はちみつのお酒「ミード」で、ミツバチと環境問題を考える

はちみつのお酒「ミード」で、ミツバチと環境問題を考える
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ミツバチが花から集めた蜜から作られるはちみつ。花の種類によって香りや味わいが異なり、その違いを楽しむことができます。はちみつには、単なる甘味だけでなく、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、酵素など150種類以上の栄養成分が含まれています。

その中には、腸内環境を整えるグルコン酸やオリゴ糖、抗酸化・抗炎症作用によりメタボリックシンドロームの予防効果があるとされるポリフェノールなども含まれています。そのため、毎日大さじ1杯程度を摂取することで、風邪予防や生活習慣病の予防などの効果が期待でき、健康維持に役立つと言われています。

このように体に良いはちみつですが、その生産に欠かせないミツバチが、実は環境にとってかけがえのない存在であることをご存じでしょうか。

減少するミツバチの数

減少するミツバチの数

2011年、国連環境計画(UNEP)のアヒム・シュタイナー事務局長は「世界の食料供給の90%を占める100種類の作物のうち、70%以上がミツバチによって受粉されている」と述べています。

また、物理学者のアルベルト・アインシュタインは「もし地球上からミツバチが消えれば、人類は4年で滅亡するだろう」と語っており、ミツバチが人類の生存にとって重要な存在であることは古くから指摘されてきました。

世界的にミツバチの数が減少しているという話を聞いたことはありますか?もしミツバチがいなくなれば、アインシュタインの警告通り人類は滅びてしまうのでしょうか?

まずはデータで見てみましょう。

やや古いデータですが、国際連合食糧農業機関(FAO)の報告によると、養蜂のミツバチは2007年時点で7,260万群存在し、1961年から2007年にかけて増加傾向にありました。2007年は1961年と比較して約45%の増加となっています。

しかし、地域別に見ると状況は異なります。ヨーロッパや北米では大幅な減少が報告されています。突如としてミツバチが消失したり死滅したりする現象が見られ、蜂群崩壊症候群(CCD)として問題視されています。

また、養蜂されているミツバチとは別に、野生のハチの種類も減少しているという報告があります。野生のハチも食物の受粉に大きく貢献しており、この減少も環境面で深刻な問題となっています。

日本については、農林水産省が2024年に発表したデータによると、2023年の養蜂農家数は11,416戸、蜂群数は23万7千群となっています。2012年の蜂群数が18万4千群であったことから、5万群以上の増加が確認されており、養蜂の観点では着実な成長が見られます。

蜂群崩壊症候群の原因―温暖化、農薬、ダニの影響

蜂群崩壊症候群の原因―温暖化、農薬、ダニの影響

ヨーロッパや北米で発生しているミツバチの突然の消失、いわゆる蜂群崩壊症候群については、複数の要因が指摘されています。その一つが、ミツバチに寄生するダニの問題です。

ミツバチヘギイタダニは、人間に寄生するダニと同様に、ミツバチの幼虫やさなぎに寄生して体液を吸収し、繁殖します。このダニに寄生されたミツバチの幼虫やさなぎは、その後も成長して羽化はするものの、正常な発達を遂げることができません。羽が縮れてしまい、飛行が不可能になるのです。その結果、花の蜜や花粉を集めることができなくなり、巣全体が崩壊してしまいます。

もう一つの深刻な問題が農薬の影響です。特に欧米では、ネオニコチノイド系農薬が原因として疑われています。調査によると、世界中で採取されたはちみつの75%からネオニコチノイド系化学物質の痕跡が検出されたとされています。このような状況を受け、EU域内では2013年にネオニコチノイド系3種類の農薬使用を制限する措置を講じています。

日本では現在、ネオニコチノイド系農薬の使用制限は実施されていません。しかし、2016年8月の朝日新聞は「大量死ミツバチから農薬 農水省、ネオニコチノイド系含め『原因の可能性高い』」と報じており、今後の農薬規制の動向に注目が必要です。

さらに、気候変動による影響も指摘されています。温暖化により植生が変化し、ミツバチが蜜や花粉を集める花が減少することで、栄養不足に陥る可能性があります。また、温暖化は寄生虫やダニの繁殖に適した環境を作り出し、ミツバチの疾病リスクを高めることも懸念されています。

このように、ミツバチは私たちの生活に不可欠な存在でありながら、温暖化や農薬など、人間活動による環境破壊の影響を受けています。その動向を注視し続ける必要があります。

人類とはちみつの深いつながり

人類とはちみつの深いつながり

はちみつは人間の健康に寄与し、その生産者であるミツバチは環境保全に重要な役割を果たしています。人類とはちみつの関わりは、はるか古代にまで遡ります。

人類の醸造酒の歴史において、記録に残る最古のものはビールで、次いでワインとされています。それぞれ紀元前3000年、紀元前2000年頃の記録が残されています。

しかし、はちみつから作られるミード酒は、それよりもさらに古い時代から製造されていたと考えられています。北欧神話にも登場する最古の醸造酒の一つとされ、人類とはちみつの深い結びつきを物語っています。

ミード酒の製法は極めてシンプルです。はちみつと水を混ぜ合わせ、発酵させるだけです。場合によってはハーブを加えて香りづけを行うこともあります。

古代エジプトで誕生したとされるミード酒は、現在では北欧諸国やウクライナなどで製造されています。北欧神話との関連から、特に北欧地域で人気を博しています。日本でも製造が行われており、世界大会で金賞を受賞した商品も存在します。

はちみつを原料とすることから甘い酒を連想しがちですが、実際にはドライタイプから甘口まで多様な味わいがあります。スパークリングタイプも製造されており、はちみつの香りを纏いながらも甘さを抑えた、料理との相性の良い商品もあります。

このように、ミツバチ、はちみつと人類の関係は、長く、そして深いものです。古の時代から愛されてきたミード酒を味わいながら、ミツバチと環境の関係について思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

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