ディーセントワークとは?4つの領域や具体例をわかりやすく解説

ディーセントワークとは?4つの領域や具体例をわかりやすく解説
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SDGsの8番目の目標「働きがいも、経済成長も」のなかでも取り上げられている「ディーセント・ワーク」という言葉。近年、働き方が見直されていくなかで、ますます注目されるようになりました。

この記事では、ディーセント・ワークについて分かりやすく解説します。

ディーセントワークにおける4つの戦略目標や国際労働機関(ILO)が掲げる5つの計画についても紹介するので、ディーセントワークについて理解を深めたい方は、ぜひ最後までお読みください。

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ディーセント・ワークとは

ディーセント・ワークとは

ディーセント・ワークの言葉は、国際労働機関(ILO)で、1999年にファン・ソマビア元事務局長によって初めて提唱されました。

国際労働機関(ILO)は、ディーセント・ワークを次のように定義しています。

ディーセント・ワークとは、「働きがいのある人間らしい仕事、より具体的には、 自由、公平、安全と人間としての尊厳を条件とした、 全ての人のための生産的な仕事」のことです。

引用元:国際労働機関(ILO) ディーセント・ワークとは

分かりやすく伝えると「権利が保護され、十分な収入を生み、適切な社会保護が供与された生産的仕事」を指します。

ただ働くだけではなく、人としての権利が保障されることが大切だということです。

ディーセント・ワークの概念は世界共通ですが、各国の文化や環境によって条件や取り組みは様々です。

日本においてのディーセント・ワークは、以下4つに整理されています。

  • 働く機会があり、働きに応じた収入が得られること。
  • 働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること。
  • 家族の生活が安定しており、自己の鍛錬もできること。
  • 公正な扱い、男女平等な扱いをうけること。

引用元:厚生労働省 ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書

これら4つの整理を踏まえて、厚生労働省や企業では、ディーセント・ワークの導入を推進しています。

ディーセント・ワークにおける「4つの戦略目標」

ディーセント・ワークにおける「4つの戦略目標」

ディーセント・ワークを実現するために、国際労働機関(ILO)では2008年の「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」で「4つの戦略目標」が掲げられました。

「4つの戦略目標」は、以下のとおりです。

仕事の創出

“必要な技能を身につけ、働いて生計が立てられるように、国や企業が仕事を作り出すことを支援”

すべての人が持続的に生計を立てていくためには、質の高い雇用を作り出すことが大切です。そのためにも、新たな「雇用」を作ることを目標とし、国や企業を支援しています。

earth-ismでは、雇用に関して熱心に取り組む企業事例を紹介しています。以下の取り組みも併せてご覧ください。

バイトのみなさんを、ごひいきに。雇用の旧習を作り変える福利厚生サービス「フクロー」
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社会的保護の拡充

“安全で健康的に働ける職場を確保し、生産性も向上するような環境の整備。社会保障の充実”

「社会保障」の充実した職場環境を提供していくことを目標としています。労働者が安心して働ける職場であるためには、社会保障を充実させ、最低限の賃金や労働時間が遵守されていることが大切です。

社会対話の推進

“職場での問題や紛争を平和的に解決できるように、政・労・使の話し合いの促進”

職場での問題は「対話」で平和的に解決していくことを目標としています。職場でのコミュニケーションエラーを減らすことは、労働条件の改善や経済への促進にも繋がるのです。また、社会対話を推進するためには、政府による環境づくりも必要です。

仕事における権利の保障

“不利な立場に置かれて働く人々をなくすため、労働者の権利の保障、尊重”

労働者の「権利」を守ることを目標としています。

国際労働機関(ILO)では、労働者の権利を守るための「中核的労働基準」を定めており、加盟国は、以下基準を批准の有無に関わらず守る責任を負っています。

  • 結社の自由及び団体交渉権の承認
  • 強制労働の禁止
  • 児童労働の禁止
  • 差別の撤廃
  • 安全で健康的な労働環境

引用元:ディーセント・ワークの4つの戦略目標

すべての労働者の権利を保障し、尊重して働ける社会を実現するためには、これらの基準を守ることが大切です。

ディーセントワークはなぜ重要視されているのか?

ディーセントワークはなぜ重要視されているのか?

ディーセントワークが重視されている背景には、世界的に労働環境の見直しが進められていることがあります。

The State of Food Security and Nutrition in the World 2019(ユニセフ)によると、世界では、20億人以上の人々が十分な食料を確保できないという厳しい現実があります。この状況を改善するためには、労働環境の見直しが必要不可欠です。

ディーセントワークの推進していくことによって、賃金の引き上げや社会保障を充実させ、労働環境の改善につながっていくでしょう。

SDGsとディーセントワークの関係|ILOが掲げる5つの計画

SDGsとディーセントワークの関係|ILOが掲げる5つの計画

2030年までに達成すべき持続可能な開発目標「SDGs」では、持続可能でよりよい世界を目指すために17の目標を掲げています。さらに、SDGs8番目の目標「働きがいも、経済成長も」のなかで、ディーセント・ワークの言葉が取り上げられています。

また、国際労働機関(ILO)では、ディーセント・ワークとSDGs全体の達成を後押しするために、5つの計画を定めています。

ここからは、国際労働機関(ILO)が掲げる5つの計画を紹介します。

児童労働の撤廃

世界では、1億5200万人もの子ども達が劣悪な環境で働かされており、さらには、奴隷のような扱いを受けている子どもも多くいます。このような児童労働の問題は、早急に解決していかなければなりません。

児童労働の問題を解決するために、国際労働機関(ILO)では、2025年までにすべての児童労働、2030年までにあらゆる強制労働・奴隷制・人身取引を根絶することを目指しています。

また、目標を達成するため、政府と労使に政策・法的支援を提供しながら、児童労働から抜け出すための機会や学びの場を提供を行っています。

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安心安全な労働の提供

労働環境が安心安全であることは、すべての労働者にとって大切なことです。しかし、現実には、危険な業務や不衛生な労働環境により、多くの人が毎年事故や疾患で命を落としています。

そのため、すべての人に安心安全な労働環境を提供することを目標に、労働安全衛生の予防文化を育成し、安全で健康的に働く基本的な権利を享受できる手助けを行っています。

例えば、建設現場では、労働関係法令、政策、実施面の改善・強化を図り、さらに法令改正や労働監督官の能力強化などの支援を実施しながら、問題解決に取り組んでいます。

健全な雇用の促進

すべての人に健全な雇用の促進をするためには、紛争や被災の影響を受けやすい脆弱な立場にある人々にも、ディーセント・ワークを実現していく必要があります。

特に若者に働く機会を提供することは、よりよい未来の基盤を支えるためにも欠かせません。

さらに、健全な雇用を促進することで、地域経済の回復、そして経済発展をも目指しています。

社会保護の土台形成

すべての人に社会的保護の基盤が与えられることを目標に、基本的な社会的保護制度の策定や実施を促進・支援しています。

基本的な社会的保護には、以下のようなものが含まれます。

  • 生涯にわたる保健医療の提供
  • 子どもたちへの社会的保護の提供
  • 母性保護
  • 障害、失業や労働災害の際における所得保障
  • 高齢者を対象とした年金の支給

これらの基本的な社会的保護制度の策定や実施を促進・支援していくことで、誰もが安心して生活できる社会の実現を目指しています。

よりよい仕事の計画

国際労働機関(ILO)と世界銀行グループの国際金融公社(IFC)は、共同で「よりよい仕事計画」として、衣料産業における労働条件の改善や企業競争力の強化を目標に取り組んでいます。

衣料産業は、低賃金や長時間労働、劣悪な労働環境など、深刻な労働問題に直面しています。

これらの課題を解決し、衣料産業に携わる多くの労働者を貧困から脱出させるためには、ディーセント・ワークの創出や女性の地位向上、企業競争力の強化、そして包括的な経済成長の促進が必要です。

この取り組みには、政府、グローバルブランド、工場所有者、労働組合、労働者など多様なグループに参加を呼びかけています。

ディーセントワークの実現を目指す企業の取り組み具体例

ディーセントワークの実現を目指す企業の取り組み具体例

ディーセントワークの実現に向けて取り組んでいる企業もあります。ここからは、ディーセントワークの実現を目指す企業の取り組みを2つ紹介します。

日立製作所

日立製作所は、ディーセントワークの概念を重視した人事戦略を行っている企業です。

世界各国で事業を展開していることから、グローバル人材の採用、若手社員の海外勤務推進や外国人・国外の大学を卒業した日本人などを積極的に採用するなど、グローバル人材戦略を推進しています。

また社員一人ひとりが仕事にやりがいを感じられる環境を目指し、透明性の高い評価制度の構築や、個々のパフォーマンス評価のグローバル統一を実施。

さらに、仕事と生活の両立に向けたマインド醸成や労働時間縮減、キャリア開発支援にも力を入れながら働きやすい労働環境の実現に力を注いでいます。

Panasonic

Panasonicはグローバル企業として、サプライチェーン全体を視野に人権尊重とディーセントワークの実現に取り組んでいます。

例えば、ディーセントワークを実現をするために、次世代教育支援と女性の活躍推進にも力を入れ、仕事と子育てや介護の両立、働き方・休み方の見直しを推進。また、外国人移民労働者を含む労働者の権利保護、労働安全衛生管理に取り組んでいます。

日本において「ディーセントワーク」をどう活かすべきなのか?

日本において「ディーセントワーク」をどう活かすべきなのか?

日本では非正規雇用の増加や長時間労働など様々な労働問題を抱えており、これらの問題を解決するためにも、ディーセントワークの概念を実現させていくことが大切です。

ここからは、日本が直面する労働課題に対して「ディーセントワーク」をどのように活かすべきなのかを解説します。

非正規雇用やフリーランス労働者への支援強化

非正規雇用やフリーランス労働者への支援を強化することは、ディーセントワークを実現するために欠かせません。

日本では、パートや派遣社員など非正規雇用者が増加していますが、正社員との待遇格差が大きな社会問題となっています。待遇格差を解消するためにも、労働者が公平もしくは平等に活躍できる職場環境整備が必要です。

こうした背景から、2020年には「同一労働同一賃金関連法」が施行され、正規・非正規労働者の賃金や福利厚生などを業務内容や能力で判断するような体制が整えられてきています。

また、フリーランス労働者は、収入の不安定さや社会保障が少ないという課題を抱えています。フリーランス労働者が安心して働ける仕組みづくりも、ディーセントワークを実現するためには、必要な取り組みと言えるでしょう。

労働者の権利を守る制度の透明化

労働者が安心して働ける環境を実現するためには、労働者の権利を守る制度を透明化し、その内容を広く周知させていく必要があります。

現在、日本では長時間労働やハラスメントなどが問題となっています。これらの問題を解決するためには、労働者が自身の権利や利用できる制度を知り、活用できるようにならなければなりません。

日本国憲法第28条では、労働者の権利として以下の権利を認めています。(労働三権)

  • 「団結権」
  • 「団体交渉権」
  • 「団体行動権」

また、日本にはさまざまな労働者の権利を守る法律もあり、以下が基本の「労働三法」です。

  • 「労働基準法」
  • 「労働組合法」
  • 「労働関係調整法」

労働者の権利や法律をもとに、権利を守る制度を透明化することで、労働者がより安心して働ける環境を作ることができます。

まとめ

まとめ

本記事では、ディーセントワークについて詳しく解説しました。

日本では、依然としてさまざまな労働問題を抱えていますが、「働きがいのある人間らしい仕事」を目指し実現していくことは、個人の幸せにつながるだけでなく、企業の成長や国の発展にもつながります。

一人ひとりが、ディーセントワークに沿った働き方ができるような社会になるよう、ぜひ本記事を参考によりよい労働環境を構築していきましょう。

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