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暑さが長引いたと思ったら、いつの間にか冬物を出している……近年、そんな年が増えました。日本の季節が春夏秋冬ではなく、夏と冬だけの「二季」に近づいているという指摘を聞く機会は、多くの人が経験しているのではないでしょうか。
なかでも短くなっているのが秋です。そして秋は、食べ物の話題がもっとも豊かになる季節でもあります。サンマ、キノコ、新米、ブドウ、リンゴ。「秋の味覚」という言葉があるほど、日本のこの季節は食と結びついてきました。
その秋が短くなり、暑さが後ろへずれ込むとき、食卓には何が起きるのでしょうか。この記事では、二季化の実態と秋の味覚への影響を確認したうえで、これまでの環境対策の先にある「リジェネラティブ」という考え方を紹介します。

秋が短くなった感覚は、気のせいではありません。東京大学の研究データでも、夏の期間が明確に伸びていることが示されています。ただし、四季が二つに減ったというより、夏だけが膨らんで春と秋を押しつぶしている、と表現するほうが実態に近いです。
三重大学の研究によると、1982年から2023年までの約42年間で、夏の期間は約3週間長くなり、その分だけ春と秋が短くなったと報告されています。
背景にあるのは海面水温の上昇です。以前は、大陸から流れ込む暖かい空気が日本周辺の海の上空で冷やされ、気温は春から夏にかけてゆるやかに上がっていました。しかし海面水温が高くなったことで空気が冷やされなくなり、夏の到来が早まることに。秋になっても海水温が下がりにくいため、夏の終わりも遅くなっています。
同研究では、冬の期間にはほとんど変化がなかったことも示されています。大陸から入り込む強い寒波の影響を受け続けているためと考えられています。
つまり、季節が均等に縮んでいるのではありません。夏が前後に伸び、冬は変わらず居座り、その間にはさまれた春と秋だけが削られている。これが「二季化」と呼ばれている現象の中身です。
この感覚は広く共有されています。「二季」は2025年の新語・流行語大賞にノミネートされました。
言葉が広まったこと自体が、季節の変化が日常の体感になったことを示しています。そして体感が変わるということは、その季節に育つ食べものにも同じ変化が及んでいるということです。

秋が短くなることの影響は風景や服装だけの話ではありません。海でも畑でも、これまでの旬が成り立ちにくくなっています。ここでは、サンマとリンゴという代表的な秋の味覚を例に、何が起きているのかを見ていきます。
サンマの全国漁獲量は大きく減少しました。ここ20年ほどで10分の1程度まで落ち込んだとされ、魚体も以前より小ぶりになっています。
水産庁は2021年6月の検討会で、サンマ、サケ、スルメイカの漁獲量が2014年からの5年間で74%減少したと発表しました。このとき水産庁は初めて、不漁の原因を地球温暖化や海洋環境の変化に起因する資源変動によるものと位置づけています。
海水温が上がると魚の回遊するルートそのものが変わります。高い水温を好むマイワシやマサバが増え、サンマと餌を奪い合っている可能性も指摘されています。つまり「今年は不漁だった」という一年単位の話ではなく、魚がいる場所が動いているのです。
畑でも変化が起きています。リンゴでは、夏の高温によって果実が日焼けしたり、着色が不良になったり遅れたりする品質の劣化が多く報告されています。
リンゴの栽培に適した地域は年平均気温6〜14℃とされていますが、この適地が徐々に北上しつつあります。温室効果ガスの排出が最も多いシナリオで温暖化が進んだ場合、2046〜2055年頃には、現在リンゴを栽培している関東地方の内陸部や本州の日本海側に、栽培に適さない地域が広がると予測されています。
意外に見落とされがちなのが、秋や冬の気温上昇による影響です。九州各県では、ニホンナシの「幸水」などで花芽が枯れる発芽不良が起きています。秋冬の気温が上がることで、樹木が寒さへの耐性を十分に高められないまま冬の寒気にさらされ、花芽が凍害を受けることが分かっています。
暖かければ植物にとって良い、という単純な話ではありません。適度に冷える秋があってこそ成り立つ作物があるのです。秋が短くなることは、その前提を崩すことを意味します。

ここまで見てきた変化は、悪い方向のものばかりではありません。気温の上昇によって、これまで難しかった作物が育つようになった地域もあります。ただし、それを単純な朗報として受け取ってよいかは、また別の話です。
北海道は、ワイン用ブドウが栽培できる気候的な北限とされてきました。栽培できる品種は寒冷地向けのケルナーやツバイゲルトなどに限られ、高級赤ワイン用品種であるピノ・ノワールの栽培は困難だとされてきたのです。
しかし近年、道内の代表的なワイン産地でピノ・ノワールの栽培と質の高いワイン造りが可能になってきています。農研機構は、その要因の一つとして温暖化を挙げています。
北海道立の試験場では、シャルドネやピノ・グリなど世界的に知られる欧州系品種についても、道内での栽培が可能と判断されました。実際にシャルドネやピノ・グリの栽培面積は、2010年から2020年にかけて増加しています。フランス・ブルゴーニュのワイナリーが北海道でブドウ畑を開き、醸造所を建てた例もあります。
同じような動きは他の作物でも起きています。秋田県では、リンゴ農家がモモの栽培を始め、市場に出荷する時期が全国で最も遅い「北限の産地」として注目されています。
出荷が遅いことは、これまで不利でしかありませんでした。しかしそれが、他の産地と時期が重ならないという価値に転じています。気候変動は、産地の地図を書き換えつつあるのです。
とはいえ、これを楽観的に捉えることはできません。作物は気温だけで育つわけではないからです。
たとえばコシヒカリは、穂が出る時期に日照時間の長さが大きく影響します。北海道で気温が上がったとしても、穂が出るのが遅すぎることが実験で確かめられています。南の品種をそのまま北へ移せばよい、という単純な移動は成り立ちません。
北の産地には、北の産地に合った品種を新たに開発し、栽培技術を組み直す必要があります。それには時間も費用もかかります。一方で、これまで産地だった地域は作物を失っていきます。差し引きすれば、失うもののほうが大きいというのが現状です。

温室効果ガスの削減は、気候変動対策の根幹です。しかし、削減の努力がすぐに秋の気温を戻してくれるわけではありません。ここでは、いま生産の現場が置かれている時間のずれについて整理します。
温室効果ガスの排出を減らすことは、これ以上の気温上昇を抑えるために欠かせません。ただし、その効果が気候として現れるまでには長い時間がかかります。
一方、畑や海で起きている変化は現在進行形です。今年のリンゴは今年色づかなければならず、今年のサンマは今年獲れなければなりません。削減の効果を待つ時間は、生産の現場にはないのです。
そこで進められているのが適応策です。ブドウでは、幹の樹皮を環状に剥いで果実に栄養を集中させる環状剥皮や、地面に反射シートを敷いて光を増やすことで着色を促す方法がとられています。高温に強い品種の開発や、種まき時期の見直しも各地で進んでいます。
こうした対策には確かな効果があります。ただし多くは変わってしまった環境のなかで何とか収穫にたどり着くための工夫です。土地そのものの力が落ちていけば、いずれ手立ては尽きます。
排出を減らす対策は未来に効き、適応する対策は今をしのぐ。この二つの間には、農地や海そのものを回復させるという視点が抜けています。
被害を減らすことと、環境を元気にすることは別の行為です。そして後者に踏み込もうとしているのが、リジェネラティブという考え方です。

リジェネラティブは「再生」を意味する言葉です。環境への負荷をゼロに近づけるサステナブルに対し、こちらは環境を今よりも良い状態へ戻すことを目指します。秋の味覚を守るという文脈で、この違いは小さくありません。
リジェネラティブ農業は「環境再生型農業」とも訳され、土壌本来の力を引き出し、土の状態を回復させることを目的とした農業です。
主な手法として、畑をできるだけ耕さない不耕起栽培、作物を育てていない期間に地面を覆う植物を植えるカバークロップ、同じ土地で作物を周期的に変える輪作、堆肥など有機物の投入などがあります。
従来のように土を耕すと、微生物による有機物の分解が進み、土壌から二酸化炭素が放出されやすくなります。
これに対し、不耕起栽培やカバークロップ、輪作、有機物の投入を組み合わせることで、土壌に蓄えられる炭素の量が増え、気候変動の緩和につながることが分かっています。畑が排出源ではなく、炭素をためる場所になるということです。
秋の味覚にとって重要なのは、その先です。
土壌の微生物が豊かになると、病原菌が入り込みにくくなり、作物が病気に強くなります。農薬や肥料に頼りすぎない栽培が可能になり、周辺の生物多様性の確保にもつながります。
気温の乱高下や豪雨といった極端な気象が増えるなかで、土そのものが持つ回復力を高めておくこと。これは、品種改良や資材による対策とは別の層にある備えです。

最後に、食べる側の話です。生産の現場を変えられるのは農家や漁業者だけではありません。何を選び、どう受け止めるかによって、支えられる方向は変わります。
同じ産地、同じ時期、同じ値段。この前提はすでに崩れ始めています。
不漁で高くなったサンマを「今年は高いから買わない」と切り捨てるのは自然な判断です。ただ、その背景に何が起きているかを知っているかどうかで、次の選択は変わります。旬がずれること、産地が動くことを、変化として受け止める視点が必要です。
北海道のワイン、秋田のモモのように、これまで名前を聞かなかった産地が育ってきています。
そうした産地の作物を実際に手に取ることは、変化に取り組む生産者への直接的な支えになります。慣れ親しんだ産地だけを選び続けるより、選択肢を広げるほうが、結果として食卓の多様性を守ることにつながります。
そして、リジェネラティブという言葉を覚えておくことにも意味があります。
有機、無農薬に加えて、土をどう扱っているかを打ち出す商品は少しずつ増えています。価格だけで比べれば割高に見えるかもしれません。しかしその差額は、来年以降もその土地で作物が育つための投資でもあります。

日本の夏は42年で約3週間長くなり、その分だけ春と秋が短くなりました。秋の味覚は、すでにその影響を受けています。サンマの不漁は温暖化に起因する資源変動として位置づけられ、リンゴは色づきにくくなり、栽培適地は北へ動いています。
一方で、北海道でピノ・ノワールが育ち、秋田がモモの北限産地になるといった変化も生まれています。ただしそれは、失われる産地の裏返しでもあります。排出を減らす取り組みは未来のために欠かせず、適応の工夫は今年の収穫を支えます。しかしその二つだけでは、土地そのものが弱っていく流れは止まりません。リジェネラティブという発想が求められているのは、そのためです。
秋が短くなることを止められなくても、その短い秋に実るものを育てる土と海を、今より健康な状態に戻していくことはできます。秋の味覚を守るという話は、結局のところ、その足元をどう扱うかという話なのではないでしょうか。
