マイクロツーリズムとは?メリット・デメリットやSDGsとの関連、成功事例を紹介

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最近、マイクロツーリズムという言葉を耳にすることはないでしょうか。
海外や遠い場所へ旅行に出かけるのではなく、自宅から1、2時間の距離の場所で宿泊観光や日帰り観光を行うことを指します。
旅行の規模は小さくなるものの、地元や近隣の魅力を再発見することができるので、地域の活性化にもつながりますし、長距離移動による環境への負荷や旅行者への負担も少なくなります。
マイクロツーリズムが意味するものは、「マイクロ=小規模」ということだけではなく、これまでの旅行のあり方を、旅行者を受け入れる側も旅行者側も、改めて考え直すという意味もあります。
とはいっても、なにも難しく考えることはありません。新たな旅行の楽しみ方としてのマイクロツーリズムについて紹介していきましょう。
マイクロツーリズムが広がっている背景
マイクロツーリズムは、新型コロナの感染が拡大する中で、星野リゾート代表の星野佳路氏によって提唱されました。
2020年から本格的に始まったコロナの感染拡大の中、人々の移動が制限され、密集が禁止されたことは記憶に新しいところです。店舗やホテルなどは営業が制限されて、観光産業は大打撃を受けました。
さらにコロナ禍が長期で続くと予測され、観光業が生き残るためのひとつの方法として、星野氏はマイクロツーリズムを提唱したわけです。
いわゆる三密を避け、短距離の移動でウイルス拡散のリスクをおさえ、なおかつ地域の経済に貢献するというのが、マイクロツーリズムの基本的な考え方です。
コロナの感染拡大中は「不要不急」という号令のもと、旅行は国内外ともに控えられました。しかし、ある程度コロナが収まってくるとマイクロツーリズムを実践する人は増えてきましたし、さらにコロナ終息後もマイクロツーリズムは広まりを見せました。
マイクロツーリズムはコロナに関連する意味合いだけではなく、それ以上のメリットがあることを旅行業界や旅行者に気づかせてくれたのです。
マイクロツーリズムがもたらすメリット
主なメリットとして次のようなことがあげられます。
地域経済の活性化
まずは地元や近隣などの地域の経済が活性化されることです。
旅行で訪ねる観光地は、マイクロツーリズム以前はよく知られた場所に限られていたといえます。旅行に出かけようと考えたときは、例えばガイドブックに目を通し、そこに掲載されている観光スポットを訪れ、ホテルに宿泊し、名物グルメを楽しむというのが一般的でしょう。
その場合、ガイドブックに掲載されている情報がすべてとなります。つまり、情報源はかなり限られていたわけです。マイクロツーリズムでは地元や近隣に目を向けることから始めるので、身近な場所にある観光資源を初めて、もしくは改めて探ることになります。
ガイドブックに出ているような際立った見どころは少ないかもしれませんが、おもしろそうな観光スポットや店、知らなかったグルメなどが意外とあることに気づくのではないでしょうか。
マイクロツーリズムにより、地元や近隣の地域経済が活性化されるだけではなく、その地域の魅力の再発見もされるわけです。
観光客の負担軽減
マイクロツーリズムでは、旅行者の負担も軽くなります。
もちろん旅行は楽しいもの。しかし、長距離移動をともなう旅や海外旅行などでは、旅行者自身も結構疲れます。子どもを連れた家族旅行などでは、両親の精神的、体力的な負担はかなりなものになるはずです。
マイクロツーリズムであれば、移動も短くて済み、有名観光地より観光客も少なく、ゆったりと過ごせることでしょう。
密集を避けるために提唱されたマイクロツーリズムですが、そもそも人でごった返す観光スポットに行くことだけが観光ではないと、コロナ後に考え直した方も多いのではないでしょうか。精神的、体力的な負担だけではなく、経済的な負担もぐっと軽くなります。
マイクロツーリズムは「旅行とは何か」という根本的なことを考えるきっかけにもなっています。
環境への配慮
環境への負荷についても、マイクロツーリズムは考えさせてくれます。
ドライブで観光地に向かえば、自動車の排気ガスが環境へ負荷を与えます。長距離になればなるほど、当然その負荷は大きくなります。飛行機を利用した場合も同様のことがいえます。
つまり、旅行に出かければ、なんらかのかたちで環境を悪化する状況となるわけですが、この点もマイクロツーリズムが気づかせてくれたことのひとつです。
地元や近隣を訪ねれば、ほとんど自動車を利用することはないでしょう。歩いたり、自転車に乗ったりする楽しみも、新たに発見することになるかもしれません。
緊急事態下での柔軟な旅行形態
マイクロツーリズムは、前で説明したとおりコロナがまん延する中で提案されました。
世界中をおそった緊急事態の中、観光地に出かけるのではなく地元を楽しむという発想の転換が行われ、地元の魅力に改めて気づいたり、地元の人たちと交流できたりという新しい旅行のかたちが生まれました。
旅先でも、宿泊施設そのものを楽しんだり、貸切りや個室を選ぶことで密集を避けるという句風が行われました。
コロナ禍のような状況になっても、柔軟に考えることで旅行は楽しめるということが、マイクロツーリズムによって明らかとなったわけです。
今後、コロナまん延のような事態に再び見舞われるということは考えたくはありませんが、何か緊急の事態となったとしても、さまざまな工夫をすることで旅行は前向きに考えられることでしょう。
マイクロツーリズムのデメリットや課題
では、マイクロツーリズムにデメリットはないでしょうか。
地元の魅力の再発見
マイクロツーリズムそのものにデメリットはあまり考えられませんが、実は課題はいくつかあるといえます。それは旅行者を迎える側の課題です。
ひとつは地元の魅力の発見。地元の魅力とは、その地元にいると案外気がつかないものです。旅行者に向けて、改めてその土地の魅力を提案するには、旅行者やほかの土地の人など他者の目が必要となることが少なくありません。
これはよく知られた観光地でも同様です。旅行者のニーズと観光地が提供したいニーズは、必ず一致するとは限りません。これは旅行業だけに限ったことではありませんが、何が旅行者に求められているのか、旅行者がよろこびそうな本当の地元の魅力は何なのか、そのような視点を持ち研究を重ねるというのは、観光地の永遠のテーマとなっています。
デジタル化と情報発信力
もうひとつはデジタル化、情報発信力です。大きな観光地でなければガイドブックなどに取り上げられる機会は多くはないので、ウェブサイトなどを活用し、情報を発信する必要があります。
現在では、どこの観光地でもサイトを開設しているのが一般的ですが、その内容については大きな差があるのが現状といえます。魅力的なサイトがある一方、情報がわかりにくいサイトも存在します。また、当然のように自治体ごとに作られています。
この点について星野リゾートの星野氏は「行政は県単位ですが、今後は消費者が考える商圏に合ったものとなるよう、柔軟性を持った対応ができれば良いと感じます」(『月刊事業構想』2022年3月号)と話しています。
旅行先は県境や市町村の境で区切られているわけではありません。行政側も、いわゆる縦割りの仕事を見直すべきでしょう。
深刻な人手不足
そして、最も大きな課題は人手不足。これも日本が抱える問題です。コロナが落ち着いても再開できない宿などがあるというニュースを耳にしたことがあるかもしれません。従業員が戻らなかったり、集まらないため、通常の営業ができない状況が、特に地方では深刻です。
マイクロツーリズムにより地方の魅力が再発見され、これまでの観光地とは違う場所としての「地元」を旅行者が訪ねても、それに対応する人がいない状況を解決するのは、何よりもまず解決しなければならない問題となっています。
マイクロツーリズムはSDGsにどのように貢献するか?
ここでマイクロツーリズムとSDGsについても見ていきましょう。
これまで触れてきたとおり、マイクロツーリズムによって環境への負荷は減少しますから、SDGsの目標の7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」に貢献しています。
地域経済を活性化させている点では、8「働きがいも経済成長も」に当てはまります。9「産業と技術革新の基盤をつくろう」や11「住み続けられるまちづくりを」にも貢献していると考えられます。
旅行者が心身ともにリフレッシュできるので3(すべての人に健康と福祉を)にも該当するでしょう。
SDGsの目標は相互に関連しているので、マイクロツーリズムの内容によってはさらに貢献している分野があるかもしれません。いずれにしても、マイクロツーリズムがさまざまな面でSDGsに貢献しているのは明らかです。

マイクロツーリズムのおすすめの過ごし方
マイクロツーリズムの内容は、地域や季節などでも異なりますが、次のような面から楽しむこともできます。
地域独特の伝統工芸などを楽しむ
これまでも地域の伝統工芸を楽しむ機会はありましたが、最近は外国人旅行者が増えていることもあり、その内容はかなり充実しています。ただ、特に外国人旅行者からの人気が高いため、外国人向けの内容かと思いがちかもしれません。
もちろん、外国人に向けたものもありますが、日本人も改めて伝統工芸を楽しみたいものです。特に陶芸やガラス細工など、伝統工芸を体験してみてはいかがでしょうか。
時間がないことを理由に、そのような体験に参加したことがない人は少なくないはずです。観光地を訪ねても、時間の制約があって早足で観光を済ませてしまった経験はないでしょうか。

マイクロツーリズムは、コロナ禍では1、2泊の旅行や日帰り旅行を提案していましたが、単に短い旅行を推奨しているわけではありません。行き先を地元などに限定することで、その地域とのかかわりを深めることを想定しています。
伝統工芸などを通じてその地域の魅力や歴史に触れたり、伝統工芸に限らずさまざまな体験をしてみたりすることで、その地域のことをより深く知ることができます。地元の人たちと会話を交わすことで、その地域とのつながりもできるのです。
ホテルではなく「宿」「旅館」に宿泊してみる
宿泊先を変えてみるのもおすすめです。これまで一般的なホテルに泊まっていたのであれば、旅館に宿泊してみるのはいかがでしょう。
旅館は建物そのものも魅力的ですが、その地域の歴史と深くかかわっている宿も少なくありません。
例えば、東京都文京区の本郷に建つ旅館「鳳明館」(一部改修中)は、建物が歴史を感じさせるだけでなく、浴場などが貴重なタイル張りで見ごたえもあります。東京に観光に来た方だけでなく、東京都民も宿泊したくなる宿です。
また最近は農泊も人気です。農家などの施設に宿泊し、農業体験や漁業体験など、その地方ならではの多彩な体験するというもので、ふつうの旅行ではできない経験が楽しめます。
「まちやど」という宿泊のかたち
最近は、宿泊施設と町が一体となった「まちやど」という宿泊形態も注目されています。
商店街の空き家やビルを改修した施設に宿泊し、食事や買い物は商店街の店に出かけて楽しむというかたちが一般的で、その町全体で旅行者を歓迎するスタイルとなっています。
町が活性化するだけでなく、前述した人不足の問題を解決することができるため、ここ数年で日本各地に「まちやど」は広まっています。「一般社団法人日本まちやど協会」も立ち上げられていて、サイトで各地の「まちやど」が紹介されています。
また、「まちやど」と同じシステムで、静岡では「ビル泊」が2020年から始まっています。
空いている家や建物を再活用し、町に旅行者を呼び込んで、さまざまな店舗が歓迎するこの「まちやど」スタイルは、これからも増えていくのではないでしょうか。
旅行者にとっても、これまでの旅行では知ることのできなかった町の魅力が感じられる宿泊スタイルとして注目度が高まるはずです。
マイクロツーリズムの事例
コロナ禍に提唱されたマイクロツーリズムは、コロナ後、さまざまな広がりを見せていて、各企業や地方で展開されています。代表的なものを紹介しましょう。
星野リゾート
マイクロツーリズムを提唱した星野リゾートは、2021年に全国を11のマイクロツーリズム商圏に分けて、各地域の特色を出した情報を発信してきました。当初は、サービスや料理の内容をマイクロツーリズムに合わせるなど、感染拡大を防止しつつ地域経済を両立させるというものでしたが、コロナ後、その内容はより充実しています。
現在は「100の魅力」として、全国各地のマイクロツーリズムが紹介されています。東京では都電ビューの部屋が用意されたり、土浦ではサイクルルームを設けて自転車とともに宿泊できるなど、その内容は細分化されています。
#WeLove鳥取キャンペーン
まだコロナが終息する前には、各自治体がマイクロツーリズム政策を取りました。
鳥取では「#WeLove鳥取キャンペーン」を2020年12月からスタート。鳥取県民を対象としたキャンペーンで、地元の観光施設は半額、宿泊施設は20%割引となるなど、かなりお得な内容となっていました。
各自治体で行われたマイクロツーリズム政策も、鳥取同様に県民や市民に限り、割引サービスをしたり、クーポン券を発行するなどして、県内や市内での観光を活性化し、観光産業を支える内容となっています。
まとめ
コロナが広まる中、マイクロツーリズムは密集を避け、感染拡大を防止しながら、地域経済に貢献するために提唱されました。
その後、旅行者にとっても、旅行者を受け入れる側にとっても、マイクロツーリズムは旅行の原点を見直すきっかけとなっています。
レジャー施設やイベントなどがある有名観光地を訪ねることが旅行本来の目的ではなく、地方や地元にも気づいていなかった魅力や楽しみ方があることをマイクロツーリズムは気づかせてくれました。
コロナ、そしてマイクロツーリズムにより、環境のことや旅行のスタイルについて考えなおすことができたのは貴重な経験といえるでしょう。
それは冒頭でも触れたとおり、難しいことではありません。自分なりに楽しみを発見して、自分なりの旅行を楽しむという当たり前のことが、マイクロツーリズムの基本なのではないでしょうか。

