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有価証券報告書におけるサステナビリティ開示の義務化に伴い、多くの企業がサステナビリティへの取り組みと、自社の事業との結びつき・意義・ストーリーを作るようになりました。
有価証券報告書で説明をしている企業は多いですが、多くの企業が有価証券報告書とは別に「統合報告書」も出し、自社のサステナビリティの活動を説明しています。この統合報告書の作成には、法的義務はありませんが、自主的に発行しています。
有価証券報告書を出しているのに、なぜわざわざ別の報告書を作る必要があるのでしょうか。有価証券報告書との違い、統合報告書の目的を見ていきましょう。また、就活生に向けてサステナビリティ活動をアピールするための、有価証券報告書、統合報告書の活用の仕方も見ていきます。

有価証券報告書と統合報告書の違いを簡単に言うと「過去のデータ」を説明しているか、「未来の設計図」を語っているかという点にあります。
法律(金融商品取引法)で定められた枠組みに従い、過去の財務実績や、現在直面しているリスクを「文字ベース」で客観的かつ厳密に報告する書類です。
ルールに沿った開示が求められるため、自由度は低いです。一方で、全ての会社が同じ項目で説明をしているため、会社ごとの比較をするのが容易になります。主に「守りのディスクロージャー(情報開示)」としての性格を持ちます。
義務ではありませんが、自社の「財務情報(過去の利益)」と「非財務情報(環境・社会・ガバナンスなどへの取り組み)」を統合し、「わが社はこれらの資源を使って、将来どのように価値を生み出し、成長していくのか」というストーリー(価値創造ストーリー)を語るための書類です。図解やデザインを多用し、企業の魅力を前向きに伝える「攻めのコミュニケーションツール」と言えます。
統合報告書のターゲットは、中長期的な視点を持つ「投資家や金融機関」です。これは有価証券報告書と同じです。
有価証券報告書の項目でも説明しましたが、統合報告書でも伝えるべき目的は、単に「環境に良いことをしています」という社会貢献のアピールではありません。「サステナビリティ(ESG)への投資が、巡り巡ってどのように自社の将来の利益(経済価値)に結びつくのか」という因果関係(ロジック)を証明することです。
投資家は、目先の利益だけでなく、「10年後もこの企業は生き残り、成長し続けられるか」を見ています。統合報告書は、その中長期的な生存能力(レジリエンス)を信頼してもらうために発行されるのです。

統合報告書には、国際的なフレームワーク(IIRC等)が存在しますが、記載内容の自由度は高いです。その中でも、入れておくべき情報は次のようなものとなり、サステナビリティへの取り組みと、自社の事業とを語るストーリーの骨格となります。
逆に、有価証券報告書では必要だったもので、統合報告書に記入しなくても良い項目があります。
「網羅的な数字の羅列」や「形式的な組織図」は不要です。数値は財務データのなかで主要なものに絞り、詳細な財務諸表は有報やWebサイトへのリンク(QRコード等)で代替します。主要かどうかを判断する指標は、ストーリーを語るうえで必要な数値は残し、いれなくてもストーリーに影響しない細かいデータは大胆に削り、読みやすさを優先するのが鉄則です。
作成した統合報告書は、まずは投資家の目に着くようにしましょう。株主総会などで配ったり、IR情報のWebサイトに公開したりします。そのうえで、多方面への営業・広報ツールとしても利用できます。
サステナビリティ開示でも中小企業が対応するべきかを説明しましたが、統合報告書も決して大企業だけのものではありません。リソースの限られた中小企業にこそ、実は非常に有効な武器になります。
中小企業が大手企業と差別化し、生き残るためには「価格競争」ではなく「独自の強み(理念や技術、人材の質)」を伝える必要があります。
冊子として印刷しなくとも、Webサイト上に数ページの「ミニ統合報告書(価値創造ストーリー)」を掲載しておくだけで、主要取引先(上場企業)からのサステナビリティ調査への強力な回答実績となり、取引継続の決定打になります。

近年、統合報告書を利用している層として注目されているのが、就活生(学生)です。2025年のデカボLaboの調査によると、Z世代の7割以上が「環境配慮型の企業」に魅力を感じると回答しています。また、同じく7割以上が「環境負荷の高い企業を避けたい」とも回答しています。
就活生に選ばれる企業になるためには、環境への情報を発信することが必要となっています。環境への取り組みや透明性の高い発信が企業選びに大きく影響していることがわかります。
ただし、統合報告書は投資家や金融機関向けがメインターゲットであり、それを学生向けにそのまま利用しても、効果は薄いです。また、統合報告書を学生向けも考えて作成すると、投資家・学生のどちらにも効果が弱い中途半端なものになってしまいます。そのため、学生向けに自社のサステナビリティの情報を伝えるためには、一工夫が必要です。
予算に余裕があれば、投資家向けの統合報告書をベースに、デザインをポップにし、社員インタビューなどを加えた「学生向けサステナビリティ・ブック(採用版統合報告書)」を別冊として作るのが理想です。
予算が限られている場合は、自社の就活生向け採用ページに、自社のSDGsや人的資本(育休取得率や研修制度など)の取り組みを分かりやすくビジュアルで説明しておきます。
その上で、「さらに当社の経営戦略や、非財務情報の詳細な裏付け、将来へのロードマップを詳しく知りたい方は、投資家向けの『統合報告書(PDF)』をぜひご覧ください」と導線を引いておくのです。
採用サイトの言葉だけでなく、プロの投資家向けに発行している「硬派な統合報告書」まで読み込み、面接で「御社の価値創造ストーリーの〇〇という点に共感しました」と言ってくる学生は経営感覚が鋭く、熱意にあふれた優秀な人材に見えるのではないでしょうか。統合報告書は、そうした発掘フィルターとしても機能します。

統合報告書は、有価証券報告書では伝えきれない「自社の未来」を語るための書類です。有価証券報告書が法律に沿って過去の実績とリスクを開示する「守り」の書類なのに対し、統合報告書は財務情報と非財務情報を結びつけ、自社の資源をどう将来の価値に変えるのかというストーリーを自由に語れます。
役割が違うからこそ、両方を出す意味があります。
内容を選ぶ基準はシンプルで、ストーリーに必要な数値は残し、なくても筋が通るデータは思い切って削ること。詳細な財務諸表は有報やWebサイトへのリンクに任せて構いません。そして統合報告書は、投資家だけでなく取引先や銀行、就活生にも届く一冊になります。冊子でなくても、Webに数ページ載せるところから始められます。
自社が大切にしてきた理念や技術を、未来につながる言葉にする。その作業そのものが、企業の次の成長のきっかけになるはずです。
