ランドセルの色から見る差別│ジェンダーレスな商品や近年の人気の色などを紹介

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日本人なら誰もが小学生の頃お世話になったランドセル。
最近では、日本だけではなく海外でも注目されているというニュースは耳にしたことがあるのではないでしょうか?俳優やモデルなどの有名なセレブたちが使用している場面も紹介されています。
また現在は、多彩な色のランドセルがふつうに見られ、とてもファッショナブルになっています。しかし、昭和時代に小学生だった人たちには「男は黒、女は赤」というのが一般的だったはずです。
ランドセルの色は、いったいいつから変化してきたのでしょうか? そして、その変化は何を意味しているのでしょうか?
その背景を探ると、日本における差別やジェンダー問題の存在も見えてきます。ランドセル、そしてその色から、日本の歴史をふりかえってみましょう。
ランドセルの色のランキングは?
ランドセル工業会は「ランドセル購入に関する調査」を毎年行い、公表しています(対象は小学校に進学する児童のいる全国の20~69歳の男女)。
2024年、購入したランドセルの色の上位5項目は次のとおりです。
順位 | 男子 | 割合 | 女子 | 割合 |
1位 | 黒 | 51.40% | 紫/薄紫(スミレ、ラベンダー等) | 28.50% |
2位 | 紺(ネイビー) | 17.50% | 桃(ピンク、ローズ) | 21.00% |
3位 | 青 | 13.30% | 水色(スカイブルー) | 16.80% |
4位 | 緑 | 4.70% | 赤 | 10.60% |
5位 | うす茶(ライトブラウン、キャメル) | 2.80% | うす茶(ライトブラウン、キャメル) | 7.70% |
なお、2020年からのランキングを1位だけ見てみると、次のようになります。
年 | 男子 | 女子 |
2020年 | 黒70.0% | 赤23.4% |
2021年 | 黒61.2% | 紫/薄紫21.5% |
2022年 | 黒58.4% | 紫/薄紫24.1% |
2023年 | 黒56.9% | 紫/薄紫29.6% |
男子の1位はずっと黒ですが、年々その割合が減少しているのがわかります。女子は2021年から紫/薄紫が赤を抜いて1位となっています。
2024年は、男女問わず、色のバリエーションが自由に分散していますが、それでも男子はまだ半分が黒ともいえます。
男の子は黒・女の子は赤という固定観念はいつ生まれたのか
現在は、色のバリエーションが多彩になっているランドセルですが、昭和の終わり頃までは黒と赤がほとんどでした。
しかし、そもそもいつから「男子は黒、女子は赤」となったのでしょうか?
ランドセルの色、そしてランドセルの歴史について、『ランドセル130年史』(ランドセル工業会)や南山大学の論文(「ランドセルの歴史と日本人のジェンダー観の関連に関する研究」)などを参考に解説していきます。
ランドセルの起源はオランダからの輸入で150年前
ランドセルの原型は、江戸時代末期に陸軍が採用した「ランセル」と呼ばれるオランダの背嚢(はいのう)だとされます。今から150年近く昔のことでした。「ランセル」がなまって「ランドセル」になったと考えられています。
背嚢とは、背負って使う布製の袋のこと。1880年代後半には、兵式体操を採用した学校でも使われるようになります。
ランドセル使用の始まりは1887(明治20)年。当時の総理大臣だった伊藤博文が、嘉仁親王(のちの大正天皇)の学習院初等科入学のお祝いとして、特注の箱型の通学カバンを献上したのが起原とされています。
1890年には、学習院の規則で黒革の背嚢の使用が定められ、形状や寸法などが統一されます。これは「学習院型ランドセル」と呼ばれます。
初期は黒、赤の登場は?
ランドセルは初めの頃、黒が主流でした。初期のランドセルは、牛の皮をなめした革を使っていましたが、この革が頑丈なものの傷がつきやすいので、傷が目立たないように黒の染料が使われたと考えられています。
戦前、戦中、戦後の1930年代後半から1950年までは皮革統制が実施され、ブリキ製のランドセルや豚革のランドセルも登場しました。この頃には、茶色や赤茶色が多かったとされます。
前述の南山大学の論文では、児童雑誌『小学一年生』の挿絵からランドセルの色を考察する試みがされています。それによると、赤いランドセルは、1950(昭和25)年頃までには誕生していたということです。
当初は、女子が黒いランドセルを背負っている姿も見られましたが、その後、次第に「男子は黒、女子は赤」というパターンが定着。その時期は、1960(昭和35)年頃と考えられています。
高度成長期の影響も?
ランドセルの性別に対応した色分けには、高度成長期という時代も関係しているのではないかとも考えられています。
1964年の東京オリンピックの際に、ピクトグラムが作られたことはよく知られていますが、このとき、例えば男女のトイレを色分けするように、色も利用されていました。色彩によって、男女を区別することは、この頃から広がったようです。
当時は高度成長期で、都市部を中心に男女の社会的な役割の区別が進んだ時代。仕事の中心的な作業や判断が必要な業務は男性が行い、女性は主に事務職で、結婚すると退職するというのが当たり前でした。
男女のライフスタイルそのものが、このような固定観念にしばられていた時代なので、「男が黒、女が赤」というランドセルの固定観念にも、誰も疑問を抱かなかったのは自然なことだったのでしょう。
学校や親の意識の影響
また、日本人特有の考え方も関係しているはずです。
現在では、だいぶ変わってきたといえるかもしれませんが、周囲と異なることをするというのは、まだまだ日本人の特徴だといえるでしょう。それが昔なら、なおさら強かったといえます。
親や子ども自身が、ほかの子どもたちと違う色のランドセルを使うのをいやがるということもありますし、周囲からからかわれることもあるようです。
1984年の新聞記事にも、紺色のランドセルを最初は喜んでいた女子が、クラスでからかわれ「やっぱり赤がいい」と言うようになったという出来事が紹介されています。
地域や学校の暗黙のルールというのもあるようです。
「男子は黒、女子は赤」と指示されてはいないものの、昔からの「それが当たり前」という考え方が広まっている地域や学校では、違う色がまるで異端かのように思われるのかもしれません。
ここにも、古い日本人ならではの特徴が表れているといえるのではないでしょうか。
ジェンダーレスランドセルの登場と広がり
ランドセルにさまざまな色が見られるようになったのは、1970年代半ば以降だとされます。
1976年の新聞記事には、「今年はグリーンとか黄色、ピンク、紺色などが目立って増えてきた」と記されています。これは1964年に開発された人工皮革のクラリーノのおかげでした。人工皮革のため、素材が均一化され、さまざまな色のバリエーションが容易になったのです。
多様性を意識した新しいデザイン
しかし、いろいろな色のランドセルが登場しても、黒、赤以外の購入者が一気に増えたわけではありません。1993年でも、黒と赤が全体の95%以上を占めたとされます。
実際に、カラフルなランドセルが広まるようになったのは2000年に入ってからのことでした。
2001年、イオンが24色ランドセルを販売すると、ほかの大手企業もカラフルなランドセルを販売するようになっていきました。ランドセルの多色化は、前述のとおり技術的な面が大きいのですが、時代背景も関係があるようです。
1970年代以降、男女別の作業分担や固定的なジェンダー観は、批判されるようになってきました。1980年代になると、日本でも男女平等を目指す政策が展開されます。
その後、政府により「男女共同参画ビジョン」が打ち出され、ジェンダーフリーの動きが拡大、2000年以降、さらにジェンダーの平等や多様化を目指す動きは加速化していきます。
カラフルなランドセルも、そのような時代の流れと歩調を合わせているかのようです。

具体的な事例
以下で具体的にどのような事例があるかを紹介します。
中村鞄製作所
引用元:中村鞄製作所
中村鞄製作所は、ジェンダーレスな手作りランドセルを販売しています。ホームページではランドセルの今と昔について比較し、今ではオリジナリティーを追求し個性を出すことが主流になっていると紹介されています。
オーダーメイドのランドセルも需要が高まっていて、スポーツブランドとのコラボレーションや百貨店限定デザインなども増えているとのことです。
土屋鞄製造所
引用元:土屋鞄製造所
土屋鞄製造所は、ジェンダーレスランドセル「RECO(レコ)」シリーズを販売しています。2022年には約50色を用意し、「自分らしい自由な色選び」を提案。「子どもたちが選べる色の範囲を広げたい」と担当者は話しています。
いずれのメーカーも、昔は男女で区別していたカタログの内容を一新し、今は男女関係ないカタログがふつうになっています。
イトーヨーカドー
引用元:イトーヨーカドーらんどせるラボ
またイトーヨーカドーも、ジェンダーレスランドセルを前面に打ち出した「らんどせるラボ」を展開し、注目を集めています。
※2025年2月21日現在、イトーヨーカドー2026ランドセルページは公開準備中です。
もはや、ジェンダーレスランドセルは特別なことではなく、当たり前のこととなってきています。
近年のランドセルの人気色と選ばれる理由
冒頭の人気ランキングで紹介したとおり、最近は明るい色が好まれるようになってきています。
特に女子は暖色系やパステル系の人気が高まってきていて、ここ数年で固定化していると考えられます。一方、男子は半分が黒であることは前述のとおりです。それでも、黒のほかにも寒色系の色が増えてきているということは確かでしょう。
ランドセルの色が多様化している背景、人気の色の傾向などについても考えてみます。
パステルカラーなどの色も台頭
特に女子にパステルカラーが人気だということは紹介したとおりですが、色合いの淡い、ユニセックスカラー人気が高い傾向はしばらく続くのではと考えられています。
やわらかな印象の色が好まれているわけですが、何よりも選んでいるのが子どもたちだというのが最も大きな理由となります。
かつてランドセルは、孫への贈答品として祖父母が選ぶことが多かったとされます。昔は選択肢が少なかったこともありますが、祖父母は「男子は黒、女子は赤」と考え、定番で無難な色である黒か赤を選んだのではないでしょうか。
現在でも、ランドセルの購入代金の支払いは祖父母が中心だといわれます。しかし、ランドセルを選ぶのは子ども自身へと変わっています。
少子化が進んでいることもあり、子どもの個性を尊重したいと考える親は着実に増えています。ランドセルを選ぶ子どもたちは色に対する固定観念はなく、自分だけのランドセルを持ちたいと自由に考えているのではないでしょうか。
子どもたちのみずみずしい感性に、パステルカラーは何かをうったえかけるのかもしれません。
考え方が柔軟化している
自由になってきているのは、子どもたちだけではありません。
言うまでもなく、現代はネットやSNSなどで世界とつながっている時代。昔のような固定観念は消えつつあるといえるでしょう。
ランドセルに対しても、色に対して自由な考えが浸透してきているだけではなく、冒頭で触れたように、世界から注目されることで、日本人のランドセルそのものに対する見方や考え方も変化しているといえるかもしれません。
SNSなどにより、小学生が当たり前に使うランドセルについて、改めて考え直す機会が増えたのではないでしょうか。

ランドセルから考える未来の社会
ランドセルの色が自由になってきている流れを見てきましたが、単色だけではなく、色を組み合わせるというデザインも増えています。
さらに、素材や使いやすさ、金具などの細部のデザインもつねに進化を続けています。その一方で、日本ではランドセルは小学校でしか使われないもの。
しかし、ランドセルは色だけではなく、その利用方法なども多様化しています。
性の多様化に伴い、子どもの好みを尊重する時代へ
現代では、ジェンダーの多様化に伴い、親ではなく子どもの意志が尊重される時代になっていることは、これまで解説してきたとおりです。
しかし、色を含め、ランドセルの選択肢が増えてきていることは確かですが、選択のパターンは限定的との意見もあります。
ニュースなどで取り上げられるように、世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダーギャップ指数」は、2024年、146か国中118位で、先進国の中では相変わらず最低レベルです。
ジェンダー観の変化により、子どもたちの個性も尊重されるようになってきてはいるものの、社会全体で考えるとまだまだ途中の段階にあるといえるようです。
不要になったランドセルは寄付やリサイクルへ
小学校が終わると役目を終えてしまっていたランドセルは、海外で再利用されるようになっています。
『ランドセルは海を越えて』(ポプラ社)、『7年目のランドセル ランドセルは海を越えて、アフガニスタンで始まる新学期』(国土社)は、アフガニスタンの子どもたちが戦争という過酷な環境の中で、日本から送られたランドセルを大切にしながら勉強している様子を写真で紹介しています。
「リボーンプロジェクト」や「セカンドライフ」「ジョイセフ」などの団体が、不要になったランドセルを海外に送り、活用してもらうプロジェクトを展開しています。

まとめ
日本人であれば、誰もが1度は使ったことがあるランドセルですが、その色について注目すると、日本の社会についても関係があることがわかりました。
特に、日本における男女の問題やジェンダーの問題などが、ランドセルの色にも反映していることが感じられたのではないでしょうか。
さまざまなランドセルの色を子どもたちが自由に選んでいるように、日本でもジェンダーについてのとらえ方は大きく変化しています。
しかし、たびたび指摘してきたように、男女間の問題やジェンダーへの理解が根本的に変わっていない部分も残っていることは否めません。
大人の社会が本当に変わってこそ、よりカラフルなランドセルが増えて、それが当たり前になるのかもしれません。