熊は「害獣」か?ハンター不足問題とマタギ文化に学ぶ共存の道

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熊は「害獣」か?ハンター不足問題とマタギ文化に学ぶ共存の道

2025年12月現在、北海道や東北をはじめとした寒冷地で主に観測されている「熊」問題。本来は山で暮らしているはずの熊が市街地に降りてきて恐怖を覚えたり、連日の報道に不安を覚えて「熊は害獣だから排除すべき」といった声も聞こえてきます。

また、狩猟免許の取得を検討している方にとっては「駆除すると報奨金がもらえるの?」といった疑問も出てくるかもしれません。

しかし、ここで一つの疑問が生まれます。

「野生の熊を排除したからといって、熊問題は本当に解決するのか?」ということです。駆除するだけでは、その場しのぎの解決にしかなりません。ニュースやSNSでは「熊=危険」「熊=害獣」という単純な図式が並ぶこともありますが、問題の背景には、もっと複雑で深刻な社会課題が存在していることをご存知でしょうか。

この記事では、主に下記の3つについて解説します。

  • 熊は本当に「害獣」なのか?
  • なぜここ最近急激に市街地での出没が増えているのか?
  • ハンターの報奨金制度や駆除の限界

熊を「ただの害獣」とする前提から問い直し、この記事では熊との「持続可能な未来(サステナブル)」について考えてみましょう。

熊が「害獣指定」される背景

熊が「害獣指定」される背景

まずは、ネット検索で多くの方が疑問に思っている「熊は法律上、害獣なの?」という疑問にお答えするところから始めたいと思います。

法律上、熊は「有害鳥獣」として駆除される

日本には「鳥獣保護管理法」という法律があります。

鳥獣保護管理法とは、鳥獣の保護と管理・狩猟の適正化を図って生物の多様性や生活環境の保全、農林水産業の健全な発展に貢献することを目的とした法律です。

この法律では、野生動物は原則として保護対象ですが、以下が確認された場合は「有害鳥獣」として捕獲許可が出されます。

  • 農作物被害
  • 人身被害
  • 集落への頻繁な出没

つまり、熊そのものが「害獣」として全国一律で指定されているわけではなく、あくまで地域・状況によって有害鳥獣として扱われることがあるという取り決めになっています。

例えば、熊本県は熊を害獣として指定しています。

その背景として、熊本県の一部の地域で実際に被害が増え、特定期間に捕獲許可や注意喚起が出されたことにあります。

熊が人里に出没する理由

熊が人里に出没する理由

自然豊かな奥山に住んでいた熊が、近年私たちが住む住宅地に現れるようになった理由には
人間側の環境変化が大きく関わっています。

1.エサ不足:ドングリ不作であるため

熊の主食であるドングリが不作になると、冬眠に向けて高栄養の食べ物を求めて里へ降りてきます。

この不作である原因として、地球温暖化が挙げられます。

地球温暖化による気温上昇で木が冬の訪れを間違って花や実をつける時期を逃してしまっているため、結果的に熊が食糧を探し求めて人里に降りてくるというわけです。

2.生息地の分断になっているため

森が道路や住宅開発で細かく分断されてしまうことで熊の移動ルートが変わり、結果として市街地に近づきやすくなっています。

他にも森林開発による人工林の増加や、道路・ダムなどによる生息地の物理的な分断が、住む場所がなくなった熊が居場所を求めて里へ降りてくる一因となります。

3.人間側の誘引物が増えた

人間が出す主な下記の3つは、本能的に熊を人里に呼び寄せる誘因となり得ます。

  • 放置された生ゴミ
  • 放任された果樹
  • キャンプ場の食べ残し

こうした匂いの強い食べ物が、エサを求める熊を学習的に人里へ引き寄せてしまっている現状は否めません

熊を害獣駆除したときに報奨金は出る?

熊を害獣駆除したときに報奨金は出る?

熊を捕獲した場合、自治体によっては熊1頭あたり1〜3万円程度の捕獲報奨金が出る地域があります。

しかし、これには大きな限界があります。下記で詳しくその理由を見ていきましょう。

1.報奨金よりも「捕獲することで起こるリスクが高すぎる」

野生鳥獣による被害対策や捕獲活動。言葉の響きからは想像できないほど、実際の現場は過酷で、常に危険と隣り合わせです。

第一の壁は、自然そのものの脅威です。 道なき山奥へ分け入る活動は、常に遭難のリスクを伴います。足場の悪い急斜面や変わりやすい山の天候は、ベテランであっても一歩間違えれば命に関わる事故につながります。

2.報奨金があっても、実際に捕獲できるハンターがいない

この問題をさらに深刻にしているのが、次に紹介する「ハンター不足」です。

また、活動は時間を選んでくれません。 特に夜間の出動要請は、ハンターたちの心身を削ります。「いつ呼び出されるかわからない」という緊張状態が続くため、十分な睡眠や休息をとることが難しくなります。深夜、家族が寝静まる中での緊急出動は、精神的にも大きな負担となります。

対峙するのは強大な力を持つ大型獣です。 クマやイノシシなどの大型獣を相手にするには、生半可な知識では太刀打ちできません。獲物の習性を読み、瞬時の判断を下す高い技術力が求められます。ひとつのミスが自身の命に関わるため、極限の集中力が必要です。

そして、仕留めて終わりではありません。 捕獲後には、解体や運搬という重労働が待っています。数百キロにもなる獲物を、道のない山から引き出し、適切に処理をする。その労力は計り知れません。

深刻な「ハンター不足」という社会課題がある

深刻な「ハンター不足」という社会課題がある

現状の熊問題を語るうえで、最も重要なのがここです。
いま日本は、ハンターが壊滅的に不足しています。

1.ハンターの高齢化と後継者不足

1990年代には40万人以上いた狩猟免許所持者は、近年では10万人以下にまで減少しました。さらに実際に活動しているハンターは5〜6万人規模と言われています。

しかも、約7割が60歳以上と高齢と、若者がハンターにならない理由は明確といえるかもしれません。

2.ハンターになるためのコストが高い

ハンターのなり手が少ない要因の一つに、高額な費用負担が挙げられます。 まず、猟銃そのものの購入費に数十万円単位の初期費用がかかります。

さらに、免許を取得した後も、毎年の狩猟税、猟友会の会費、保険料、そして実包(弾)の購入費などが必要です。 このように、開始時だけでなく、活動を継続するための維持費も大きな経済的負担となっています。

3.「危険で時間もかかる」というイメージ

ハンターだけで収入を得ることは出来高制になるため非常に難しくなる傾向にあります。そのため、多くの人が本業と二足の草鞋になることになるでしょう。

しかし両立は先ほど挙げた夜間の出動もあることから両立しにくく、ハンターになるための訓練も必要。また「動物を殺す仕事」という社会的な理解不足も、若者を遠ざけています。

4.ジビエの流通が難しい

「そもそもジビエって何?」という疑問を持つ方も多いかもしれませんが、ジビエとはフランス語で狩猟で捕獲した野生鳥獣のお肉のことをいいます。

野生鳥獣をハンターが捕獲したとしても、解体設備や流通網、またジビエを料理として提供される飲食店がなければ収入にはならず、ハンターとしてのモチベーションも続きません。

こういった問題から、熊被害が増えても、駆除・管理できる担い手が圧倒的に足りないこと。これが日本の深刻な現実です。

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2.飢餓をゼロに15.陸の豊かさも守ろう

サステナブル視点では、ハンターは「生態系の管理者」でもある

多くの人はハンターを「動物を殺す人」と捉えがちですが、本来の役割は下記の3つです。

  • 生態系バランスの調整
  • 野生動物の適正管理
  • 人と自然との境界を守る存在

しかし、その担い手が減ることで、野生動物の管理が持続不可能な状態になりつつあります。

マタギ文化に学ぶ、サステナブルな「共存」の知恵

マタギ文化に学ぶ、サステナブルな「共存」の知恵

ここからは、単なる「駆除」とは異なる、もう一つの重要な視点を紹介します。
それが、東北地方に古くから伝わるマタギ文化です。

マタギとは何か?

ここではマタギとは何かを説明します。マタギとは「山の民」や「山の猟師」とも言われ、自然と共存しながら生きてきた専門職のことをいいます。

単なるハンターという位置づけではなく、自然のリズムを読み、必要な分だけを獲り、獲った命は捨てずに使い切るという哲学を持っています。

熊は「山の神からの授かりもの」

マタギにとって、熊は獲物ではなく山の神が与えた尊い命だと考えられています考えます。
だからこそ、必要以上に獲ることはせず、命を粗末にすることはしません

解体のすべてを無駄なく活用し、熊の胆(クマノイ)の薬用利用・肉の活用皮の活用・骨の活用と、狩りをした際には全てを資源として扱ってきました。

ゾーニングの知恵:棲み分けによる共存

マタギ文化には、山は「人の領域」と「熊の領域」を区分する知恵があり、これが今でいう「ゾーニング」や「バッファーゾーン」の考え方と共通します。

ゾーニングとは、特定の地域や区域を用途や目的によって区分けし、それぞれに異なる規制やルールを設けることを指し、バッファーゾーンとは緩衝地帯や緩衝区域を意味し、対立する物事の間に置かれることで影響を緩和して保護する役割を担います。

熊を駆除して排除するのではなく、熊と人間、お互いが尊重し合う距離を保つ。この思想こそが、現代の共存・管理のヒントになります。

熊が害獣とされる現実に対して、私たちがやるべきこと

熊が害獣とされる現実に対して、私たちがやるべきこと

熊の出没は不安を生むのは確かです。しかし、その不安は私たちひとりひとりが意識して行動を変え、「具体的な行動」によって変えることができます。

1.個人として:熊を里に寄せ付けない暮らし

私たちが必要以上に熊(害獣)を暮らしに寄せ付けないためには、下記のような工夫ができます。

  • 生ゴミを外に放置しない
  • 庭の果樹を放任せずに、責任を持って育てる
  • キャンプ場で食べ物を放置せずに持ち帰る
  • 山へ入る際は熊鈴をつけ、ラジオを流す
  • 入山する時には単独行動を避け、集団で行動する

これらは、私たちを守るだけでなく熊を守ることにもつながります。熊が人里でエサを得てしまうことで「人里に降りればエサがある」と誤学習をしてしまうからです。

2.社会として:ハンターを支える仕組みづくり

個人レベルではなく社会全体としては、下記を意識して過ごすのが理想です。

  • ジビエを積極的に選ぶ(経済的な支援)
  • 地域で狩猟への理解を深める(社会的な支援)

「食べる」ことは「応援する」ことです。ジビエを消費者が購入されることによって、狩猟が産業として成り立ち、ハンターの活動資金やモチベーションへと還元されます。ハンターが地域住民から孤立しないよう、その活動が「地域の安全を守る公益的な活動」であることを正しく理解し、敬意を払う土壌が必要です。

解体施設や流通設備を整備する(インフラによる支援) 捕獲した個体を単なる廃棄物にするのではなく、貴重な資源として活用するための解体処理施設や流通網の整備が急務です。

ハンターはいわば、崩れかけた自然のバランスを調整する「生態系の管理者」。 彼らが活動しやすい環境を社会全体で整え、支えていかなければ、クマなどの大型獣を適正に管理し、私たちの暮らしを守り続けることは不可能だといえるでしょう。

3.地域として:棲み分け(ゾーニング)の再構築

人間が山の手入れをやめ、放置林が増えたことで、野生動物が里へ降りてきやすい環境が生まれてしまいました。この現状を打破し、熊問題を本質的に解決するためには、「里山の再生」が不可欠です。

具体的には、以下の3つの取り組みが鍵となります。

  • 緩衝帯(バッファーゾーン)の整備
  • 里山の保全
  • 地域ぐるみの対策会議

かつて機能していた「人間と野生動物の住み分け」を取り戻すことこそが、被害を未然に防ぐ最大の防御策となります。

まとめ|熊を「害獣」と呼ぶ前に、私たち人間が考えるべきこと

まとめ|熊を「害獣」と呼ぶ前に、私たち人間が考えるべきこと

熊を「危険だから駆除すべき」と考えるのは、昨今の報道を見ていれば自然なことです。
しかしその背景には、主に下記5つの要因があることを忘れてはなりません。

  • 環境変化
  • 人間側の誘引物
  • ドングリ不足
  • ハンター不足
  • ゾーニングの崩壊

複数の社会課題が重なって、2025年になって頻発していることだといえますその中で私たち人間が作っている原因もいくつかあることもまた事実です。

熊を「害獣」と呼ぶのは簡単です。しかし、山と人との関係性を見直さなければ、駆除だけでは問題は何も解決しません。マタギ文化が教えてくれるのは、排除ではなく、敬意ある管理と共存という道。

私たちの安全と自然保護のバランスをとるためには、熊と人間の関係性を「持続可能な形」にアップデートする時代が来ています。今日から自分にできることをひとつずつ行っていきましょう。

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