多様化する日本のジェンダー問題|現状や取り組み事例、展望を解説
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日本のジェンダー問題は、社会のさまざまな場面で顕在化しています。
ジェンダー平等という言葉を耳にする機会は増えましたが、日本社会が抱える具体的な課題や、その解決に向けた取り組みについて、疑問に思う方も少なくないでしょう。
本記事では日本のジェンダーギャップの現状とその問題点を交えながら、なぜジェンダー平等の実現が持続可能な社会づくりにとって重要なのかを解説します。また、日常生活で私たち一人ひとりができるジェンダー平等への取り組みについても紹介するため、ぜひ最後までご覧ください。
日本のジェンダーギャップの現状
世界経済フォーラムの世界ジェンダーギャップ指数において、日本は146カ国中116位(2022年)と低迷しています。特に、政治参画と経済参画の分野での遅れが顕著です。
経済分野では、女性の労働参加率は増加傾向にあるものの、管理職に占める女性の割合は14.7%(2021年)と低水準です。政治分野では、国会議員に占める女性の割合が衆議院で9.9%、参議院で23.1%(2021年)という低い数値に留まっています。
教育分野では高等教育への進学率に大きな差はありませんが、STEM分野(科学、技術、工学など)における女性の割合は低く、例えば工学部の女子学生比率は15.4%(2021年)になっています。昨今には理系優位、かつ女性の活躍の場を増やそうという現状もありますが、あまり進んでいないのが実情といえます。
職場におけるジェンダー問題
次に、職場における日本でのジェンダー問題を解説します。主に3つの要因が挙げられます。本記事を読んでいる方の中には身近なことに思われる方も多いのではないでしょうか。
賃金格差の実態と要因
日本の男女間賃金格差は、OECD諸国の中でも大きく、女性の賃金は男性の約75%です。主な要因として、非正規雇用の女性の多さ、育児・介護によるキャリアの中断、職種や業種の偏り、昇進・昇格の遅れなどが挙げられます。
女性の管理職登用における課題
大企業における女性管理職比率は約8%(2021年)と低水準です。長時間労働の慣行、無意識のバイアス、ロールモデルの不足、メンターやスポンサーの不足などが課題として挙げられます。
セクシュアルハラスメントと職場環境
#MeToo運動以降、職場でのセクハラへの意識は高まりつつあるものの、依然として多くの問題が報告されています。ハラスメント防止方針の明確化、研修の実施、相談窓口の設置などの対策が進められています。
家庭生活におけるジェンダー問題
家父長制の文化で経済を発展させてきた日本では、家庭生活においてもジェンダー問題が問題視されています。以下で詳しく見ていきましょう。
家事・育児の負担と男女の役割分担
共働き世帯が増加する一方で、家事・育児の負担は依然として女性に偏っています。男性の育児休業取得促進、両立支援制度の充実、家事・育児の外部化支援などの取り組みが行われています。
ワークライフバランスの実現に向けた課題
ブラック企業大賞、などという言葉からも察せられるように日本での労働環境は世界的にも問題視されており、ワークライフバランスがなかなか進んでいないのが現状です。
そのために働き方改革関連法の施行、テレワークの推進、副業・兼業の促進など、ワークライフバランス実現のための取り組みが進められています。
DV(ドメスティックバイオレンス)の実態と対策
コロナ禍の影響により、DVの深刻さが従来よりも増しています。家庭で一緒にいる時間が長くなり、コミュニケーションの衝突が起きるなどといった要因が考えられるでしょう。
これらを解決するためにDV防止法の改正、相談窓口の充実、被害者保護施設の整備、加害者更生プログラムの開発などの対策が行われています。
教育分野におけるジェンダー問題
次に、教育分野におけるジェンダー問題を紹介します。
進路選択におけるジェンダーバイアス
理系分野への女子学生の進学率が低いなど、進路選択におけるジェンダーバイアスが存在します。例えば、大学の理工系学部における女子学生の割合は約15%にとどまっています。
理系女子(リケジョ)育成プログラムの実施、ロールモデルの提示、STEM教育の推進などの取り組みが行われています。
教科書や教材に見られるステレオタイプ
教科書や教材にも、無意識のうちに固定的な性別役割分担を助長する表現も残っています。
教科書検定基準の見直し、教職員向けジェンダー平等研修の実施、多様な家族のあり方や職業選択を示す教材の開発などが進められています。
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政治・意思決定におけるジェンダーギャップ
政治や意思決定におけるジェンダーギャップも存在します。女性議員の少なさが選挙のたびに問題に上がることもありますが、それ以外にも複数あります。
女性議員の割合と政治参画の現状
国会議員に占める女性の割合は約10%と、国際的に見ても極めて低い水準にあります。政治分野における男女共同参画推進法の制定、クオータ制の導入検討、女性政治家育成プログラムの実施などの取り組みが行われています。
LGBTQに関する課題と権利保障
例えば、同性婚を認める法制度は整備されていませんが、パートナーシップ制度を導入する自治体が増加しています。また、同性婚を法制化すべきとの世論も高まっています。
トランスジェンダーの人々が直面する問題
性別適合手術の保険適用拡大、戸籍上の性別変更要件の緩和、就労における差別解消、学校生活における配慮などが課題となっています。
またLGBTQフレンドリーな就業規則の整備、アライ(支援者)の育成研修、ジェンダーニュートラルな制服の導入などの取り組みが広がっています。
メディアとジェンダー表現
広告や放送業界による自主規制、企業のガイドライン策定、消費者の意識向上などにより、固定的な性別役割分担の表現に対する批判が高まっています。
このため日本広告業協会が「【日本版】ジェンダー広告ガイドラインの制定」を行ったり、広告制作現場における女性クリエイターの登用促進したりといった動きもあります。
ジェンダー平等実現に向けた取り組みと展望
さまざまな課題が残るジェンダー問題ですが、政府の施策と「女性活躍推進法」の効果によって、徐々にジェンダーギャップの解消が目指されつつあります。
例えば「女性活躍推進法」の制定により、以下のような効果が見られました。
- 企業の情報公開:従業員301人以上の企業に女性活躍に関する行動計画の策定と情報公開が義務付けられました。
- えるぼし認定:女性活躍推進に関する取り組みの実施状況が優良な企業を認定する制度が導入されました。
- 女性管理職比率の向上:緩やかではありますが、女性管理職比率が上昇傾向にあります。
- 両立支援の充実:育児・介護との両立支援制度の整備が進んでいます。
日本のジェンダーギャップを真に解消するには、さらなる努力が必要です。
法制度の整備だけでなく、社会全体の意識改革や企業文化の変革が求められています。政府、企業、そして私たち一人ひとりが協力し、粘り強く取り組むことで、より公平で多様性に富んだ社会の実現に近づくことができるでしょう。
企業におけるダイバーシティ推進の取り組み事例
先進的な企業においては、例えば以下のようなダイバーシティ推進の取り組みが行われています。
- ダイバーシティ&インクルージョン推進部門の設置
- 女性リーダー育成プログラムの実施
- 男性の育児参加促進(育休取得の義務化など)
- 働き方改革(リモートワーク、フレックスタイム制の導入など)
- アンコンシャスバイアス研修の実施
- LGBTQフレンドリーな職場環境の整備
これらの取り組みが企業の競争力向上にもつながっているという認識が広がりつつあります。また日本でもSDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の達成に向けて動いているので、国際社会全体でジェンダー平等の推進が図られていくことが予想されます。
まとめ
日本のジェンダー問題は、長年の慣習や社会構造に深く根ざしており、その解決には多角的なアプローチが必要です。職場、家庭、教育、政治など、あらゆる分野での意識改革と具体的な施策の実行が求められています。
一人ひとりが自身の価値観を見直し、社会全体でジェンダー平等の実現に向けて取り組むことが、持続可能な社会づくりの基盤となるでしょう。今後も継続的な議論と行動を通じて、誰もが自分らしく生きられる社会の構築を目指していく必要があります。
ジェンダー平等の実現は、単に女性の権利向上にとどまらず、男性を含むすべての人々がより自由に自分らしい人生を選択できる社会につながります。
多様性を尊重し、一人ひとりの能力を最大限に発揮できる社会の実現に向けて、私たち一人ひとりが日々の生活の中でできることから行動を起こしていくことが重要ではないでしょうか。