【専門家監修】長く愛されるスポーツの4つの秘密|サステナビリティ×ビジネスを考える

健康・ウェルネス
【専門家監修】長く愛されるスポーツの4つの秘密|サステナビリティ×ビジネスを考える

Contents

小さい頃から親しんできたサッカーや野球、バスケットボールといったスポーツ。日常に浸透し、私たちの身体を鍛えたり友達と遊んだりするものとして活躍してきました。自分の部活動の記憶や、ワールドカップ・甲子園の名シーンを思い出すかもしれません。

しかし、こうしたスポーツは長い歴史のなかで、どのようにして人々の生活の中で生き残り続けてきたのでしょうか。100年以上の歴史を持ちながら今もなお世界を熱狂させています。このなかで一時的に流行して消えたスポーツもあるため、両者には明らかな違いがあるといえるでしょう。

米国のGrand View Researchによると、スタジアムのDXや選手データ解析、ファン向けアプリなどを含む「スポーツテック市場」は2024年に約188億ドル、2030年には6,172億ドル規模へと年率約22%で成長する見通しも示されています

スポーツは「感動の舞台」であると同時に、世界的な成長産業であり、各国にとって重要な社会インフラでもあります。この記事では、以下の4つのポイントから「なぜこのスポーツは愛されるのか?」を考えます。

  • 参加のしやすさ
  • ルールのわかりやすさ
  • ナショナルイベント化
  • 商業インフラ(お金とメディアの仕組み)

同時に、企業がスポーツをサステナブルな取り組みとして活用していくためのヒントや、スポーツビジネスに携わる方に向けた「投資すべきポイント」も整理します。持続可能なスポーツ文化、またこれからのスポーツコンテンツの動向が気になる方はぜひお読みください。

関連記事

スポーツ×SDGsの取り組み事例|代表的な企業や団体を徹底解説
スポーツ×SDGsの取り組み事例|代表的な企業や団体を徹底解説

3.すべての人に健康と福祉を12.つくる責任つかう責任

スポーツの寿命を決めるのは「参加のしやすさ」である

スポーツの寿命を決めるのは「参加のしやすさ」である

長く続くスポーツの条件として、まず最初に挙げたいのが「参加のしやすさ」です。

サッカーを例に考えてみましょう。

正式なルールではピッチの広さやゴールのサイズが細かく決められていますが、子どもたちが公園でボールを蹴って遊ぶとき、細かな規定を気にする人は多くありません。ランドセルをゴール代わりに置いて、人数が揃わなければ3対2でも4対1でも、とにかくゲームは成立します。「ボールひとつと、少しのスペースさえあればできる」という点が、サッカーの圧倒的な強みです。

バスケットボールも同じです。リングさえあれば1人でもシュート練習ができ、2人いれば1on1、3人いれば3on3ができます。正式な5人制の試合でなくても、「遊びとしてのバスケ」が街中で自然に広がっていきます。

こうしたスポーツは、「競技としてのフォーマルな姿」と「遊びとしてのインフォーマルな姿」の距離が近いという共通点があります。ここに、長寿スポーツの重要な条件があります。

「道具・場所・仲間」の3つも重要

スポーツへの参加のしやすさに加えて、スポーツに参加するハードルを決めるのは、次の3要素です。

1.道具のハードル

  • ボールやラケット、シューズなどが安価かどうか
  • 特殊な装備を必要としないか(装備一式が必須だと高コストになりがちです)

2.場所のハードル

  • 公園、空き地、学校の校庭など、日常の延長でプレーできる場所があるか
  • 専用施設を必要としないか(アイスリンクや特別な専用コートなど「専用施設」が不可欠だと裾野は狭くなります)

3.仲間のハードル

  • 少人数でもゲームが成立するか
  • 1人でも練習しやすいか(壁当て、ドリブル練習など)

テニスは本来コートが必要なスポーツですが、ラケットと柔らかいボールがあれば、校庭や駐車場の一角でもラリー遊びができます。クリケットも、植民地時代から「棒とボール」があれば路上で遊べるスポーツとして広まりました。

一方で、アイスホッケーやアメリカンフットボールのように、設備・人数・防具が揃わないと成立しにくい競技は「トップレベルでは非常に魅力的」でも、裾野の広がりという点ではどうしても制約を受けやすくなります。

「遊びとして広がること」が、競技としての寿命を伸ばす

長く愛されるスポーツは、競技としての仕組みが整う前に、あるいはそれと並行して「遊び」として地域や世代を超えて広がっているケースがほとんどです。

  • 子どもの「放課後の遊び」
  • 休日の草野球チームやフットサルチーム
  • 大人になってからのサークル・社会人リーグ

こうした日常の中の接点が、ファンの基礎人口を長期的に支えます。

実際、日本のスポーツ参加状況をみると、笹川スポーツ財団の「スポーツライフ・データ2024」では、18歳以上のうち過去1年にスポーツ・身体活動を行った人は7割前後、週2回以上の実施者は約45.1%、SSF独自指標で“アクティブ層”(運動の頻度・強度が特に高い層)とされる人は18.3%とされています。

ただし、一方でコロナ前水準から完全には戻り切っていない可能性も指摘されており、「継続して参加してもらう仕組みづくり」が引き続き課題であることがうかがえます。

参加のしやすさは、人類にとっての健康と社会にどのような意味を持つか

参加しやすいスポーツが社会にもたらす価値は、健康や医療、サステナビリティの観点からも重要です。

実は、WHOや日本の厚生労働省も、運動の重要性を明確な数値で示しています。

  • WHO推奨: 週150分〜の中強度の運動が、生活習慣病のリスクを大幅に下げる。
  • 国内ガイド: 運動量が多いほど、うつ病や認知症のリスクまで低減する。

特に注目したいのが、「週150分のウォーキングやヨガで、死亡リスクが約31%も低下する」という疫学研究の結果です。これは単なる健康管理の域を超え、社会全体の医療・介護コストの抑制、ひいては労働生産性の維持に直結する「サステナビリティ(持続可能性)」の鍵といっても過言ではありません。

企業にとっても、この知見を無視する手はありません。フットサルやウォーキングチャレンジといった「誰でも参加できる(=ハードルの低い)」スポーツを福利厚生に取り入れることは、単なるコストではなく、将来への投資です。

参加率と継続率にこだわった「ゆるいスポーツ」の導入こそが、社員の幸福度と会社の業績を同時に高める近道になるはずです。

「ルールのわかりやすさ」の重要性

「ルールのわかりやすさ」の重要性

次に重要なのは、「ルールのわかりやすさ」です。下記で詳しく説明します。

スポーツへのライト層を呼び込み続けられる

サッカーの試合を初めて観る人を想像してみましょう。細かいオフサイドのルールなどは分からなくても、「相手ゴールにボールを入れたら1点」「点数が多いほうが勝ち」という基本原則さえ分かっていれば問題ありません。

ゴールシーンで一緒に喜び、惜しいシュートで「ああー」と声が出ます。観戦体験の大部分は、それだけで成立します。バスケットボールも同じです。リングにボールが入れば得点が入り、時間内に多く得点したほうが勝ち。3ポイントラインやファウルの種類が分からなくても、試合の流れはなんとなく追えます。

「初見のライト層が、最低限のルールで楽しめるかどうか」は、長期的なファン人口を維持するうえで極めて重要です。

実際、ルールが比較的シンプルなスポーツほど言語や文化を越えて「初見でも楽しめる」ため、視聴者規模も自然と大きくなりやすい傾向にあります。

複雑なスポーツはどうやってライト層を取り込んでいるか

一方で、ルールが複雑なスポーツも少なくありません。

クリケット、ラグビー、アメリカンフットボールなどは、ポジションの役割や反則の種類、時間の使い方などを理解するまでに一定の学習コストがかかります。それでも、これらの競技も長い歴史を持ち、熱狂的なファンを抱えています。その背景には、いくつかの工夫があります。

  • ショートフォーマットの導入 – クリケットでは、試合時間を短縮した「T20」という形式が登場し、テレビ向け・新規ファン向けのコンテンツとして成功しています。
  • 分かりやすい解説・実況 – ルール説明を織り交ぜながら観戦をナビゲートする解説スタイルが定着しています。
  • 図解・アニメーションを使ったルール紹介 – TVやSNSで、プレーの意義や戦術を視覚的に説明するコンテンツが増えています。

ラグビーを見ても、2023年フランス大会は全プログラムの総視聴時間が13.3億時間と、過去のラグビーイベントで最多となりました。[11]ルール自体は難しくても「魅力が伝わる編集・解説」を重ねることで、視聴者を増やしている代表例だと言えるでしょう。

重要ポイント|ルールの「核」と「変えられる部分」を分けておく

長く続くスポーツは、ルール設計にも「核」と「変化可能な部分」のレイヤーが存在します。

  • 核となる部分 – どうすれば得点が入るのか、勝敗がどう決まるのか
  • 変化可能な部分 – 試合時間の長さ、延長戦やタイブレークのやり方、選手交代枠の数

テニスを例に取ると、ポイントの数え方(15・30・40)は一見独特ですが、「相手コートに打ち返せなければポイント」というルールの核は非常にシンプルです。近年は試合時間をコントロールするために、ノーアドバンテージ方式(デュースを1ポイントで決着させる)や、タイブレークの導入など、周辺ルールが柔軟に変えられています。

これから新しいスポーツやリーグを設計する場合も、「この部分は100年変えない」「この部分は時代に合わせて変えていく」という設計思想を最初から持っておくことが重要です。

【コラム|専門家の視点】ルール改正の公平性をどう担保するか

「長く愛されている競技は、ルールの改正プロセスも透明化されています。国際的に広まっている競技のルールを改正する際には、その競技の国際的な統括団体において、一国一票の投票に基づく多数決により決定されます。一部の国で恣意的な変更がなされることなく、適切な手続についてのガバナンスが効いているかどうかも、その競技のサステナビリティ(公平性への信頼)を左右します。一部の新興スポーツやローカルスポーツでは、そのようなガバナンスが十分に機能していない例も見受けられます」(スポーツ法務専門家・トップランナー法律事務所 田中尚幸弁護士)

企業とリーグに求められる「ルールの伝え方」

ルールのわかりやすさは、競技そのものだけでなく「どう伝えるか」というコミュニケーション設計にも左右されます。

  • 初めて観るファン向けの解説記事や動画
  • SNSでのショートクリップ+図解
  • スタジアムでのビジョン解説
  • 子ども向けのルールブックやマンガ

企業がスポンサーとして関わる際にも「自社メディアで分かりやすいルール解説コンテンツを制作し、ファン育成に貢献する」といった関わり方が考えられます。単にロゴを出すだけでなく「競技の入り口を広げる役割」を担うスポンサーは、ファンからも選手からも支持されやすくなります。

スポーツが長く愛される大きなカギは「国民的行事」化

スポーツが長く愛される大きなカギは「国民的行事」化

ワールドカップ、オリンピック、WBC、ラグビーW杯、甲子園。こうした大会が開催されると、普段サッカーやラグビーを観ない人でも、同僚や家族と一緒にテレビの前に集まります。

これが、「ナショナルイベント化」の力です。

国民的行事(ナショナルイベント)化の強み

ナショナルイベントになると、下記のようなメリット・魅力が生まれます。

  • 短期間に試合が集中して行われる
  • 勝ち負けが分かりやすいトーナメント形式
  • 国や地域を代表して戦う「代表チーム」が登場する
  • メディアが集中的に取り上げ、街の雰囲気そのものが変わる

FIFAの発表によると、前述のとおりカタールW杯2022には世界人口の約6割に相当する約50億人がなんらかの形で関与し、決勝戦は約15億人が視聴しました。

ラグビーW杯2023も、累計視聴時間13.3億時間と過去最高を記録し、「ラグビー史上もっとも観られたイベント」とされています。こうした「お祭り」の場面で、普段スポーツに関心が薄い層までが一斉にスポーツに触れることになります。これは中長期的なファンの種まきとして非常に大きな意味を持ちます。

経済波及が大きく、都市・地域が「ブランド」になる

ナショナルイベントは、経済にも大きなインパクトを与えます。

各国の研究では、オリンピックやワールドカップのようなメガスポーツイベントが、観光・ホスピタリティ・インフラ投資などを通じて、開催都市に数十億〜数千億円規模の経済効果をもたらしうることが繰り返し報告されています。

また、スポーツツーリズム全体で見ると、米国の調査では観戦を目的とするスポーツツーリズムだけで年間471億ドルの直接支出、総経済効果は1,144億ドル、約66万人の雇用を支えているとされます。

直近でも、ゴルフの全英オープンが開催地の北アイルランド経済に約2.8億ポンド(約369億円)の経済効果をもたらしたという分析が出ています

もちろん、経済効果は「期待値」が過大になりがちだという批判も多く、冷静な評価が必要です。それでも適切に設計されたイベントは、観光・都市ブランド・インフラ整備を含めた長期的なレガシーを残し得るという点は、様々な研究が共通して指摘しています。

好影響の一方で、SDGsへの課題もある

しかし、ナショナルイベントと化したスポーツは、社会のサステナビリティの観点からさまざまな問題に直面しています。その最たるものの一つが「気候変動」の問題です。

近年のスポーツイベントでは、下記のような取り組みが増えています。

  • 再生可能エネルギーの活用
  • プラスチックごみ削減やリユースカップの導入
  • 公共交通機関利用の促進
  • カーボンオフセットやグリーン電力の導入

同時に、気候変動がスポーツそのものの持続可能性に影響し始めていることも無視できません。近年の研究では、熱波や極端な高温により、屋外スポーツ活動にとって安全とされる気温・湿度の範囲を超える日数が21世紀後半に大きく増加する可能性が示されています。

また、別の分析では、今世紀末までにオリンピックのマラソンを安全に開催できる都市が世界全体で27%減少する可能性があるという試算もあります。

さらに、テニスやクリケットなどで猛暑による選手の体調不良、ゴルフやマラソンの大会が頻繁に中止・短縮されるなど、気候変動が大会運営に大きな影響を与え始めているという報告も増えています。

つまり、スポーツは「環境負荷を生む主体」であると同時に、「気候変動の被害者」でもあるのです。企業がスポンサーとして関わる場合、こうした環境リスクを見据えたイベント設計や、温暖化対策とセットの支援は、ブランド価値と社会的プレゼンスの双方を高める重要なテーマになっていくでしょう。

商業インフラ:お金とメディアがスポーツを持続可能なコンテンツにする

商業インフラ:お金とメディアがスポーツを持続可能なコンテンツにする

スポーツが100年単位で続いていくためには、「感動」だけでは足りません。選手やチーム、リーグ、スタジアムを支えるための持続可能なビジネスモデルが必要です。

スポーツを支える「4つの収益源」

現代のスポーツビジネスは、概ね次の4つの収益源で支えられています。

  • 放映権・配信権テレビ局や配信プラットフォームからの権利料
  • スポンサーシップ・広告 – ユニフォームやスタジアム、公式パートナーとしての協賛
  • チケット・スタジアム体験 – 入場料、VIP席、飲食、グッズ販売
  • ライツ・デジタルコンテンツ・グッズ – ユニフォームレプリカ、キャラクター商品、映像コンテンツ、デジタルカードなど

世界全体で見ると、前述のようにスポーツ産業の売上は5,210億ドル(2024年)規模で、年平均8%成長とされています。その中でも、デジタルテクノロジー関連の市場は2030年までに年率20%前後で伸びると予測されており、スタジアムDX、ファンアプリ、データ解析などへの投資が拡大しています。

この4つの収益源が安定して回ることで、クラブやリーグは育成年代への投資、スタジアムの改善、地域への還元などに資金を回すことができます。

メディア環境の変化と「編集可能なIP(自社商品)」としてのスポーツ

ここ20〜30年で、スポーツを取り巻くメディア環境は大きく変わりました。

  • 地上波テレビ中心 → 衛星放送 → 有料チャンネル
  • さらに、ネット配信、SNS、ショート動画へ

しかし、その中で変わらないのは、「スポーツが生み出す物語と映像が、多様な形で再編集され続けている」という事実です。サッカーのゴールシーン、バスケのダンク、テニスのスーパーショット。かつてはニュース番組やハイライト番組でしか見られなかったものが、今ではSNSで数秒のクリップになり、世界中で共有されています。

このとき重要なのは、スポーツ側が「自らのコンテンツを編集し直しやすい権利・データ構造を持っているかどうか」です。

  • 試合映像の権利をどこまで自分たちが持つのか
  • 選手やチームのデータをどう管理し、どう共有するのか
  • ファンやメディアが二次創作しやすいガイドラインを出せているか

スポーツを「編集可能なIP(知的財産)」として設計しておくことが、これからの100年を生き残るうえで非常に重要です。

【コラム|専門家の視点】「守り」から「攻め」の法務戦略へ

余暇の時間の多くをSNSを見て過ごす人がこれだけ増えてきた現在では、IPを自ら活用するにとどまらず、主にファンによってSNS上で拡散される方が認知・露出を増やせます。そのため、短時間の動画の撮影・アップロード等を許容するといった競技が多くみられるようになってきました。今後、この流れはより加速することが予想されます。」(スポーツ法務専門家・トップランナー法律事務所 田中尚幸弁護士)

商業的成功とスポーツの純粋性のバランスは重要

商業インフラが整うことはスポーツにとって必要ですが、一方で、「ビジネス色が強まりすぎることの副作用」も存在します。

  • 試合数の増加による選手の疲弊や怪我リスクの増大
  • 人気チームへの資金集中によるリーグ格差の拡大
  • 放映権料を優先した過密日程・深夜キックオフなど、ファンや選手に負担の大きいスケジュール

短期的な収益を優先しすぎると、長期的にはファン離れや競技人口の減少を招きかねません。

ここで必要になるのが、サステナビリティの視点を組み込んだ「商業インフラの設計」です。

  • 選手の健康を守るルール改定
  • リーグ全体としての収益分配や下部クラブへの支援
  • チケット価格の適正化と、若い世代・子どもが観戦しやすい施策

企業やリーグに求められるのは、「スポーツを短期のビジネスではなく、長期の社会的資産として育てる」という姿勢です。

サステナビリティの視点(ESG)から見る「長く愛されるスポーツ」

サステナビリティの視点(ESG)から見る「長く愛されるスポーツ」

近年、企業経営ではESG(環境・社会・ガバナンス)やサステナビリティが重視されています。実は、長く愛されるスポーツとサステナブルな企業には共通点が多くあります。

  • 長期的な視点で価値を創造している
  • 多様なステークホルダー(ファン、選手、地域、スポンサーなど)と関係性を築いている
  • 信頼が何よりも重要な資産である

スポーツは、もともと短期的な勝敗に一喜一憂する存在でありながら、その根底には「長期で競技や文化を育てていく」という視点が欠かせません。

そこで、この記事では「二重のサステナビリティ」という考え方を置きます。

競技としてのサステナビリティ

  • 参加のしやすさ、ルールのわかりやすさ、ナショナルイベント化、商業インフラなど
  • 競技自体が長く続くための構造

社会・地球に対するサステナビリティ

  • 健康増進、コミュニティ形成、多様性の尊重、環境負荷の低減、ガバナンスの健全性など
  • スポーツが社会に与えるインパクト

長く愛されるスポーツほど、この二つのサステナビリティを同時に満たしている、というのがearth-ism編集部が考える仮説です。

1. 【Environment】スポーツは「被害者」であり「加害者」でもある

スタジアムに集まる何万人もの熱気は感動を生みますが、同時に膨大なエネルギー消費やCO2排出、廃棄物という課題も生んでいます。

しかし今、深刻なのは「気候変動がスポーツを奪おうとしている」という現実です。 研究によると、今世紀末にはオリンピックのマラソンを安全に開催できる都市が今の7割程度にまで減ってしまうという予測もあります。すでに熱波によって、テニスやクリケットの試合が中断されるケースも珍しくありません。

スポーツが「環境負荷を抑える主体」へと進化することは、自分たちのプレーする場を守るための、切実なサバイバル戦略なのです。

2. 【Social】「誰もが主役になれる」場所としての力

社会の視点で見ると、スポーツはもともと「人をつなぐ力」に優れています。

  • 子どもの健全な成長の場
  • 地域コミュニティの交流の場
  • 高齢者の健康づくり・生きがいの場
  • 障がいのある人の活躍の場(パラスポーツ)

東京都の調査では、都民の約66%が週1回以上スポーツを楽しんでおり、パラスポーツへの関心も4割を超えています。最近では女子プロリーグの躍進や、LGBTQ+アスリートの活躍など、多様性を象徴するシーンも増えました。

企業がこうした「インクルーシブ(包摂的)なスポーツ」を支援することは、単なる社会貢献ではありません。「誰もが自分らしく輝ける社会を目指す」という企業の姿勢を、最もダイレクトに伝えるメッセージになるのです。

3. 【Governance】不祥事にどう向き合うか

どんなに素晴らしい競技でも、不祥事やハラスメント、不透明な組織運営が起きれば、ファンの信頼は一瞬で崩れてしまいます。

「長く愛されるスポーツ」の共通点は、問題が起きないことではなく、「起きた時にどう向き合うか」にあります。外部の目を入れた徹底的な検証や、透明性の高い情報公開。この「ガバナンス(統治)」の姿勢こそが、信頼のベースとなります。こうした出来事への対応は、競技やリーグへの信頼を左右する重大なポイントです。

ここで重要なのがスポンサー企業の役割です。単なる資金提供者ではなく、時に厳しい視点を持ち、共により良い組織づくりを促すパートナーであること。その関わり方が、スポーツ界全体の健全な成長を支えるエンジンになります。

関連記事

ESG投資とは|2025年の最新動向とメリット・デメリットを徹底解説
ESG投資とは|2025年の最新動向とメリット・デメリットを徹底解説

13.気候変動に具体的な対策を17.パートナーシップで目標を達成しよう

【コラム|専門家の視点】コンプライアンスが機能しない競技の未来

多くの競技団体・チーム等においては、お金も人手も十分にないため、当該競技の経験者が、十分な報酬をもらうこともなく、半ばボランティアでその運営に当たっています。そのため、閉鎖的なコミュニティになりがちで、内部の論理でものごとを進めた結果、不祥事・炎上に至るケースもみられます。本来、予防的な観点で法務の専門家を入れることが望ましいですが、少なくとも問題が起きてしまった際には、適切な専門家に相談し、対応することが必要です。今後、人口減少に伴う競技人口の減少がほぼ確実に予想される中、コンプライアンスが十分に機能しない競技は、その存続さえも危ぶまれることになります」(スポーツ法務専門家・トップランナー法律事務所 田中尚幸弁護士)

リーグ・クラブや企業は何を重視してスポーツビジネスへ投資するべき?【チェックリスト】

リーグ・クラブや企業は何を重視してスポーツビジネスへ投資するべき?【チェックリスト】

ここまで見てきたように、「長く愛されるスポーツ」には、下記4つの土台がありました。

  1. 参加のしやすさ
  2. ルールのわかりやすさ
  3. ナショナルイベント化
  4. 商業インフラ(ビジネスモデル)の整備

では、スポーツビジネスに携わるリーグ・クラブ、そして企業は、具体的にどこに投資していくべきでしょうか。以下で、この記事で解説したことをまとめてチェックリストにしてみました。ぜひ投資を検討する際には参考にしてみてください。

リーグ・クラブ側のチェックリスト

参加のしやすさに関する投資

  • キッズ・ジュニア世代の普及プログラム
  • 学校・地域クラブとの連携強化
  • 女性やシニア向けの入門プログラムの整備
  • 用具メーカーと連携した低価格のスターターセット

ルールのわかりやすさに関する投資

  • 初心者向けルール解説コンテンツ(動画・マンガ・インフォグラフィック)
  • スタジアムでのライブ解説やスマホ連動の情報配信
  • SNSでのショート動画+解説テキストのセット発信

ナショナルイベント化に関する投資

  • 年に一度の「お祭り」的イベントの設計(ファイナル、オールスターなど)
  • 地域を巻き込んだパブリックビューイングやファンフェス
  • 地方開催や巡回イベントなど、「会いに行けるスポーツ」の設計

商業インフラに関する投資

  • 放映権・配信権の戦略的な設計(独占契約か、複数プラットフォーム展開か)
  • チケット価格のダイナミックプライシングや、ファミリー・学生向けの特別料金
  • グッズ開発・ECプラットフォームの整備
  • ファンIDを軸としたデータ基盤の構築(来場履歴・購買履歴・オンライン行動の統合)

企業スポンサー側のチェックリスト

単なるロゴ露出から「共創」へ

  • 単なる看板広告やユニフォームロゴではなく、ルール解説や選手のストーリー紹介など、「スポーツの理解を深めるコンテンツ」の共創
  • 普及活動・地域プロジェクト・環境施策など、「スポーツを通じた社会課題解決」の共創

社員・ステークホルダー向けの活用

  • 社員参加型のスポーツイベントや観戦ツアー
  • 健康経営プログラムとしてのスポーツ利用(ウォーキングチャレンジ、社内リーグなど)
  • パートナー企業・顧客とのスポーツを通じた関係構築

ESG・サステナビリティとの連動

  • 環境配慮型イベントの実施(再エネ、プラ削減、公共交通利用の促進など)
  • 多様性・インクルージョンをテーマにしたスポーツプログラム(女子スポーツ、パラスポーツ支援など)
  • ガバナンス強化に向けた取り組みの支援(ハラスメント防止研修、倫理規程の整備など)

100年後も続くスポーツ|スポーツの「サステナビリティ・スコア」で未来を可視化する

100年後も続くスポーツ|スポーツの「サステナビリティ・スコア」で未来を可視化する

最後に、スポーツを評価する新しい指標を、earth-ism独自に考えたイメージを紹介したいと思います。

「ゲームのDNA」と「二重のサステナビリティ」を統合したスコア

「ゲームのDNA」と「二重のサステナビリティ」を統合したスコア

仮に、各スポーツについて次のような項目を5点満点などでスコア化したとします。

ゲームのDNA(競技としてのサステナビリティ)

参加ハードル
道具コスト、場所の柔軟性(公園や空き地でできるか)、少人数でも成立するか

ルールの直感性
初見で「なんとなく」理解できるか、シンプルな勝敗構造か

ナショナルイベント性
世界大会や国内大会が「お祭り」として機能しているか、世代を超えた物語の蓄積があるか

商業インフラ
安定したリーグ構造と収益源があるか、育成や地域還元に再投資できているか

社会・地球に対するサステナビリティ

健康・参加貢献
参加人口、ライフステージを通じた健康への寄与

インクルージョン・コミュニティ
女性・子ども・高齢者・障がい者など、多様な人が関われるか

環境配慮
気候リスクへの適応、スタジアムやツアーの環境負荷低減の取り組み

ガバナンス・信頼性
不祥事への対応、透明性、説明責任

この8つの項目を合計したものを、仮に「スポーツ・サステナビリティ・スコア」と名付けます。

重要なのは、「スポーツに規制を掛けるための指標」ではなく、「スポーツにプラスαの価値を付与して見える化するための指標」だという点です。スコアが低いから悪いのではなく、

  • どの競技が、どの軸で強みを持っている
  • どの競技に、どのような投資余地や改善余地があるか

を前向きに発見するツールとして使います。

スポーツビジネス側であれば、自分たちのリーグやクラブがどの項目に強く、どの項目が弱いのかを把握することで、中長期の戦略立案や投資判断の材料にできます。

企業側であれば、自社のサステナビリティ戦略と親和性の高いスポーツを選ぶ際の「羅針盤」として活用できます。

まとめ|スポーツを通じて、「長く続くビジネス」と「持続可能な社会」を考える

まとめ|スポーツを通じて、「長く続くビジネス」と「持続可能な社会」を考える

これからの100年は、人口構造、テクノロジー、環境問題など、社会の前提が大きく変わっていく時代です。その中で、「人が集まり、感情を共有し、共通の物語を持てる場」としてのスポーツの価値は、むしろ高まっていく可能性があります。

スポーツビジネスに携わる方にとっては、「今の収益」だけでなく、「次の世代、その次の世代がこのスポーツをどう受け取るか」まで視野に入れた設計が求められます。

企業にとっては、スポーツへの投資を「CMの延長」ではなく、「事業・人材・地域・環境・社会をつなぐ、長期のパートナーシップ」として捉えることで、スポーツと企業の双方にとって豊かな未来を描くことができるはずです。

「長く愛されるスポーツ」の条件を考えることは、同時に、「長く続くビジネス」や「持続可能な社会」の条件を考えることでもあるのです。ぜひ、今からスポーツの持続可能性について考えてみませんか?

関連記事

SDGsとは?概念や17の目標・取り組みを分けてわかりやすく徹底解説
SDGsとは?概念や17の目標・取り組みを分けてわかりやすく徹底解説

全て

この記事をシェアする

TAGS

この記事を書いた人

監修者

Check more...

ユニークな福利厚生の事例10選!香水をはじめとしたサステナブルな取り組みを紹介

ユニークな福利厚生の事例10選!香水をはじめとしたサステナブルな取り組みを紹介

犬の熱中症対策は現在特に必須!ペットウェルネス時代の備え方

犬の熱中症対策は現在特に必須!ペットウェルネス時代の備え方

ハッカ油は体に塗っても大丈夫?安全性と正しい使い方を解説

ハッカ油は体に塗っても大丈夫?安全性と正しい使い方を解説

公害に挑んだ偉人を紹介|日本の公衆衛生を変えた告発者たち【第三弾】

公害に挑んだ偉人を紹介|日本の公衆衛生を変えた告発者たち【第三弾】