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結婚をすると夫婦が同じ姓を名乗る「夫婦同姓」という制度。日本では法律で義務付けられているこの制度ですが、実は世界的に見ると例外的な存在です。
夫婦同姓は家族の一体感を生むという意見がある一方で、個人のアイデンティティやキャリアに悪影響を与えるなどの課題も指摘されています。この記事では、夫婦同姓の背景、メリット、問題点を詳細に解説するとともに、海外の事例を踏まえながらその是非を考えていきます。
3分で分かる日本の夫婦同姓

夫婦同姓とは、結婚した夫婦が同じ氏を名乗る制度のことです。日常的には「夫婦同姓」と呼ばれていますが、法律では「夫婦同氏」と表現されます。
ここからは、日本の夫婦同姓制度の内容や歴史的な経緯について詳しく見ていきましょう。
日本では、民法第750条により、結婚する夫婦は夫または妻のどちらか一方の「氏(うじ)」を選び、夫婦で同じ氏を名乗ることと定められています。そのため、結婚時には夫婦のどちらかが姓を変更する必要があります。
この制度は「夫の姓にしなければならない」というものではありません。夫婦が話し合いのうえで、夫の姓または妻の姓のいずれかを選択できます。ただし、現在の日本では、結婚時に夫婦がそれぞれ異なる姓を名乗る「選択的夫婦別姓制度」は導入されていないため、法律上は夫婦が同じ姓を使用することになります。
なお、日常会話では「姓(せい)」という言葉が一般的に使われますが、民法などの法律では「氏(うじ)」という用語が用いられています。
日本で夫婦が同じ姓を名乗る制度は、明治時代に整備された民法を経て現在の制度へと受け継がれています。
戦前の民法では「家制度」のもとで家を単位とする考え方が採用されており、婚姻によって妻が夫の家に入り、その家の氏を称するのが一般的でした。
しかし、第二次世界大戦後の1947年に民法が大きく改正され、家制度は廃止されました。これに伴い、男女平等の理念に基づいて夫婦は対等な立場で婚姻することとなり、結婚する際には夫または妻のどちらかの姓を夫婦の姓として協議のうえ選択する制度へと改められました。
つまり、現在の夫婦同姓制度は戦前の家制度がそのまま維持されたものではなく、戦後の民法改正によって内容が見直されたうえで採用されている制度です。一方で、夫婦が必ず同じ姓を名乗るという原則は維持されており、現在も民法第750条に基づき運用されています。

現在、日本では民法第750条により、結婚する夫婦は同じ姓を名乗ることが法律で定められています。世界を見ても夫婦が同じ姓を選ぶ国はありますが、法律によって夫婦同姓を義務付けている制度を採用している国は日本のみとされています。一方、多くの国では、結婚後に同姓・別姓・複合姓などを夫婦が選択できる制度が採用されています。
まずは、日本と主な国・地域の制度の違いを比較してみましょう。
| 国 | 婚姻後の姓の扱い | 同姓を選べるか | 別姓を選べるか | 複合姓などの選択肢 | 制度上の注意点 |
| 日本 | 夫婦同姓が法律で義務 | 〇 | ✕ | ✕ | 夫または妻の姓を選択 |
| 韓国 | 夫婦別姓が原則 | ✕ | 〇 | ✕ | 改姓不要 |
| 中国 | 夫婦別姓が原則 | ✕ | 〇 | ✕ | 改姓不要 |
| イギリス | 夫婦が自由に選択 | 〇 | 〇 | 〇 | ダブルバレル姓も一般的 |
| フランス | 婚姻前の姓を維持 | 〇 | 〇 | 〇 | 公的には婚姻前の姓を使用 |
| アメリカ | 夫婦が自由に選択 | 〇 | 〇 | 〇 | 州により制度が異なる |
韓国では、夫婦別姓が法律で義務付けられています。これは姓が個人のアイデンティティの重要な一部であり、同時に家族の伝統を守る意味合いもあります。結婚後も夫婦がそれぞれの姓を保持することが一般的で、改姓の必要がないため、手続きの負担や姓が変わることによるアイデンティティの喪失といった問題が起きません。
また、社会的にも夫婦別姓が当たり前とされており、家庭や職場での混乱が少なく、個人の権利が尊重されています。
中国でも夫婦別姓が一般的であり、法律によって夫婦がそれぞれの姓を保持することが定められています。これは、家族の名前を維持するという伝統的な価値観に根ざしています。
結婚後も改姓の必要がないため、特に女性にとって職業や社会的なアイデンティティを保持しやすい環境が整っています。また、夫婦別姓の文化が広く根付いているため、改姓に関する煩雑な手続きやトラブルが発生することはほとんどありません。
こうした背景から、中国では夫婦別姓が家族の一体感を損なわず、個人の権利を尊重する合理的な制度として受け入れられています。
アメリカやヨーロッパの多くの国では、結婚後の姓について夫婦が自由に選ぶ権利を持っています。同姓、別姓、さらには新しい姓を作ることも可能で、選択肢が非常に柔軟です。
例えば、イギリスでは、夫婦がそれぞれの姓を結合した「ダブルバレル姓」を選ぶことも一般的です。この形式は、夫婦双方の姓を尊重する方法として人気があります。
一方、フランスでは公的な書類において結婚前の姓を維持するのが基本で、夫婦が同姓を名乗ることは法的に義務ではありません。このように、ヨーロッパ諸国では個人の姓が一生変わらない重要なアイデンティティとされ、結婚後も自由に選択できる制度が整備されています。
これらの事例を比較すると、日本における夫婦同姓義務は特異な存在と言えます。
家族の一体感を重視する文化や伝統が背景にありますが、近年では個人の権利や多様性を尊重する観点から、夫婦別姓を選択制で導入するべきだという声が高まっています。

日本では夫婦同姓を希望する人も多く、同じ姓を名乗ることにはさまざまなメリットがあります。 以下で詳しく見ていきましょう。
夫婦同姓の主なメリットは、家族としての一体感が強まる点です。
同じ姓を名乗ることで、周囲からも「一つの家族」として認識されやすくなり、夫婦や子どもとの絆を感じやすいという意見があります。これは特に伝統的な家族観を重視する人々に支持されています。
同姓であれば、子どもの姓を選ぶ際の混乱がありません。夫婦別姓の家庭では、子どもの姓をどちらにするかで議論が生じることもあるため、この点では同姓のほうが簡便です。
また、学校や地域社会での手続きやコミュニケーションにおいても、家族全員が同じ姓であることで円滑になるとされています。
結婚後の手続きにおいて、夫婦同姓は効率的な場合があります。特に、銀行口座や保険など、家族単位で管理される場面では、同姓であることで手続きが簡単になるケースがあります。

反対に、夫婦同姓には、現在夫婦別姓制度の整備が叫ばれているように、時代にそぐわないようなデメリットもあります。以下で詳しく問題点を解説します。
結婚に伴う改姓は、特に長年使い続けた名前がその人のアイデンティティの重要な一部を形成している場合、大きな心理的負担を伴う可能性があります。
名前はその人が社会の中でどのように認識されるかを決定づけるものであり、特にプロフェッショナルな環境においては信頼性や実績を示す大切な要素です。
例えば、地域活動や職場で「〇〇さん」として認知されていた人が改姓することで、その名前に付随する信頼やネットワークが一時的に失われることがあります。
また、改姓により公的な文書や記録が新旧の名前で混在することで混乱を招き、行政手続きや日常生活にも影響を及ぼすことが少なくありません。このような状況は、単なる名前の変更以上に、個人の存在価値や社会的役割への影響をもたらします。
特に専門職においては、名前がキャリアや信用の基盤となる場合があります。例えば、研究者であれば、学術論文や研究プロジェクトにおける名前の一貫性が重要です。結婚前の姓で積み上げた業績が結婚後の姓で認知されにくくなることで、キャリア形成に支障が出る場合があります。
同様に、弁護士や医師などの職業では、名前がその人の専門知識や信頼を示すブランドの一部とされるため、改姓によってクライアントや患者との信頼関係が途切れるリスクがあります。
さらに、ビジネスの世界でも、改姓に伴う不便さが問題となることがあります。例えば、改姓によって名刺や契約書、電子メールアドレスの変更が必要となり、これらの変更が取引先や顧客との関係に影響を与える場合があります。
旧姓での実績を証明するための手続きや説明が必要になることで、時間と労力が無駄になることもあります。このように、改姓は職業的な連続性や信用の維持にとって大きなハードルとなり得ます。
日本では、夫婦同姓を選択する場合、約95%のケースで妻が夫の姓を選ぶという統計があります。この圧倒的な不均衡は、社会的慣習や「結婚したら女性が改姓するのが当然」という風潮が深く根付いていることを示しています。
この慣習は、女性が結婚後にキャリアや個人のアイデンティティを犠牲にすることを前提としており、女性に不公平な負担を強いていると言えます。
また、改姓により女性が直面する課題は社会的なものだけではありません。心理的にも「自分の名前を失う」という感覚が、結婚後の自己認識や自立心に影響を与える傾向があります。
結婚により改姓を余儀なくされることで、女性が自分の人生を他者に委ねる感覚を抱く場合もあり、これが結婚生活の満足度や自己実現へのモチベーションに影響することもあります。
このような背景から、女性への負担が著しく偏っている現行制度は、ジェンダー平等の観点からも問題視されています。
改姓に伴う手続きの煩雑さは、多くの人々にとって大きなストレスとなっています。具体的には、運転免許証、健康保険証、銀行口座、クレジットカード、パスポートなど、日常生活に必要なあらゆる書類の名義変更が求められます。
煩雑な手続きは、結婚後の新生活において余計な負担となり、結果として結婚そのものへの心理的ハードルを高める要因にもなり得ます。
このような負担を軽減するためにも、選択肢のある制度改革が求められています。
日本の夫婦同姓制度は、世界的な視点から見ると非常に特殊な存在です。多くの国では夫婦が結婚後もそれぞれの姓を保持できる制度が一般的であり、夫婦別姓が法的に認められていない国はほとんど存在しません。
一方で、日本では夫婦同姓が法律で義務付けられており、選択肢がない現状は国際的な人権基準や多様性を尊重するトレンドに逆行していると指摘されています。
選択肢が与えられないことで、結婚後の夫婦の自由や個性が制限されるだけでなく、国際結婚やグローバルなビジネス環境においても不利になる可能性があります。
また、国際的な場において日本の夫婦同姓制度が批判の対象となることもあります。例えば、女性の権利を重視する国際的な人権団体からは、日本の現行制度がジェンダー平等の観点で遅れていると評価されることがあります。
こうした国際社会からの視線も、日本国内で選択的夫婦別姓制度の導入を求める議論を加速させる要因となっています。

近年、日本でも選択的夫婦別姓制度の導入を求める声が高まっています。2025年の日本労働組合の調査では、若年層を中心に約5割が選択的夫婦別姓に賛成しており、夫婦同姓に賛成する割合を大きく上回っています。特に女性の支持が高い傾向にあります。一方で、「家族の一体感が失われる」「伝統的な価値観が崩れる」として反対する意見も根強くあります。
反対派の中には、戦前の家制度を理想とする価値観を持つ人もおり、家族の形を維持するためには夫婦同姓が必要だと考える人も少なくありません。
このように、選択的夫婦別姓を巡る議論は、伝統と個人の自由をどう調和させるかという点で重要な課題となっています。

日本では、法律婚をする夫婦は民法第750条に基づき、夫または妻のどちらか一方の姓を選び、同じ姓を名乗ることが定められています。一方、海外では結婚後の姓について、同姓・別姓・複合姓など複数の選択肢を認める国・地域が多く、日本の制度とは違いがあります。
選択的夫婦別姓制度をめぐっては、改姓に伴う負担や家族・子どもの姓のあり方、旧姓使用の範囲など、さまざまな論点について議論が続いています。
夫婦同姓・夫婦別姓のいずれにも異なる考え方や背景があるため、それぞれの制度の特徴やメリット・課題を正しく理解し、制度の現状や議論の内容について理解を深めることが大切です。
早稲田大学文学部社会学コース卒業。「環境」と「教育」を軸に暮らしと社会の接点を紡ぐフリーランスライター/ディレクター。メディア記事の執筆だけでなく、企画設計や構成、インタビュー、編集ディレクションまで一貫して手がける。ジェンダーやケア、感情のグラデーションといったテーマにも関心が深く、「誰かの違和感をことばにする」ことを大切にしている。
