日本酒の級別制度-福岡県にある酒蔵の地酒づくりへの挑戦
現在、日本酒を楽しむのに「地酒」というキーワードはなくてはならないものとなっています。
「地酒」とは明確な定義が確立されているわけではありませんが、その名前が示す通り、特定の地域で生まれたお酒のことです。
しかし、この「地酒」という概念はここ数十年で出来上がったもの。
今回は、どのようにして「地酒」の概念が出来上がったか紹介していきます。
日本酒の級別制度とは?昔は純米酒も大吟醸もなかった
お酒には特級酒、一級酒、二級酒という分け方がされていた時期があります(1992年廃止)。
名前の響きとしては「特級酒」が、一番品質が良いように思いますし、特級酒は「品質が優良なもの」、一級酒は「品質が佳良なもの」と決められていました。
しかし、実は一概にそうとも言えないものだったのです。
当時、お酒は作られた段階ですべて二級酒となり、蔵元が特級酒、一級酒の認定を得たい場合のみ、級別審査に出すという流れでした。さらに検査は、酒の色や香り、味の欠点をチェックする減点方式でした。
そのため、色が付いていたり、味や香りに特徴的なものがあったりすると特級酒に選ばれません。
個性的なものは否定されるため、特級酒の味は画一的なものとなっていました。
一般的に、特級酒の方が美味しいお酒というイメージはあったようですが、お酒好きの中では特級酒より二級酒の方が美味しいという話となり、逆転現象が起こっていました。
平成に入って、お酒の改革が行われる
平成に入ってから、長野県の真澄(ますみ)や、新潟のキレのある日本酒を中心にしたブームが起こります。
また、級別制度に反発した宮城県の一ノ蔵が監査を受けない「無鑑査」という形でお酒を売り出しました。
こういった流れを受けて、1990年に「特定名称」という制度が導入されます。
現在、聞くようになった「純米酒」や「本醸造」といった名称が使用されるようになりました。これは味ではなく酒米を何割削るかや、醸造アルコールの添加の有無など製造方法によるものです。
当時の情報を見ると、消費者側も販売者側も混乱したようです。なにをもって選べばよいか、今まで特級酒が美味しいお酒と思っていた一般の消費者が分からなかったからでした。
小売店などの販売者側も、酒造りがわからず、消費者にどんなお酒を選べば良いか説明ができなかったことが原因でした。
地元の材料で作られた地酒がなくなりつつある
このような日本酒の制度変遷があり、現在では各地の美味しいお酒が多くの人に評価されるようになりました。
若い杜氏の山形県の十四代(じゅうよんだい)であったり、山口県の獺祭(だっさい)であったり、日本各地の日本酒の名前が聞かれるようになりました。
ただし、このような日本酒のブームには裏の面もあります。
現在、日本酒の美味しさを評価する品評会というのがあります。品評会で評価を得るために、特定地域で作付けされた酒米を買い、決まった酵母を使う人も増えました。
級別制度の特級酒のような画一的な味のお酒が評価される状況を生み出しているとも言えます。つまり、地元のお米と水、蔵付きの酵母で作っていた古くからある地酒の姿がなくなりつつあるということです。
西日本の酒造りで有名なのは兵庫県の灘(なだ)ですが、そこに加えて広島県の西条(さじょう)、福岡県の城島(じょうじま)と合わせて西日本の三大酒造の地と言われています。
灘は言わずとしれた酒蔵の町ですが、西条でも賀茂鶴さんが有名です。
福岡県の城島もお酒や醤油の醸造で栄えた町で、九州一の酒造量を誇っていましたが、最近ではあまり名前を聞かなくなってしまいました。
福岡県にある酒蔵の挑戦
福岡県にある、城島の酒蔵「花の露」さんが城島のお酒を作ろうと地元農家さん、地元の酒屋さん、有志の方々と取り組んで作ったお酒があります。
地元農家さんの協力を得て、酒米「山田錦」の生産をスタートさせました。酒米は食用米と比べて丈が高いため、風などで倒れてしまうリスクが高まります。台風などの影響を受ける九州では、非常に難しい挑戦でした。
そのため、農家さんとしても食用米の方が安定的な収入を得られるのですが、地元のお酒を造るという目的のために協力をされています。
お酒を作る水は、城島に流れる筑後川の水を利用しています。筑後川の下流域は、干満差の激しい有明海の影響を受けます。
満潮時には、川下から川上に逆流が発生するのですが、川の下層に重い潮水が流れ込み、上層は青々と澄んだ真水となります。この澄んだ水を「アオ」と呼び、酒を作る仕込み水として使っています。
地元のお米と仕込み水で作ったお酒は、地元の「酒乃竹屋」さんが全国へ販売しています。
まとめ
地元の協力の下、作られたお酒は「城島が元気に、みんなが栄えるように」という願いをこめて「榮(さかえ)」と名付けられました。
実際に飲んでみるとお米の旨みをしっかりと感じることができる辛口のお酒です。辛口というより旨口というイメージのお酒で、料理にも合わせやすいと思います。私は辛子明太子などと合わせました。
城島が所属する福岡県久留米市のふるさと納税の返礼品にも選ばれている一品です。城島の熱い想いのストーリーがあるお酒なので、お酒好きな方にはぜひ飲んでみてください。