関連記事
Contents
サステナビリティ開示において、活動の具体性を示すために数値(KPI)は重要です。目標数値がなければ、本当にその企業が戦略やリスク管理で挙げている活動に対し、本気で取り組むかどうか、実際に取り組んできたのかを投資家が判断することはできません。
ただし、目標数値をただ立てるだけでは意味をなしません。「なぜその指標を選んだのか」「その目標達成がどう企業価値に結びつくのか」「どのようにしてKPIを達成するのか」という文脈が伴って初めて、投資家にとって価値のある情報となります。

金融庁の好事例集において、高く評価されている企業には共通する「情報の出し方」があります。それは、今まで述べてきた戦略やリスク管理との連動であり、長期的な環境変化や、過去の実績に対する分析です。
金融庁の好事例集を中心に、目標数値を明確に出している企業の事例から学んでみましょう。
ツムラは、自社のビジネスモデルに特有のリスクを管理するための指標設定が高いレベルで実行されています。まずは4つのサステナビリティ区分を設定し、それぞれの課題を明示し、目標数値を設定しています。
そのなかでも「生薬の安定調達」を課題にするのはツムラの独自性であり、単に「調達量」を追うだけでなく、「栽培地の多角化率」や「野生生薬から栽培生薬への切り替え比率」などをKPIとしています。

参照:有価証券報告書<サステナビリティ・ターゲット2027>|株式会社ツムラ
「自然資本への依存」という自社のリスクを具体的な数値目標に置き換えて管理している点が、戦略との一貫性において極めて優れていると評価されています。
日立製作所のサステナビリティ開示では、人財を強く推しています。さらにグローバルと日本での施策をそれぞれ別個に盛り込んでいます。その中で指標と目標では「デジタル人財の確保・育成」「従業員エンゲージメント強化」「多様な視点」の3つの観点から数値化しています。

参照:有価証券報告書 新経営計画における経営指標|株式会社日立製作所
「従業員エンゲージメント」では、実際の社内調査の数値を公表しており、当初目標の肯定的回答率68%を達成したことで、あらたな目標を設定しています。これらの数値達成の裏には、上司―部下間のコミュニケーション強化や、中期的な成長戦略の共有、ウェルビーイング施策の強化などがあることも有価証券報告書に明示されています。
味の素ではサステナビリティ、気候変動、生物多様性、人的資本のそれぞれでガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標を明示しています。
その中で指標及び目標では、図表のようにまとめています。特に食に関した健康と栄養の項目が特徴的で、栄養バランスの良い製品を21億食提供や、減塩・減糖製品の提供などの数値目標を挙げています。

参照:有価証券報告書 主な取組みと目標・KPI|味の素株式会社
小売・金融を軸とする丸井グループは「将来世代の未来を共に創る」「一人ひとりの『好き』を駆動する経済を創る」「働く人の『フロー』を生み出す社会を創る」の3つをテーマに掲げています。そして、それぞれにKPIを設定するとともに、財務価値の金額も明記しています。

参照:有価証券報告書 指標と目標|株式会社丸井グループ

指標及び目標は、いままで設定してきたガバナンス・戦略・リスク管理に対する企業の回答や意思表示となります。ここできっちりとした数値目標を挙げることで、サステナビリティに対してどれだけ本格的に取り組んでいるかを投資家に提示できます。
今回の事例で見たように、ツムラでは漢方を扱っているからこそ生薬の調達はビジネスの要であり、そこに対するサステナビリティ投資は他社には真似できない、さらに自社の財務価値を高める取り組みとなります。
また日立はグローバル企業であるからこそ、人材の確保は国内だけでなく海外企業との取り合いになります。そのため人財への投資はビジネス課題となり、サステナビリティ投資として必須のものとなっています。
なお「指標及び目標」は一度決めたら変えられない「足かせ」ではありません。市場環境や事業戦略の変化に合わせて、分析をして指標をアップデートしていくプロセスそのものが、企業の柔軟性(レジリエンス)を示すことになります。
