渋谷ハロウィンのゴミ、誰が回収してる?楽しさの裏側にある「見えない労働」と私たちにできること

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10月末の夜、家の中で静かに過ごしていたあなたのスマホには、渋谷ハロウィンに関するSNSの通知が次々と流れてくるかもしれません。魔女、ゾンビ、プリンセス。渋谷の交差点に集まる人たちの姿。にぎやかな笑顔とともに、そこにはカップやビニール袋が散らばる光景も見られます。

「これ、朝にはどうなってるんだろう?」

たとえ直接その場にいなかったとしても、その“余波”は街や社会に確実に残っています。この記事では、ハロウィン後に街にあふれるゴミの「その後」を辿りながら、誰がどのように後片づけをしているのか、私たちにできることについて考えていきます。

【2024最新】渋谷ハロウィンとゴミ問題|持続可能な祭典のために
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【2024最新】渋谷ハロウィンとゴミ問題|持続可能な祭典のために

11月1日の路上では「参加者じゃない人たち」が街を支えている

11月1日の路上では「参加者じゃない人たち」が街を支えている

夜が明けると、華やかな仮装の名残はゴミとして路上に残ります。カラースプレーで染まったウィッグ、割れた仮面、食べかけのまま捨てられたお菓子の包み。あの非日常の祭りの翌朝、最初に街に立つのは、清掃員やボランティアの人たちです。

渋谷のハロウィンが「中止」になった理由

渋谷区は2023年から、ハロウィン当日の来街を「自粛要請」するという異例の対策を講じました。区長自らが「仮装目的で渋谷に来ないで」と呼びかけた背景には、過去の騒動やゴミ問題の深刻さがあります。

2018年には軽トラックの横転事件が発生したことは記憶に新しいでしょう。そのほかにも路上飲酒や騒音、痴漢、そして大量のポイ捨ては毎年問題になっています。まるで「祭りの後」の街は、誰にも責任を問えないまま荒れていったのです。

ハロウィンごみは1晩で9トン以上

2017年、日本経済大学 東京渋谷キャンパスの留学生を含む950名の学生が谷道玄坂、文化村通り、ゴールデン街にて3日間にわたりゴミ拾いを行いました。その結果、ゴミの数は1025袋超だったという情報があります。可燃ごみが3割程度を占めており、その多くがハロウィンの衣装だったとのことです。

清掃作業の多くは、自治体職員や業者だけではありません。市民ボランティアやNPO、地域商店街、上記のような大学生チームなど、“顔の見えない誰か”の手によって衛生環境が支えられているのです。

なぜゴミが捨てられてしまうのか?ハロウィンに潜む「群衆心理」の落とし穴

なぜゴミが捨てられてしまうのか?ハロウィンに潜む「群衆心理」の落とし穴

ハロウィン当夜、渋谷の街にあふれるのは仮装と熱気、そして“無数のごみ”。なぜ、楽しいイベントの裏で、こんなにもゴミ問題が深刻化してしまうのでしょうか?

その背景には、心理学的に説明できる「集団の魔法」が潜んでいます。

「みんなやってるから」の魔力

大勢の人が集まる場では、一人ひとりの責任感が薄れがちです。これを心理学では「責任の希釈化」と呼びます。自分が片づけなくても「誰かがやってくれるだろう」という空気が漂い、ゴミが放置されやすくなるのです。

顔を隠すと、モラルも隠れる

仮装やマスクで顔が隠れると、人は自分の“素の姿”から一時的に解放されます。匿名性が高まると、日常なら取らないような行動(ポイ捨て、大声、無断飲食など)が平気になってしまうことも。

「非日常」の免罪符

ハロウィンは、普段のルールを忘れて楽しむ“ハレの日”。その解放感が、「ちょっとくらい」「細かいことは気にしない」といった気持ちを生みやすくなります

街は“誰かのもの”という幻想

渋谷という大都市は、多くの人にとって「自分の街」ではないかもしれません。そのため、ゴミを捨てることへの罪悪感が薄くなりがちです。 「どうせ掃除する人がいるでしょ」「自分ひとりのゴミなんて関係ない」という無意識の他人任せが積み重なって、街はごみだらけになります。

渋谷ハロウィンの後に「見えない労働」を担う人たちの声

渋谷ハロウィンの後に「見えない労働」を担う人たちの声

「見えない労働」を担う人たちは、どのように活動を行っているのでしょうか。下記で詳しく調べていきましょう。

Greenbird|仮装のまま、ごみを拾う夜

渋谷・原宿を拠点に活動するNPO法人Greenbirdは、ハロウィンのたびに“仮装OK”のごみ拾いを実施。参加者は魔女の格好のまま、ゾンビの仮面をかぶったまま、黙々と吸い殻や空き缶を拾います

ボランティアとはいえ、活動は深夜〜早朝におよぶことも。若者が多く参加する一方、「仮装イベントに行かない人たち」も、街の未来を思ってほうきを手にしています。green birdとは「きれいな街は、人の心もきれいにする」をコンセプトに誕生した原宿表参道発信のプロジェクト。全国にチームがあり、活動はどんどん広がっています。

大阪・アメリカ村|街を守る“ごみ袋配布作戦”

大阪・アメリカ村では、年々増えるハロウィン来場者によって、ポイ捨てによる衛生悪化や地域の苦情が顕在化していました。しかし、地域飲食店、学生団体、NPOが手をつなぎ、街を“ごみ捨て禁止ゾーン”から“みんなで守る場所”へと変えようと動き始めます。

無料ごみ袋を配って、持ち帰りを促す

地域の飲食店や学生ボランティアが連携し、ハロウィン当日に ごみ袋を無料配布。来場者に手渡すことで、「持ち帰る意識」を働かせました。同時に「ポイ捨てやめようキャンペーン」も展開され、周囲の目に訴える意識づくりを行いました。

仮装とSNSで広がる「参加したくなる空気」

アメ村らしいカラフルな仮装スタイルで清掃に参加すること自体が “目立つけど楽しそうな行動” としてSNSで拡散。参加を迷う人も「やってみたい」と感じるような巻き込み効果が生まれました。SNSでの呼びかけも功を奏し、若者世代を中心に参加が広がります。

活動成果と少しずつ根づく清掃文化

こうした取り組みにより、以前に比べて 路上ゴミや飲食ごみの放置は減少傾向にあります。地域において「ごみ袋をもらって、持ち帰る」という文化が芽吹き始めています。まさに “巻き込み型清掃文化” の芽生えです。

心理効果:責任の共有と主体的行動がカギに

この作戦は、心理的にも有効な仕掛けが多く取り入れられています。

  • 責任の拡散を防ぐ:個別にごみ袋を渡されることで、一人ひとりが「私が持ち帰る」という意識を持つようになり、責任が希釈されません。
  • 匿名性を逆手に取る:仮装という匿名性を、「誰かのために拾う自分」を演出する道具として活かし、モラル行動を促進します。
  • 情動感染の良い方向への活用:SNS上に広がる楽しそうな清掃風景が、周囲にも「やる気」を伝播させています。
  • 他人ごと化を防ぐ巻き込み:地域飲食店と若者の協働が「街を守る共同体感」を醸成し、公共意識の高まりへつながります。

上記のような工夫によって、大阪のハロウィンごみ問題は解消傾向にあります。

海外|カナダ・トロントのGreen Halloween

海外では、“サステナブルなハロウィン”を目指す自治体の動きも広がっています。たとえばカナダ・トロントでは、「Green Halloween」と題して、下記のような取り組みが行われています。

  • 使い捨て仮装の削減
  • リサイクル素材のお菓子包材
  • 衣装の交換イベント

イベントの“裏側”にも、行政の予算と市民の協力がしっかりと投入されているのです。

私たちにできる、屋外ハロウィンへのエシカルな選択

私たちにできる、屋外ハロウィンへのエシカルな選択

「参加していないのに関係ある?」と思ったあなたにも、できることがあります。楽しむ人がいる以上、支える人も必要。その構造は必ずしも対立ではありません。小さな気づきや行動が、見えない誰かの疲労を軽くするのです。

ここでは、渋谷のような繁華街でのハロウィンを想定しながら、実践しやすい10の行動をご紹介します。

ごみを持ち帰る用のバッグを持参する

渋谷の路上で見かけるごみの多くは、コンビニ袋やテイクアウト容器、コスプレ小道具の包装などです。小さなエコバッグを一枚、ポケットやバッグに忍ばせておくだけで、「ごみ箱がないから捨てた」という言い訳は減らせます

「ごみ箱が少ない」のは、事件やテロ対策のため。だからこそ、自分のごみは自分で管理する意識が必要です。

仮装グッズはリユースできる素材・レンタルを選ぶ

100均の仮装アイテムは安価で手軽ですが、使用後はそのままポイ捨てされがち。渋谷の朝、通りには破れたマントや折れた魔法の杖が散乱しています。

今年の衣装は来年も使えるでしょうか。それとも、1日だけの「使い捨て」でしょうか。レンタル衣装サービスや、メルカリなどの中古活用もおすすめです。

飲食は「店の中」で済ませるよう意識する

「路上で飲んで捨てる」という流れがごみ問題の温床になっています。特に渋谷センター街や公園通りでは、食べ残しやスナック菓子の包装が大量に落ちているのが現状です。

飲食は店の中で。外で食べる場合は、持ち帰れるように準備する。これだけでも、路上がずっときれいになります。

SNSで「片づけまでがイベント」という価値観を発信する

SNSで映える写真を撮る人は多いですが、「そのあと片づけもしたよ」という投稿はあまり見かけません。

しかしあなたの投稿がきっかけで、誰かが気づくかもしれません。「ゴミ拾いも含めて楽しい!」という空気が広がれば、渋谷の未来は変わっていきます。

清掃ボランティアに参加する、または寄付をする

渋谷では、ハロウィン当夜〜明け方にかけて、NPOや市民団体が自主清掃を行っています。Greenbirdのような団体では、仮装したまま参加できるごみ拾いも実施中です。

当日参加できなくても、運営費用への寄付やSNSシェアで支援することもできるため、ぜひチェックしてみてください。

「誰かがやる」ではなく「自分もできるかも」の視点を持つ

渋谷のごみ問題は、行政や清掃業者だけでは解決できません。「わたし一人が変わっても、意味がない」と思う気持ちこそ、変化の入口にできます。小さな行動が、周囲に波紋を広げていくからです。あなたの手元から始まる未来が、誰かの負担を減らすことにつながります。

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まとめ|渋谷ハロウィンのあとにも、働いている人がいる

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華やかな仮装。仲間との笑い。SNSに映える一瞬の写真。そのすべては、“誰か”が支えたこの街の上で成り立っています。

たとえ参加していなくても、あなたに無関係ではありません。なぜなら「街」は、あなたの暮らしそのものだからです。「来年もこの街で、また笑い合えますように」という願いを込めて、ほんの少しだけゴミのことを考えてみてください。

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