日本の教育格差の現状と差がつく地域|原因や解決方法も詳しく解説【2025最新】


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「努力すれば報われる」ことは、もはや当たり前ではありません。
塾に通えない子ども、ICT環境がない家庭、進路相談に乗れる大人が周囲にいない地域。日本においても、子どもの「学ぶ権利」は経済力・地域・家庭の事情によって左右される現状があります。
教育新聞が2025年に実施した調査では、半数の子どもが教育格差を実感していることが明らかになりました。また、日本の子どもの相対的貧困率は11.5%(2021年)に達し、7人に1人の子どもが標準的な教育機会を受けられない状況にあります。
この記事では、日本における教育格差の現状・背景・そして私たちにできることを、最新データとともに解説します。親として、地域の一員として、この問題にどう向き合っていけばよいのかを一緒に考えていきましょう。


日本における教育格差の現状とは?
「うちの子は大丈夫」「地方だから関係ない」と思っていませんか?まずは現状を正しく把握することから始めましょう。
子どもの学力と「家庭の年収」の関係
文部科学省が実施した「全国学力・学習状況調査」(2023年)の結果によると、世帯年収600万円未満の家庭の子どもは、600万円以上の子どもに比べて学力テストの正答率が低い傾向が明確に表れていることが分かりました。特に理科・数学の正答率に顕著な差が見られ、これは家庭での学習支援環境の差が影響していると考えられています。
この差は単なる「勉強時間の違い」ではありません。家庭での教材の充実度、保護者が学習をサポートできる時間や知識、塾や習い事への投資額など、複合的な要因が重なって生まれているのです。
例えば、年収300万円の家庭と年収800万円の家庭では、子どもの教育にかけられる費用は年間で数十万円の差が生じます。この積み重ねが、小学校から高校まで12年間続くことを想像してみてください。
大学進学率にも地域差・家庭差がある
教育格差は学力だけでなく、将来の進路選択にも大きな影響を与えています。
都市部では大学進学率が60%を超える高校もある一方、地方や経済的困窮世帯では進学率が30%以下のケースも珍しくありません(文部科学省「高等教育の現状」2023年)。
この差の背景には、単純な学力の違いだけでなく、経済的な要因も大きく関わっています。国公立大学よりも学費の高い私立大学への進学が困難で、結果として進路選択の幅が狭まる子どもも少なくないのが現実です。
また、地方では大学そのものの数が限られているため、進学するために家を離れる必要があり、住居費や生活費も含めた経済的負担がさらに重くなります。「勉強ができても、お金がないから諦める」という子どもたちが確実に存在しているのです。
見えにくい貧困の実態
厚生労働省が2023年に公表した報告書によると、日本の子どもの相対的貧困率は11.5%(2021年)。これは約7人に1人の子どもが、その社会で標準的とされる生活を送ることができない状況にあることを意味します。
公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」によると、親子2人の場合、毎月約14万円以下で暮らしている状況が相対的貧困の目安となります。
しかし、この相対的貧困にある子どもは外見では分かりにくいため、問題が見過ごされがちです。実際に、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2024年に実施した調査では、日本の子どもの貧困について「聞いたことがない」と答えた大人が48.9%に上り、社会的関心の低下が懸念されています。
教育格差が生まれる要因は何か?
教育格差は一つの原因から生まれるものではありません。経済、地域、デジタル環境など、複数の要因が複雑に絡み合って問題を深刻化させています。それぞれの要因を詳しく見ていきましょう。
1. 経済的格差
最も直接的で分かりやすい要因が経済格差です。しかし、その影響は想像以上に広範囲に及んでいます。
塾や通信教育、習い事にかけられる費用は世帯年収に比例します。文部科学省の調査によると、年収が高い家庭ほど子どもの校外学習費(塾代など)が多く、その差は年間で数十万円にも及びます。
高校無償化や奨学金制度があるものの、「入学前納付金」など初期費用の壁も依然として大きな問題です。大学受験では、受験料だけでも複数校受験すれば数十万円かかり、入学金や前期授業料の納付期限は合格発表から数日という場合が多く、経済的に余裕のない家庭では選択肢が大幅に制限されます。
また、日常的な学習環境も経済力に左右されます。静かな個室、十分な照明、参考書や辞書、パソコンやタブレットなど、学習に適した環境を整えるのにも費用がかかります。
2. デジタル格差(ICT格差)
コロナ禍で一気に注目されたのがデジタル格差です。GIGAスクール構想により1人1台端末は整備されましたが、新たな格差も生まれています。
家庭での通信環境や保護者のICTリテラシー格差が学習機会に大きく影響しているのです。高速インターネット回線、Wi-Fi環境、故障時の対応など、ICT機器を効果的に活用するための基盤は家庭によって大きく異なります。
オンライン学習やリモート授業を受けられない環境が、学力差を生んでいます。
特にコロナ禍の長期休校期間中、東京大学大学院の中村高康教授らの研究では、家庭学習で課された宿題について「よく分からなかった」と答えた子どもの割合は、非大卒の親が多い家庭ほど高く、親がシングルマザーで非大卒の世帯ではさらに高くなる傾向があることが明らかになりました。
3. 地域による教育機会の違い
地方では都市部とは異なる深刻な課題を抱えています。
教員不足や学校統廃合により、地方では選べる学校・学習機会が制限されています。特に高校では、「普通科縮小」や専門学科再編で、進学先そのものの選択肢が狭まる地域も増加しています。
地方では塾や予備校の選択肢も限られ、質の高い教育サービスにアクセスしにくい現状があります。オンライン教育の普及により改善の兆しは見えるものの、まだまだ都市部との差は大きいのが実情です。
教育格差の影響は”今”だけじゃない
教育格差がもたらす影響は、子どもの学力だけにとどまりません。その影響は生涯にわたって続き、社会全体にも波及していきます。
教育格差は、子どもの「学力」だけでなく、将来の収入・健康・就職・結婚など、人生全体に影響を及ぼします。
大学進学の有無は生涯年収に大きく影響します。これは単純な学歴の差ではなく、就職できる企業の選択肢、昇進の機会、転職の可能性など、キャリア全体に影響を与えるためです。教育機会の差は”自己肯定感の格差”にもつながります。「自分には無理」「どうせ貧乏だから」といった諦めの気持ち、いわゆる”教育諦念”が子どもの心に根深く刻まれてしまうのです。
この自己肯定感の低下は、将来への挑戦意欲や学習意欲の減退を招き、貧困の世代間継承を助長する要因となります。親の経済状況や学歴が子どもの将来を決定づけてしまう「格差の固定化」が進んでいるのです。
将来的には、社会全体の分断や経済停滞にもつながる可能性があるため、これは決して個人の問題にとどまりません。教育格差の拡大は、社会の活力や革新性を削ぎ、長期的には国家の競争力にも影響を与えかねない重要な課題なのです。
教育格差の”見えにくい”側面:路上にあふれる声なき子どもたち
教育格差の最も深刻な側面は、統計に表れない「見えない子どもたち」の存在です。学校から離れ、社会の周辺に追いやられた若者たちの現実を見つめることで、問題の本質が見えてきます。
トー横キッズや非行少年・少女
近年話題となっている「トー横キッズ」をはじめとする路上の若者たちの問題は、学力や家庭収入の格差以上に、「教育に意味を感じられない」ことが根底にあります。彼らの多くは、学校での学習についていけず、家庭でも十分なサポートを受けられないまま、学校外に”居場所”や”肯定される場”を求めて流れていくといわれています。
トー横などで支援を受ける若者の多くが、小中学校時代から不登校やいじめを経験し、高校も中退しているケースが目立ちます。彼らにとって学校は「居心地の悪い場所」であり、教育は「自分には関係のないもの」になってしまっているのです。
「学ぶ以前に、生きることが苦しい」
これらの若者たちの背景には、教育格差だけでなく”人生格差”とも呼べる深刻な問題があります。家庭の貧困、親の精神的問題、ネグレクトや虐待、地域コミュニティの希薄化など、家庭・学校・地域の複合的な困難が重なった末の逸脱行動なのです。
「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン実行委員会」が2023年12月に実施した調査では、虐待を受けた経験のある子どもの多くが学習意欲を失っていることも明らかになりました。生存や安全が脅かされている状況では、学習への意欲や集中力を保つことは極めて困難です。
教育格差の放置が生む「搾取される若者」
最も深刻なのは、教育格差により社会から取り残された若者たちが、犯罪組織や悪質な大人たちに利用されるリスクが高まっていることです。
SNSを通じた闇バイト・性搾取・詐欺への加担などの事件が相次いでいますが、これらの被害者の多くが教育機会に恵まれなかった若者たちです。正当な就労機会や将来への希望を見いだせない状況で、手軽な収入を得られる違法行為に手を染めてしまうのです。
社会からの放置が、結果的に加害者に若者を利用される構造を作り出しているという現実を私たちは直視しなければなりません。
現在取り組まれている教育格差是正の事例
絶望的に見える教育格差の問題ですが、全国各地で様々な取り組みが始まっています。行政、NPO、企業、地域が連携した事例から、解決への糸口を探ってみましょう。
自治体による先進的取り組み
まずは自治体の取り組みから紹介します。
東京都「スタディクーポン・イニシアティブ」
東京都が実施している最も注目すべき取り組みの一つが、経済的に困難な家庭の中高生に対し、塾や学習塾の費用を補助するクーポン制度です。
NPOカタリバと連携したこの制度は、2020年以降累計1万人以上が利用しており、確実に成果を上げています。単純な金銭給付ではなく、クーポン制にすることで、確実に教育費として使用される仕組みになっているのが特徴です。
利用者の追跡調査では、学習意欲の向上だけでなく、進路選択の幅が広がったと回答する生徒が多く、将来への希望を持てるようになったという声も寄せられています。
神奈川県鎌倉市「放課後エンパワーメント・プロジェクト」
鎌倉市は2024年9月から、市内在住で経済的に困窮している家庭の小中学生に対して、学習やスポーツ・文化活動、体験活動などに利用できるクーポンを提供する取り組みを開始しました。
この制度の画期的な点は、学習支援だけでなく、スポーツや文化活動まで含めた包括的な支援を行っていることです。子どもの多様な才能や興味を伸ばす機会を提供することで、学力以外の分野での自信や達成感を育むことを目指しています。
地域の課題に特化した支援
地域の課題に特化した支援としては、以下が挙げられます。
東京都新宿区「子ども総合センター」
新宿区では、福祉・教育・医療・心理などをワンストップで連携する体制を構築しています。特に注目すべきは、トー横など居場所のない若者へのアウトリーチ支援も実施していることです。
区独自でNPOと連携し、夜間支援活動も行っており、行政の枠を超えた柔軟な対応を実現しています。単純な学習支援だけでなく、生活支援、心理的ケア、将来の進路相談まで、包括的なサポートを提供しているのが特徴です。
大阪市「子ども・若者自立支援ルーム」
大阪市では、不登校・ひきこもり・非行など複合課題を抱えた若者のための行政支援拠点を設置しています。
学習支援、相談、就労支援を一体化し、さらに保護者へのカウンセリングや家族支援も重視している点が特徴的です。教育格差の背景には家庭の問題があることが多いため、子どもだけでなく家族全体を支援することで、根本的な解決を目指しています。
地方の課題解決モデル|島根県「オンライン塾 for 地方高校生
島根県の過疎地域を対象とした先進的な取り組みが、都市部の大学生がオンラインで個別指導を行うシステムです。
ネット環境と学習意欲があれば、どこにいても質の高い教育を受けられる仕組みを構築しており、地方の教育格差解消のモデルケースとして注目されています。指導を行う大学生側にとっても貴重な社会経験となり、win-winの関係を築いています。
企業による社会貢献
企業においては大手教育企業を中心に、教育困難家庭へのタブレット寄付、学習アプリの無償提供などの取り組みが広がっています。
これらの企業CSRとしての教育格差是正の取り組みは、単なる寄付にとどまらず、企業の持つノウハウや技術を活用した実効性の高い支援となっています。特にデジタル格差の解消において、民間企業の果たす役割は非常に大きくなっています。


日本の教育格差の現状に対して私たちができることは?
教育格差の問題は大きく複雑ですが、一人ひとりの小さな行動が積み重なることで、確実に変化を生み出すことができます。親として、地域の一員として、私たちにできることを具体的に考えてみましょう。
1. 正しい知識を持つこと
まず重要なのは、「自己責任論」ではなく、構造的な課題として教育格差を理解することです。
「努力が足りない」「親の責任」といった個人攻撃的な見方ではなく、社会全体の仕組みの問題として捉える視点が必要です。SNSやニュースの断片的な情報に流されず、統計や一次情報から判断する習慣を身につけましょう。
教育新聞などの専門メディアや、文部科学省、厚生労働省の公式データを定期的にチェックすることで、現状を正確に把握できます。また、地域の教育委員会が発行する資料なども貴重な情報源です。
2. 寄付・ボランティアで支援
直接的な支援として、寄付やボランティア活動への参加が挙げられます。
認定NPO法人カタリバ、Learning for All などが寄付や学習支援ボランティアを募集しており、月500円からの寄付でも、教材1冊分の支援につながります。
ボランティア活動では、学習支援だけでなく、子どもたちとの対話や相談相手になることも重要な役割です。専門的な知識がなくても、「話を聞く」「一緒に考える」ことで十分な支援になります。
また、地域の学習支援団体や放課後学習教室なども全国各地にあり、身近なところでボランティア活動を始めることができます。
3. 家庭・地域での「小さな声かけ」
最も身近で、しかし非常に効果的なのが、日常的な声かけです。
近所の子ども、親戚の子に「どんな勉強してるの?」「何か困ってることない?」と関心を持つだけでも十分な支援になります。
子どもたちにとって、「応援してくれる大人がいる」と思えることが、自己肯定感に直結します。進路の相談に乗る、参考書を譲る、勉強できる場所を提供するなど、できる範囲での支援を続けることが大切です。
また、保護者同士のネットワークづくりも重要です。子育ての悩みや教育に関する情報を共有することで、孤立しがちな家庭への支援にもなります。
4. 政治への参加
教育格差の根本的な解決には、制度や政策の改善が不可欠です。
選挙では教育政策を重視する候補者を選ぶ、地方議会の傍聴に参加する、議員との意見交換会に参加するなど、政治への関心と参加も重要な行動です。
また、自治体のパブリックコメントや教育委員会の会議など、市民が意見を述べる機会を積極的に活用することで、政策に反映させることも可能です。
まとめ:教育格差は、”見えにくい分断”を生む
教育格差は単なる学力の問題ではありません。それは社会の分断を生み、次世代の可能性を狭める深刻な課題です。
しかし、全国各地で始まっている様々な取り組みは、この問題が決して解決不可能ではないことを示しています。行政、NPO、企業、そして私たち一人ひとりの力を結集することで、すべての子どもたちが公平な教育機会を得られる社会を実現できるはずです。
「うちの子は大丈夫」ではなく、「地域の子どもたち皆が大丈夫」になるよう、私たち大人が協力していく必要があります。小さな一歩から始めて、子どもたちの未来を一緒に支えていきませんか。
FAQ(よくある質問)
Q1. 教育格差は昔からあったのでは?なぜ今問題になるの?
教育格差自体は確かに昔から存在していました。しかし、少子化やICT化、物価高騰などにより家庭ごとの格差が広がりやすくなっているのが現在の特徴です。
特に、かつて日本社会の安定を支えていた「中流家庭」の余裕が失われてきたことが大きく影響しています。非正規雇用の増加、共働き世帯の増加により、時間的・経済的に教育をサポートできる家庭が減少している現状があります。
また、デジタル化により新たな格差(ICT格差)も生まれており、従来とは異なる複雑さを持った問題となっています。
Q2. 教育格差は自己責任?努力すれば解決できるのでは?
確かに個人の努力は重要です。しかし、「努力できる環境」自体が平等ではありません。
例えば、家庭に静かな勉強スペースがない、保護者が夜遅くまで働いていて学習をサポートできない、参考書や問題集を買う余裕がないなど、努力以前の問題が多く存在します。
構造的な格差が前提としてあることを理解し、個人の努力と社会的な支援の両方が必要だという認識を持つことが重要です。
Q3. 自分にできる支援はありますか?
寄付やボランティアだけでなく、もっと身近な支援方法があります。
- 近所の子どもや親戚の子に関心を持ち、話を聞く
- 使わなくなった参考書や問題集を譲る
- 勉強できる場所(図書館の情報など)を教える
- 進路相談に乗る
- 子育て中の保護者同士で情報を共有する
関心を持つこと自体が、変化の種になります。完璧な支援を目指すのではなく、できる範囲から始めることが大切です。