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サングラスをかけることは、私たちにとって“当たり前の季節の習慣”になりました。紫外線が強くなると、自然と手が伸びる。でも、ふと立ち止まって想像してみてください。
いま、この地球で進んでいる気候変動が、遠い国の誰かの「視力」そのものを奪っているとしたら?環境問題とアイケア。一見まったく別の話に見えます。しかし、SDGsや国際NGOの現場では「気候正義(Climate Justice)」や「公衆衛生」の文脈で、これらは深く結びついたテーマとして語られています。
この記事では、気候難民が直面する“見えない危機”と、私たちが日常のなかで選べるエシカルなアイケアについて紐解いていきます。

「気温が上がるだけで、どうして目が見えなくなるの?」と疑問に思うのも無理はありません。しかし、気候変動が引き起こす環境の変化は、私たちの想像以上に過酷なドミノ倒しを「目」に引き起こしているのです。主な要因は、「水不足」と「紫外線」です。
干ばつ。乾いた地面。気候変動によって雨が降らなくなり、生活用水の確保さえままならない地域が増えています。静かに、しかし爆発的に広がっているのが「トラコーマ」という感染症です。
トラコーマとは、厚生労働省検疫所によると「感染した人、特に保菌者となる若年者の眼や鼻から出る分泌物との接触で感染」する病気です。まぶたの裏に小さな粒状の炎症ができ、痛みを繰り返すことでまぶたが内側に巻き込まれ、まつげが角膜を傷つけるという症状です。
不衛生な環境を好むハエが媒介するこの病気は、放置すれば失明に至る恐ろしいものですが、実は「顔を洗って清潔に保つ」だけで予防が可能です。しかし、飲み水さえ足りない極限状態では、顔を洗うための水などあるはずもありません。
本来防げるはずの病が、水不足という環境要因によって、多くの人々の光を奪っているのです。特に水汲みなどの家事労働を担うことの多い女性や子どもたちへの感染リスクが高い点も、ジェンダー課題として深刻視されています。
もう一つの要因は、逃げる過程でさらされる「光」の暴力です。
気候災害で家を追われ、遮るもののない炎天下を何日も歩き続ける避難生活。砂埃を浴び続け、目を守るサングラスもない状況が続けば、白内障や角膜疾患は急速に悪化します。
オゾン層破壊の影響に加え、長時間紫外線に暴露されることで水晶体はダメージを蓄積していきます。WHO(世界保健機関)も紫外線の過剰な暴露が白内障のリスクを高めると警告していますが、医療アクセスのない難民キャンプでは、手術で治るはずの白内障が「永久的な失明」へと直結してしまうのです。

視力を失うことは、単に「不便になる」だけではありません。紛争や災害が日常化している地域において、見えないことは「逃げ遅れ」を意味し、そのまま命の危険に直結します。
自分にとって身近もし災害が起きたとき、メガネを落としてしまったら、コンタクトレンズの予備がなかったら、と考えてみましょう。
私たちでもその場から動けず、不安でたまらなくなるはずです。瓦礫の中を歩き、知らない土地へ逃げ、家族を探さなければならない状況だとしたらどうでしょうか。視力は、まさに「生き延びるための力」そのものです。難民支援の現場では、メガネがないために危険を回避できなかったり、家族とはぐれて取り残されたりするケースが現実に起きています。
これは「インクルーシブ防災(誰ひとり取り残さない防災)」の観点からも、早急に解決すべき課題です。
また、視力は未来への切符でもあります。難民キャンプの学校に通えたとしても、黒板の文字が見えなければ授業についていけず、ドロップアウトしてしまう子どもたちがいます。
視力矯正は、単なる医療行為を超えた「未来を守る権利(Right to Sight)」です。
たった1本のメガネがあれば、子どもたちは読み書きを習得し、将来自立して生きていくための“生活の糧”を得ることができます。貧困の連鎖を断ち切るために、メガネは最もコストパフォーマンスが高く、効果的なツールの一つなのです。
WHOの機関誌(Bulletin of the World Health Organization)にも掲載された研究論文によると、世界では約2億2200万人もの人々が、病気ではない理由で視覚障害の状態に陥っているという発表があります。
具体的には「未矯正の屈折異常(Uncorrected Refractive Errors)」と呼ばれています。近視や乱視であるにもかかわらず、適切なメガネやコンタクトレンズを持っていないことが原因で視覚障害の状態になる、というロジックです。
これが示すのは「ただ1本のメガネがあれば、世界が見えるようになる人」が1億人以上いるという事実です。災害時にメガネを失い、そのまま避難生活を送る難民の方々もこの数に含まれます。瓦礫の中を歩き、家族を探す避難行動において、視力がないことは致命的なリスクとなります。
「インクルーシブ防災」の観点からも、この「未矯正の視力」への支援は急務となっているのです。
視力の欠如は、子どもたちの未来も閉ざしてしまいます。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が発表した『Refugee Education Report 2024』によると、難民の子どもたちの就学率は初等教育(小学校)では約65%まで改善しているものの、中等教育(中学校・高校)になると約42%へと急激に低下してしまいます。
なぜ、半分近くの子どもが学校を去ってしまうのか。もちろん労働や貧困など理由は複合的ですが、隠れた大きな要因の一つに「視力」があります。学年が上がって黒板の字が小さくなり、教科書の内容が細かくなると、未矯正の近視の子どもたちは授業についていけなくなります。
「勉強ができない」のではなく、「見えない」だけ。メガネさえあれば学び続けられたはずの子どもたちが教育の機会を失い、結果として貧困の連鎖から抜け出せなくなることが、難民キャンプで起きている「教育の崖」の現実なのです。

では、遠く離れた日本にいる私たちに何ができるのでしょうか。
特別な寄付活動を始めなくても大丈夫。次にメガネを新調するとき、あるいはコンタクトレンズを外すとき、「ブランドや捨て方の選び方」を変えるだけで、支援の輪に参加することができます。
世界には「あなたが1本のメガネを買うと、もう1本が途上国へ贈られる」、あるいは売上の一部が視力支援活動に寄付される仕組みを持つブランドがあります。
例えば、日本のアイウェアブランド「OWNDAYS(オンデーズ)」は、「Eye Camp」という活動を通じて、メガネを必要とする世界中の人々に視力検査を行い、現地でメガネを加工してプレゼントしています。
また、目薬ボトルの廃プラスチックをアップサイクルしたサングラスを展開する「eyeforthree(アイフォースリー)」は、売上の一部でインドの貧困層への白内障手術を支援しています。買うことが未来への貢献になると考えれば、日常の買い物が誰かの視界をひらく支援につながるのです。
もしコンタクトレンズユーザーなら、今日からすぐにできることがあります。それは「空ケース(ブリスター)のリサイクル」です。
コンタクトレンズ専門店「アイシティ」が行っている「ecoプロジェクト」などが有名ですが、メーカーを問わず空ケースを店頭回収しているお店が増えています。回収されたケースは再資源化されてCO2削減に貢献するだけでなく、その収益が「日本アイバンク協会」へ寄付され、角膜移植を待つ方々の視力回復支援に役立てられているケースもあります。
ゴミとして捨てていたプラスチックが、巡り巡って誰かの「見える」を守る助けになる。これぞ、身近なサーキュラーエコノミー(循環型経済)です。
フレームの素材に注目してみるのも一つの手です。
たとえば大手メガネブランド「Zoff(ゾフ)」は、「See Blue Project」として、海岸に漂着したペットボトルなどの海洋プラスチックを再生したフレームを展開しています。
また、鯖江発のブランド「jugaad14(ジュガードフォーティーン)」のように、金属パーツを一切使わず、土に還る生分解性バイオポリマーのみで作られたエシカルなアイウェアも登場しています。石油由来のプラスチックを減らし、気候変動を抑える小さな選択。それが巡り巡って気候難民を減らし、「目を守れる人」を増やす未来につながっていくはずです。

「気候変動」と「アイケア」。遠く離れた別々の問題だと思っていたかもしれません。しかし、この二つは貧困、ジェンダー、そして子どもたちの教育という、社会の根幹に関わる太いパイプで繋がっています。
今回ご紹介した世界で1.5億人がメガネを持てずにいる事実や、視力が原因で学びを諦める難民の子どもたちの現実は、決して悲観するためだけのものではありません。「メガネひとつ、コンタクトレンズのケースひとつで、解決できる課題がこれほどある」という、希望の裏返しでもあります。
私たちが日本で何気なく選ぶ「エシカルなアイウェア」や、習慣として行う「ケースのリサイクル」。 それは小さな行動に見えるかもしれませんが、確実に海を越え、乾燥した大地で暮らす誰かの感染症を防ぎ、避難する家族の安全を守り、教室で黒板を見つめる子どもの未来を照らしています。
次に新しいメガネやサングラスを手に取るとき、ぜひそのレンズの向こう側を想像してみてください。 あなたの「見る」を守るその選択が、巡り巡って世界のどこかで、誰かの「生きる光」を守る確かな支えになっています。
早稲田大学文学部社会学コース卒業。「環境」と「教育」を軸に暮らしと社会の接点を紡ぐフリーランスライター/ディレクター。メディア記事の執筆だけでなく、企画設計や構成、インタビュー、編集ディレクションまで一貫して手がける。ジェンダーやケア、感情のグラデーションといったテーマにも関心が深く、「誰かの違和感をことばにする」ことを大切にしている。
