潮力発電の仕組みとは?メリット・デメリット、日本での導入事例とともに徹底解説


Contents
気候変動の進行が加速する今、再生可能エネルギーの導入は必須となってきています。中でも、新たな再生可能エネルギーとして注目されているのが「潮力発電」です。
海の満ち引きという自然の大きなリズムを利用するこの発電は、持続可能な社会の実現に向けた重要なエネルギーとして注目されている技術です。
潮力発電とは具体的にどのような仕組みで、どのような利点や課題があるのでしょうか?
本記事では、潮力発電の基礎知識から最新の導入事例までわかりやすく徹底解説します。そもそも日本のエネルギー問題の基礎から知りたい、という方は、下記の記事も併せてご覧ください。


潮力発電とは?
まずは、そもそも潮力発電がどのようなものかについてを見ていきましょう。
潮力発電とは?
潮力発電は、月や太陽の引力によって生じる海の潮汐運動を利用して電力を生み出す、再生可能エネルギーの一種です。地球規模で繰り返されるこの自然現象を活かすことで、クリーンで安定した電力供給が可能になります。
日本は、排他的経済水域(EEZ)の面積が世界第6位という海洋国家であり、海洋資源の活用に大きなポテンシャルを持っています。
中でも、季節や天候の影響を受けにくく、一年を通じて安定した出力が期待できる潮力発電は、将来の重要な電源のひとつとして、普及への期待が高まっています。
潮力発電の特徴
潮力発電の最大の特徴は、その発電の安定性と予測可能性にあります。
太陽光発電や風力発電は天候や季節の影響を大きく受け、発電量が不安定になりがちですが、潮力発電は潮の満ち引きという周期的で安定した自然現象を利用するため、日々の変動が少なく、長期的な発電量の予測が可能です。
その一方で、設置可能な場所が限られており、主に潮流が速く、地形条件の整った海域に限定されます。
他の再生可能エネルギーとの違い
太陽光発電や風力発電といった日本の主要な再生可能エネルギーと比較すると、潮力発電は出力の安定性に優れている点が大きな特徴です。
太陽光は夜間や曇りの日には発電できず、風力も風の強さによって出力が大きく変動しますが、潮力発電は潮の満ち引きという天候に左右されない自然現象を利用するため、潮の満ち引きに応じて規則的にエネルギーが得られます。
その一方で、潮力発電は、初期投資や設備維持にかかるコストが高く、設置可能な場所も潮流が強い限られた沿岸部に限定されます。特に、潮流が速くかつ浅い海域という適地が限られるため、原則として沿岸部での運用に限定されるのが現状です。
こうした地理的制約と経済的ハードルが、他の再生可能エネルギーに比べて導入の進みにくい要因となっています。
潮力発電の仕組み
次に、潮力発電の仕組みについて解説します。
基本の原理
潮力発電は、海の潮の満ち引き(潮汐)や潮流の動き(潮流)によって生じる水の運動エネルギーを利用して発電する技術です。地球と月(および太陽)の引力によって規則的に起こる潮の動きは、予測がしやすく安定しており、持続可能な再生可能エネルギー源とされています。
水の流れによってタービン(羽根車)を回転させ、回転運動を電気に変えるという点では、水力発電と基本的な仕組みは同じです。
主な発電方式の種類
潮力発電には大きく分けて2つの方式があります。
潮汐発電(ダム式)
引用元:巨大な機械が潮流を利用する|NASA Climate Kids
潮の満ち引きによる海面の高低差を利用して発電する方式です。湾や入り江に堤防のような構造(潮汐ダム)を設け満潮時・干潮時に海水を制御して水車を回し、発電します。
上図はその仕組みを示したものです。上図の干潮時発電では、満潮で海から水が押し寄せる際にタービンを回して発電し、下図の満潮時発電では、干潮で水が海へ流れ出す際にも同様に発電が行われます。
このように、満ち潮・引き潮の両方で発電が可能なため、比較的安定した出力が得られるのが特徴です。
代表的な例としては、フランスのランス潮汐発電所が知られています。
潮流発電(海中タービン式)
引用元:第9回:潮流発電の実証フィールド〜長崎県|Marine Diving Web
潮の流れそのものを利用して発電する方式です。海底にプロペラ状の水車(海中タービン)を設置し、潮の流れによってその羽根を回して発電します。図のように、潮の満ち引きによって起きる上げ潮・下げ潮の潮流が双方向に流れることで、タービンが回転し、安定した発電が可能となります。
この方式は、ダムを必要とせず、海中に設置するだけで発電できるため環境への影響が比較的少なく、設置場所の自由度が高いのが特徴です。
日本では、長崎県五島沖で実証実験が進められています。
潮力発電のメリット・デメリット


引用元:Rance Tidal Power Station|APPROPEDIA
次に、潮力発電のメリットとデメリットを見ていきましょう。
どちらも理解しておくことで、この発電方式の可能性や課題を正しく捉えることができます。
メリット
潮力発電の大きな強みは、発電の安定性と予測性にあります。潮の満ち引きは天候に左右されず、周期的に繰り返される自然現象のため、発電量が読みやすく、エネルギー供給が安定します。
また、再生可能かつクリーンなエネルギー源であることも重要なポイントです。化石燃料に頼らず、CO₂を排出しない発電が可能なため、地球温暖化対策やエネルギーの脱炭素化にも貢献します。このように、自然のリズムを活用しながら、持続可能な電力供給を実現できる点が大きな魅力といえるでしょう。
デメリット
一方で、潮力発電にはデメリットも存在します。まず、発電に適した場所が限られていることが挙げられます。潮流が速く、地形条件が整っている地域でなければ、十分な発電効果が得られません。
加えて、建設コストや維持費が高いという経済面でのハードルもあります。特にダム式の場合は大規模なインフラ整備が必要で、導入には多くの資金と時間を要します。
さらに、海の流れを変えることによって、水質や海洋生物、漁業などへの影響が懸念される点にも注意が必要です。環境への配慮と地域との調整が不可欠であり、技術面だけでなく社会的な合意形成も求められるのが現状です。
日本での導入事例と現状
潮力発電は、日本でどのように活用されているのでしょうか。この章では、実際に行われている事例を地域別で紹介します。
事例
1983年、瀬戸内海・来島海峡で日本大学がダリウス式水車による潮流発電に成功し、これは世界初の実験的な成功例となりました。
詳細:資料番号⑧潮流発電装置 – 工作技術センター|日本大学
現在は、九州電力の子会社が長崎県五島沖で潮流発電の実証運転を開始しています。
発電機は水深約40メートルの海底に設置されており、年間の発電量は一般家庭約800世帯分、約241万キロワット時が見込まれています。
発電した電力は、九州電力送配電の電力網を通じて五島市に供給されており、2025年度中には発電データの収集と分析を進め、課題の把握と将来的な展開に向けた検討が行われる予定です。
詳細:九電みらいエナジー、潮流発電の実証運転を開始 長崎・五島沖|日本経済新聞
現状
日本は潮力資源に恵まれながらも、地形制約やコスト、環境配慮の必要性から商用化は進んでいません。
潮力発電は、潮流の速い限られた海域にしか設置できず、初期投資や維持費が高く、漁業や海洋環境への影響にも配慮が求められます。
政府は「エネルギー基本計画」などを通じて、研究支援や制度整備を進めていますが、潮力発電に対して固定価格買取制度(FIT)などの導入は進んでおらず、ビジネスモデルの確立が課題です。
詳細:再エネ特措法とは?2024年の改正ポイントを解説|丸紅新電力
その中で、2025年に始まった長崎県五島沖での実証運転は、民間主導かつ電力網接続まで含めた本格的な取り組みとして注目されています。今後のデータ分析によって、潮力発電の経済性や安定供給への可能性が見極められる段階に入っています。
まとめ
潮力発電とは、海の満ち引きによる潮流を利用して電力を生み出す再生可能エネルギーです。天候の影響を受けにくく、安定した発電が可能である一方、設置場所の制約や高コスト、海洋環境への影響といった課題も抱えています。
こうした特性や現状を正しく理解したうえで、これからは再生可能エネルギーの可能性と課題の両面に目を向けながら、環境にやさしい未来のあり方を考えていきましょう。また、下記の記事では他の再生可能エネルギーについて基礎知識から解説しているため、もっと学びたい方は併せてご覧ください。




















