのルール作りやモニタリングには、専門家や研究者の関わりが欠かせません。
科学的な評価を行うために調査研究が不可欠ですし、そのための人材育成も必要となります。
人材の確保も大きな課題となりますが、現在は、高齢化、人口減少が日本全体の問題となっています。地方において、この問題はより深刻です。
観光的な戦略的広報なども課題となるわけですが、適切な自然や文化環境保全のルールや規則整備以前に、それを担う人材の確保が適正な管理には欠かせない問題となっています。
高コスト
エコツーリズムを適正に運営していくには、コストも高くなります。
自然や文化環境を守り、持続していくためには、管理面、人材面などの経費が必要となり、一般的な観光業態よりもコストがかかります。
だからといって、かかったコスト分を上乗せしツアー価格が高くなれば、参加者が減ることは否めません。
ただし、エコツーリズムが目指すこととツアー料金の関係については、ここ数年で、旅行者の意識も変化しつつあります。自然や文化を守るためなら、ある程度高いツアー料金は当然と理解を示す旅行者も増えてきているようです。
これからは単純に高い、安いという点だけではなく、エコツーリズムの意義を含めて、料金、内容などツアー全体を考える姿勢が提供者にも旅行者にも求められるのではないでしょうか。
日本のエコツーリズム事例
では実際のエコツーリズムには、どのようなものがあるのでしょうか。まずは日本の事例を3つ、簡単にご紹介します。
1.屋久島(鹿児島県)
日本で最も早くエコツーリズムが実施された地域のひとつが屋久島です。
2004年には「屋久島地区エコツーリズム推進協議会」が設立され、ガイド事業者は200名以上いるといわれます。
世界自然遺産に登録されている島西部地域をはじめ、縄文杉が集中する山岳部、アオウミガメが上陸する海岸など見どころは多彩。ツアープログラムもバラエティーに富んでいます。
2.知床(北海道)
世界自然遺産に登録されている知床半島は、手つかずの自然環境が残されているだけではなく、アイヌの人々の文化的、歴史的背景も受け継がれてきています。
入ることができるエリアや立ち入り禁止のエリアなどが区分けされた「知床ルール」が定められていて、順守することが義務づけられています。
近年では、ヒグマの里への出没が頻繁になっていることなどが問題となっており、ルール順守の徹底が観光客にも求められています。
3.白神山地(青森県・秋田県)
白神山地とその周辺地域も世界自然遺産に登録されています。
ブナ林を中心とした原生林は、マタギ文化の世界でもあり、自然と文化が体験できるプログラムが多数用意されています。広大な原生林には、自然保護のため歩道や案内板は整備されていませんので、案内人(ガイド)とともに歩いて散策します。
津軽弁で迎えてもらえるプログラムは、自然の奥深さと人々のぬくもりに触れられるために人気を集めています。
海外のエコツーリズム事例
当然ながら、海外のエコツーリズムは多種多彩ですが、内容の異なる3例を紹介します。
1.コスタリカ
コスタリカはエコツーリズムの聖地ともいわれる中米の国。
国土の約4分の1が自然保護区または国立公園として保護されていて、地球上の全動植物の約5%しか生息していないような希少種も数多く見られます。
現在は聖地と呼ばれるコスタリカですが、かつては焼き畑で森林が失われていました。そのことに危機感を持ち、環境を守りつつ自然環境を観光資源とすることに政策転換しています。
エコツーリズムの聖地といわれるのは、自然の豊かさだけではなく、その歴史にも由来しているのです。
2.ガラパゴス諸島(エクアドル)
南米エクアドルから約1000㎞離れたガラパゴス諸島は、動物や植物の固有種が多いことで知られます。
毎年15万人以上の観光客が訪れるとされますが、自然保護に関しては厳しい法律が設けられています。
さらに旅行費用もかなりの高額。しかし、環境に配慮した取り組みが徹底していることで、簡単に破壊されやすい島の自然を守っています。
厳しい条件のもとで観光と自然保護の両立をしている点は、エコツーリズムの原点を考える上で参考になるでしょう。
3.ノルウェーのフィヨルド
手つかずの自然が38万㎢も占めているノルウェーでは、ちょっとした自然散策、ダイナミックな氷河ハイキングなど、さまざまなアクティビティーが楽しめます。
人気となっているのは、徒歩、電動自転車、ボート、カヤックなど、環境にやさしいツアーの数々。
中でも、ノルウェーならではのスポットはフィヨルドでしょう。ここでも完全電気式の船旅が主流。電動ボートに乗ってのフィヨルドクルーズは、洞窟を訪ねたり、600m以上の高さを誇る滝を間近に眺めたりと大自然の迫力を満喫できます。
電動ボートは環境に負荷を与えないだけでなく、静かで穏やかに航行するので、さまざまな自然の音も聞こえます。これもエコツーリズムの醍醐味といえるでしょう。
まとめ
世界でも日本でも20年以上前から取り組みが始まり、ここ数年でより注目され、現在では定番となりつつあるエコツーリズム。
まだ課題は残されているものの、エコツーリズムは当たり前の旅行スタイルとなりつつあります。エコツアーが増えてきているだけではなく、旅行者の側の意識も変わってきているといえるでしょう。
自然環境を守っていき、地域の歴史や文化を尊重するエコツーリズムは、もうじき当たり前となるのではないでしょうか。
すべてがエコツーリズムを基本とした旅行となり、エコツーリズムという言葉が特に使われなくなる日がくるかもしれません。