日本の食料調達の未来|内陸での養殖
SDGsの17のゴールのなかには、食料に関するものがあります。2の「飢饉をゼロに」、14の「海の豊かさを守ろう」、15の「陸の豊かさも守ろう」です。
農林水産省のデータによると、2021年度の日本の食料自給率は、カロリーベースで38%。前年度よりは1ポイント改善しましたが、依然として低い状況です。
食料国産率(飼料自給率を反映しない数値)で見ても47%と低く、飼料自給率は25%しかありません。
地球温暖化などで穀物や野菜、果物の生育に影響が出てきており、政府は2030年度にカロリーベースの食料自給率を45%に高めることを目標にしています。
今後は食料の自給率をあげたり、海外から確保したりすることが重要な政策になっていくでしょう。
海なし県でバナメイエビの養殖が成功
日本テレビの人気番組「ザ!鉄腕!DASH!!」では、過去に山梨県と福島県でバナメイエビの養殖が紹介されていました。
山梨県は海なし県なので、海のエビの養殖と聞くだけでびっくりですが、構想から40年で実現したそうです。
育てるための海水は、富士山の湧き水と静岡・駿河湾の海水をブレンドしているとのこと。
様々な海水で試してみて、美味しく育つエビの環境を独自につくっています。
一方、福島県のバナメイエビの養殖も内陸、それも常磐線浪江駅に併設されています。
事業主体はJR東日本水戸支社など。約3000尾を養殖しています。
こちらはまだ実験段階ですが、面白いのは自動車1台分(約10平方メートル)のスペースがあれば養殖ができるシステムを使っている点です。
水の浄化には微生物を利用し、電源や熱源は太陽光を活用することで、環境負荷の少ないシステムになっているのも注目です。
スペースが少なくて済むことと合わせて、場所を選ばずに設置できるので、今後の展開にも注視していきたいです。
養殖で新たな需要喚起も
陸上での魚介類の養殖では、海での養殖とは別のメリットもあります。
それが消費者の近くで養殖できることによる鮮度と、寄生虫のないことによる安全な生食ができるということです。
大阪・豊中市では、このメリットを活用して鯖の養殖研究を行なっている企業があります。
生き腐れとも言われるほど足がはやい鯖ですが、商店街のビルの一角で養殖することで、刺身でも食べることができる鮮度で流通に流す事ができます。
また、人工海水を使用し、循環させる際にも浄化装置を入れていることと、稚魚から育てることで、寄生虫の心配もありません。
鯖の刺身は九州の一部では食べられることがありますが、足がはやいことが原因でそれ以外の地域ではあまり聞きません。
そういった生食の文化がない地域でも、この技術を活用することで生で食べることができるようになります。
淡水魚のチョウザメ養殖|キャビアだけでなく料理にも活用
海の魚ではないですが、チョウザメの養殖でも、新たな文化が生まれています。
チョウザメはキャビアが取れるため、長年、養殖の研究が行われてきていましたが、なかなか難しく、成功例は少ないです。
その中でも、岩手県や、宮崎県、愛知県、長野県、岐阜県などで成功しています。
愛知県の事例では、設楽郡豊根町でチョウザメの養殖に成功しています。
もともとはアマゴやニジマスの養殖をしていたところに、過疎化対策と新たな産業・特産品ということでスタートしました。
しかし、簡単には行かず、半数近くの稚魚が死んでしまうこともあったそうです。
現在では、チョウザメの養殖も成功し、キャビアも「ロイヤルキャビア」の名で売られています。
さらにチョウザメ料理が新たな名物となっています。
チョウザメコースや、お寿司、薄造り、チョウザメの唐揚げとすり身の団子を乗せたザメ重などです。
豊根町は静岡県と長野県に接する山奥。そんな町ですが、チョウザメの料理を求めてリピーターがやってくるようになっています。
当初はキャビアで新たな産業・特産品をという狙いだったのでしょうが、チョウザメ料理という思わぬ副産物が生まれ、外からの観光客を呼び入れた好事例でしょう。
陸上養殖設備の市場規模も膨らむ
このように陸上での魚介類の養殖が各地で進んできています。
今後は食料の確保が重要な政策になっていくなかで、重要な産業となると思われます。
その動きに合わせて、養殖に必要な設備の市場規模も拡大していくと考えられています。
富士総研の調査によると、2021年の国内の陸上養殖(循環式)の市場規模は90億円でしたが、2030年には200億円と倍増すると予測されています。
これから注目していきたい業界です。