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土用の丑の日が近づくと、スーパーや飲食店にはたくさんのうなぎが並び、夏の風物詩として親しまれています。 一方で近年は、価格上昇や資源減少など、うなぎを取り巻く環境も大きく変化しています。
この記事では、土用の丑の日の由来から、ニホンウナギをめぐる現状、食卓で私たちにできる選択までを整理します。

今では「夏にうなぎを食べる」習慣として定着していますが、その始まりは江戸時代に広がったとされます。当たり前のように感じる食文化も、時代背景や人々の暮らしの中で形づくられてきたものです。
土用の丑の日にうなぎを食べる習慣は、江戸時代に始まったという説があります。夏場に売れないうなぎ屋の相談を受けた平賀源内 が「本日丑の日」と宣伝したことがきっかけとされます。
実は土用の丑の日に食べるのは、もともとうなぎだけではありませんでした。梅干し、うどん、瓜(うり)など「う」のつく食べ物を食べて夏を乗り切る風習があり、その中で栄養価が高いうなぎが定着しました。
また、万葉集にはうなぎを夏の滋養食として勧める歌も残されており、江戸時代以前から「夏にうなぎを食べる」考え方があった可能性もあります。
水産庁のデータでは、国内のうなぎ供給量は1990年代の約16万トンから、近年は約5万トン前後まで減少しています。
一方で、土用の丑の日は現在も、うなぎ業界にとって最大の商戦日です。スーパーでは特設コーナーが並び、予約販売や大規模な販促が行われます。
国内の供給量減少を補うため、日本で流通するうなぎの多くは中国などからの輸入に依存しています。
それでも、短期間に需要が集中するため、売れ残りによる値引き販売や食品ロスが発生するケースもあります。

スーパーで並んでいるうなぎですが、実はニホンウナギは国際的に「絶滅のおそれが高い種」です。
ここでは、ニホンウナギを取り巻く現状や、資源減少の背景について整理します。
環境省は2013年、国際自然保護連合は2014年に、ニホンウナギを絶滅危惧種に指定しました。一時、日本の野生から姿を消したことで知られているトキと同じ「絶滅危惧IB類」です。
普段食べているうなぎも資源減少が懸念される生き物です。指定の背景には、シラスウナギの採捕量や漁獲量の減少など、長期的な調査結果があります。
ただし、ウナギは海と川を行き来する複雑な生態を持つため、正確な個体数を把握するのは難しいとされています。
市場に出回るうなぎの多くは養殖ですが、養殖に使われるシラスウナギは現在も天然のものに頼っています。
シラスウナギは体長5〜6cmほどの稚魚で、河口付近で採捕されます。しかし、その漁獲量は1960年代と比べて大きく減少しており、現在は当時の約5%程度まで落ち込んでいます。
数が減ったことでシラスウナギは高値で取引されるようになり、密漁や無報告漁獲も問題視されています。この減少は、漁獲量だけでなく店頭価格や流通量にも直結しています。
ウナギは成長して産卵できるようになるまでに長い年月がかかるため、一度減ると資源が回復しにくい生き物です。
2025年には、中央大学、東京大学、鹿児島大学などによる共同研究で、天然ウナギの資源量指数が24年間で最大99.9%減少した可能性が示されました。こうした大幅な減少は、すでに流通の不安定さとしても影響が出始めています。
ニホンウナギが減少している背景には、とりすぎだけでなく、河川環境の変化やダム・護岸工事による生息環境の変化、海流や水温の変動など、さまざまな要因が重なっています。

うなぎ資源の問題は、日本国内だけの話ではありません。
日本で流通するうなぎの多くは海外との輸出入によって支えられており、国際的にも資源保護の議論が進んでいます。規制内容によっては、価格や流通量に影響する可能性もあります。
2025年6月、EUはワシントン条約でウナギ全種を規制対象に加える提案を行いました。
ワシントン条約(CITES)は、絶滅のおそれがある野生動植物の国際取引を管理する国際ルールです。すぐに全面禁止になるわけではありませんが、輸出入に許可が必要になるなど、流通には大きな影響が出る可能性があります。
日本で流通するうなぎの多くは輸入品のため、規制内容によっては、価格上昇や流通量の減少につながるかもしれません。
日本政府は、すでに日本・中国・韓国・台湾でシラスウナギの池入れ量を制限するなど、資源管理を進めているため、追加の国際規制には慎重な姿勢を示しています。
一方で、研究者や環境団体の中には「現在の対策だけでは不十分ではないか」と指摘する声もあります。国際自然保護連合(IUCN)の評価を踏まえ、より厳しい保護が必要だという意見も出ています。
そのため、「一定の管理はできている」という見方と、「まだ減少は深刻だ」という見方があり、評価は分かれています。
ヨーロッパウナギは、すでに厳しい国際規制の対象となっています。2007年にワシントン条約の規制対象となり、その後EUが輸出を認めなくなったことで、現在は海外へほとんど出回らない状態になっています。
かつては1980〜2000年代にかけて、日本でも流通していましたが、現在では市場で見かける機会はほとんどありません。
このように、国際的な規制によって市場から姿を消した前例があることから、「ニホンウナギも将来、同じような状況になるのではないか」と注目が集まっています。

「今までのようにうなぎを食べられなくなるのでは」と不安に感じる人もいるかもしれません。一方で、資源を守りながら食文化を未来につなげようとする動きも広がっています。
ここでは、現在行われている規制や研究、企業の取り組みを見ていきます。
日本、中国、韓国、台湾では、シラスウナギの採捕量を抑えるためのルールづくりが進められています。その一つが「池入れ量」の規制で、養殖池に入れるシラスウナギの数を制限する仕組みです。
4者は、養殖に使うシラスウナギの量を2013〜2014年漁期の80%以内に抑えることで合意しています。
さらに2025年12月からは、シラスウナギの流通管理を強化する制度も始まり、産地や流通経路を追跡できる「トレーサビリティ」の整備も進んでいます。
こうした取り組みにより一定の管理は進んでいますが、資源回復には時間がかかると考えられています。
現在市場に出回る養殖うなぎは、天然のシラスウナギを捕まえて育てたものです。そのため、天然資源に頼らず育てる「完全養殖」の研究が進められています。水産研究・教育機構では、仔魚をシラスウナギまで育てる研究成果も発表されました。
ただし、安定した大量生産にはまだ課題が多く、コスト面などからスーパーに広く並ぶ段階には至っていません。
完全養殖が実現すれば、天然資源への負担を減らしながら、将来も食文化を残していける可能性があります。
スーパーや飲食店でも、食品ロス削減や持続可能性を意識した取り組みが広がっています。
土用の丑の日は短期間に需要が集中しやすく、閉店前に値引きされたうなぎを見かけることもあります。そのため近年は、予約販売や数量限定販売など、需要に合わせて仕入れを調整する動きが進んでいます。これは過剰な在庫を防ぎ、フードロス削減にもつながっています。
また、産地や養殖方法を表示するなど、消費者が選びやすくする取り組みも進められています。
さらに近年は、ニホンウナギ以外の種類を活用する動きもあります。資源への負荷を分散しながら、食文化を未来につなげる新しい選択肢として注目されています。

うなぎをめぐっては、資源減少や国際的な規制、食品ロスなどさまざまな課題があります。
「もう食べてはいけない」という単純な話ではありません。大切なのは、背景を知ったうえで、これからも食文化を未来につないでいくために行動することです。ここでは、日常の中で無理なくできる選び方や、意識したいポイントを紹介します。
現在、国産・輸入を問わず、流通するうなぎには基準や検査があり、安全性が確認されたものが販売されています。そのため、「国産だから安心」「外国産だから危険」と単純に分けられるものではありません。
一方で、産地や養殖方法、価格の違いなどを知ることで、自分なりに納得して選ぶ視点も持てます。
表示を見ながら「どこで育てられたのか」「どんなうなぎなのか」を気にしてみることも、小さな一歩です。
土用の丑の日に需要が集中すると、価格高騰や大量販売による在庫リスクも高まりやすくなります。
そのため、特売だからとまとめ買いするのではなく、食べきれる量を選ぶことも大切です。
「毎年当たり前に大量消費する」のではなく、「食べたい時に大切に味わう」。そんな楽しみ方も、これからの食文化の残し方の一つかもしれません。
うなぎの問題は、単に「うなぎが減っている」という話だけではありません。近年はサンマやサケなどでも不漁が続いており、「これまで食べられていた魚」が少しずつ変わり始めています。
価格の上昇や品薄は、すでに私たちの食卓にも現れています。こうした背景を知ったうえで、無理なく選び方を考えることが大切です。
うなぎをきっかけに、普段の食卓や海の未来について考えてみることが、これからの食文化を守る第一歩になります。

土用の丑の日は、夏の楽しみとして親しまれてきた食文化です。しかし現在は、ニホンウナギの資源減少や価格高騰、食品ロスなど、さまざまな課題とも向き合う時代になっています。
だからといって、「もう食べてはいけない」という話ではありません。大切なのは、背景を知ったうえで選ぶことです。
「当たり前に食べられる魚」が変わりつつある今、うなぎをきっかけに海や食卓の未来を考えることが、食文化を守る第一歩になります。
パティシエの経験からホテルや専門店でのサービス、保育園の調理員、そして子ども食堂の立ち上げなど、15年以上にわたり食の現場を経験。調理師免許・薬膳コーディネーター・HRS(ホテルレストランサービス技能検定)3級を保有。
