共同親権がやばいと言われる理由とは?2026年施行の制度を中立で徹底解説
人権・多様性
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2026年4月、日本に離婚後共同親権が導入されました。
一昨年ぐらいにはSNSには「可決されたらやばい」「離婚しても母親が逃げられなくなる」という声があふれていた一方、「メリットもある」「海外では普通」という意見も並んでいます。何が本当で、何を信じればいいのか。そう感じている人は少なくないはずです。
離婚を考えているわけでも、DVの当事者でもない。それでも「なんか危ない気がする」という感覚が拭えない人もいるのではないでしょうか。その感覚も当然です。なぜなら、共同親権にまつわる問題は、離婚制度の話であると同時に、社会がどこまで弱い立場の人を守れるかという問いでもあるからです。
賛否が入り乱れる情報の中で、まず制度の中身を正確に知ることが自分なりの判断の出発点になります。この記事では2026年4月に施行された改正民法で実際に何が変わったのか、どこに問題があるとされているのかを、法務省の公式資料をもとに整理しました。
共同親権が「やばい」と言われる理由は3つ

共同親権という言葉が広まった背景には、法案成立までの異例のプロセスと、当事者たちの切実な声があります。「なぜやばいのか」、その理由を整理します。
理由1|DVや虐待から逃げられなくなる可能性があるから
共同親権になると、離婚後も元配偶者と子どもの養育について合意し続けなければなりません。DVや虐待から逃げている当事者にとって、これは「安全な場所に逃げたのに、子どもを通じて居場所を知られる」「接触を断ちたいのに合意のたびに関わりを強いられる」ことを意味しかねません。
制度上はDVがあれば単独親権が維持されますが、そのDVを証明できるかどうかは別問題です。この構造的な問題が、最も強い反発の根拠になっています。
理由2|当事者・専門家の反対を押し切って成立したから
法案成立前、反対署名はchange.orgなどを通じて24万筆近くに達しました。全国の複数の弁護士会が反対声明を出し、離婚事件を多く扱う弁護士や、DV・虐待被害の当事者たちが声を上げました。
それでも法案は衆議院で異例のスピードで可決。「現場を知る人たちがこれだけ反対しているのになぜ通ったのか」。この不信感が「やばい」という言葉に凝縮されています。
理由3|賛否の情報が錯綜していて、何を信じればいいか分からないから
「海外では当たり前」「子どもの権利のために必要」という賛成意見と、「DVの逃げ道が塞がれる」「弱者が置き去りにされる」という反対意見が入り乱れています。どちらも一定の根拠を持っているからこそ、何が正しいのかが見えにくい。その判断しづらさ自体が、不安感を余計に助長しています。
そもそも共同親権とは?2026年4月施行で何が変わったか

まず制度の中身を正確に把握することが必要です。感情的な情報に流される前に、法務省民事局が公表している改正内容をもとに、何がどう変わったのかを整理します。
これまでの「単独親権」との違い
日本では、婚姻中の父母は共同で親権を持ちます。しかしこれまでの民法では、離婚後は父母のどちらか一方のみを親権者と定めなければならず、これを「単独親権」と呼んでいました。
今回の改正により、離婚後の親権のあり方が変わりました。離婚後も父母双方を親権者とする「共同親権」を選べるようになったのです。ただし、離婚したからといって自動的に共同親権になるわけではありません。あくまでも「単独親権」か「共同親権」かを選択できるようになった、というのが正確な理解です。
親権者はどうやって決まるか
親権者の決め方は、離婚の方法によって異なります。
協議離婚の場合は、父母の話し合いによって単独親権か共同親権かを決めます。話し合いがまとまらない場合や裁判離婚の場合は、家庭裁判所が判断します。この裁判手続では、家庭裁判所は父母それぞれから意見を聴かなければならず、子どもの意思を把握するよう努める義務があります。
また、家庭裁判所が必ず単独親権の定めをしなければならない場合が、法律上明記されています。虐待のおそれがあると認められるとき、そしてDVのおそれその他の事情により父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき、の二つです。
なお、これらは身体的な暴力を伴うケースに限定されません。
共同親権になると日常生活はどう変わるか
共同親権が選ばれた場合、子どもに関するすべての決定を両親が共同で行う必要があるわけではありません。法務省の資料では、単独で決定できる「日常の行為」と、共同で決定が必要な事項が整理されています。
たとえば下記は、同居親が単独で決められます。
- 食事・服装の決定
- 習い事
- 通常のワクチン接種
- 高校生の放課後アルバイトの許可
一方で子どもの転居、進学先の決定、心身に重大な影響を与える医療行為、預金口座の開設といった財産管理などは、父母が共同で判断する必要があります。
意見が対立した場合には、家庭裁判所に「親権行使者の指定」を申し立てることができます。ただし、この手続きが必要になるたびに裁判所を通さなければならないという手間と時間のコストは、現実の生活にとって決して小さくありません。
共同親権で最大の問題点:DVから逃げられなくなるリスク

制度上はDVや虐待があれば単独親権が維持されます。しかし問題の本質は「DVかどうかを誰がどう判断するか」にあります。ここに、当事者たちが最も強く反発する理由があります。
「抜け穴がある」では安心できない
「DVがあれば単独親権になる」というルールは存在します。しかしこれは、DVがあることを証明できれば、という条件付きの話です。
DVの証拠を集めることは、多くのケースで非常に困難です。身体的な暴力であれば診断書や写真が証拠になりえますが、継続的な暴言、精神的な支配、経済的なコントロールといったモラルハラスメントは、証拠化すること自体が難しいでしょう。
また、長期にわたる支配関係の中では、被害者自身が「これはDVだ」と認識するまでに時間がかかることも珍しくありません。「DVがあれば守られる」ではなく、「DVを証明できなければ共同親権になりうる」非対称性が、当事者たちの恐怖の正体です。
別れるべき相手に「居所が知られる」という恐怖
共同親権になると、子どもの転居については相手の合意が必要になる場面が生じます。これはDVから逃げるために住所を秘匿している人にとって、致命的なリスクになりえます。
シェルターに入っている、実家の住所を知られたくない、子どもを連れて避難しているといった状況にある人が、子どもの生活に関わる手続きのたびに相手方と接触しなければならない可能性があるといえるでしょう。
DV防止法はこれまで「被害者は逃げていい」という保護の枠組みを辛うじて維持してきました。しかし共同親権の導入によって、その枠組みが侵食されかねないという指摘が、弁護士や支援者たちから上がっています。
加害者と被害者の「認識のズレ」という問題
DVの問題をさらに複雑にするのが、加害者と被害者の間に存在する認識の非対称性です。ここが最も難しいポイントです。
いじめをしている側に自覚がないのと同様に、DVの加害者には加害の意識がないことが多くあります。「ちょっと怒鳴っただけ」「しつけのつもりだった」。加害者側のそうした認識は、裁判所の場でも主張されます。一方で被害者は、長年の支配関係の中で「自分が悪い」と思い込まされているケースも多く、自らDVを証明・主張することへのハードルが高い状態にあります。
このような構造的な非対称性を前提とした上で、制度が適切に機能するかどうか。それが問われています。
問題点2:「DV認定の壁」|制度の理念と現場の現実

「DVがあれば単独親権」というルールは制度上存在します。しかし現場の弁護士や支援者たちが懸念するのは、そのルールが実際に機能するかどうかです。理念と現実のギャップを見ていきます。
家庭裁判所によるDVの認定の仕方
離婚に関わる弁護士や支援者たちの間では「家庭裁判所はDVや虐待をそう簡単に認定しない」という見解が広く共有されていると言われています。
証拠が不十分な場合、あるいは加害者が否定し続ける場合、DVの事実認定は困難になります。また調停や審判のプロセスでは、被害者が加害者と同じ手続きの中に置かれる場面もあり、その精神的な負担は想像以上に大きなものがあります。
安全が確保されないまま法的手続きを進めることを強いられる、という現実があるのです。
判例も運用基準もこれから積み上がっていく段階
共同親権制度は2026年4月に施行されたばかりであり、判例も運用基準もまだ積み上がっていない段階です。「DVのおそれがある場合は単独親権」というルールが実際の裁判でどう解釈・運用されるかは、今後の判例によって形作られていきます。
制度の理念が正しくても、運用が追いつかなければ被害者は守られません。「施行されたばかりの制度だから様子を見よう」という姿勢ではなく、運用の実態を継続的に注視していくことが必要です。
問題点3:ひとり親の貧困と養育費|制度は誰のために作られたか不明である

共同親権推進の理由のひとつは「養育費不払いの解消」でした。しかしその前提として直視すべきデータがあります。ひとり親家庭の現実から、この制度が誰のために設計されたのかを考えます。
「親権を持てば養育費を払う」という前提は正しいか
「親権を持てば養育費を払う責任感が生まれる」という共同親権推進の論理は、現場の実態と乖離している可能性があります。
厚生労働省の調査によると、母子世帯で養育費を現在も受給しているのはわずか28.1%です。つまり、取り決めをしても約7割のケースで養育費が支払われていないという現実があります。さらに、ひとり親家庭の相対的貧困率は50.8%にのぼり、養育費の不払いが子どもの生活水準に直結していることは明らかです。
これまで養育費の取り決めをしても払わなかった人が、親権者になったからといって急に責任を果たすようになるのか? 現場の支援者たちは、その前提に疑問を呈しています。「子どもとの関わりが増えれば養育費を払う気になる」という想定は、支払いを拒んできた側の事情や意図を十分に考慮していないという指摘です。
制度の優先順位への疑問もある
共同親権の導入より先に、DV対策の強化やひとり親支援の充実を求める声が根強くあります。
共同親権の議論が進む一方で、DV被害者の安全確保や、ひとり親家庭の経済的支援といった喫緊の課題は後回しにされてきたという批判があります。「弱い立場の人たちを置き去りにして進んでいる」という声は、制度の優先順位そのものへの問いかけです。
| 改正前 | 改正後 | |
| 養育費の取り決めがない場合 | 請求不可 | 子ども1人あたり月額2万円を暫定的に請求可能(法定養育費制度) |
| 差押えの手続き | 公正証書・調停調書などの債務名義が必要 | 父母間の私的な取り決め文書でも差押えが可能に(先取特権の付与) |
今回の改正では、養育費に関するルールも一部見直されています。離婚時に取り決めをしていなくても子ども一人あたり月額2万円を暫定的に請求できる「法定養育費制度」の新設、養育費債権への「先取特権」付与による差押えの容易化は、当事者にとって知っておくべき変更点です。
しかしこれらも、制度があることと実際に機能することは別の話です。養育費の不払いが長年解決されてこなかった背景には、制度の問題だけでなく、執行体制や支援の薄さという現実があります。
「共同親権で養育費問題が解決する」という期待は、現時点では楽観的すぎます。新設された養育費関連の制度を注視しつつ、その実効性を継続的に確認していくことが必要です。
なぜ共同親権は、反対の声を押し切って成立したのか?

24万筆の署名、弁護士会の反対声明、当事者の訴え。それでも法案は成立しました。このプロセスを知ることは、共同親権という個別テーマを超えた社会の意思決定構造への問いにつながります。
異例のスピード可決が示すもの
なぜこれほど急いだのか、明確な説明はなされていません。その不透明さ自体が、政策決定の場に当事者の声が十分に届いていないという構造的な問題を示しています。
法案が国会に提出されたのは2024年3月8日でした。衆議院では3月14日に趣旨説明が行われ、4月2日から質疑に入り、4月12日に採決。提出からわずか約5週間での可決です。
法制審議会の家族法制部会においても全会一致ではなく、複数の反対意見が表明されていた内容であり、改正案の内容が国民に対し十分に周知されているとは言えない状況でした。
にもかかわらず、反対や懸念の声が相次ぐ異例の事態となる中、与党が採決を強行する動きを強めました。
離婚後共同親権制度に対応する家庭裁判所の人的・物的体制は現状では極めて不十分でありながら、具体的な体制整備の内容が明らかではなく、公布後わずか2年以内で十分な体制を整備することは非現実的だという指摘も、審議の中で解消されることはありませんでした。
「誰のために、なぜ今だったのか」への問いへの答えは、いまも示されていません。
共同親権は「離婚の問題」ではなく「社会の問題」
共同親権を「自分には関係ない」と感じている人もいるかもしれません。しかし、この問題の構造である「弱い立場の人の声が届かないまま制度が作られる」「理念と運用が乖離したまま施行される」ことは、あらゆる社会制度に共通するリスクです。
離婚経験がなくても、DVと無縁でも「社会がどこまで弱い立場の人を守れるか」という問いは、すべての人に関わります。無関心であることもまた、ひとつの選択です。
情報に惑わされないためには、まず「原典」にあたろう

SNSや検索結果には、共同親権についての情報が氾濫しています。賛否両論、感情的な言葉も多い。だからこそ、自分で一次情報にあたることが、冷静な判断の土台になります。
法務省の資料・改正条文を読む
共同親権について知りたいなら、まず読むべきは法務省民事局が公表している公式資料です。「父母の離婚後の子の養育に関するルールが改正されました」(2026年1月改訂)は、制度の概要をQ&A形式も交えて平易に解説しており、無料で入手できます。
法務省のウェブサイトからも確認できます。「誰かの解釈」ではなく「制度そのものが何を言っているか」を自分で確認すること。それが、情報に惑わされないための最初のステップです。
相談窓口・支援機関を知っておく
制度の内容を知ることと並行して、困ったときに頼れる窓口を知っておくことも大切です。
- DV相談ナビ:#8008(お近くの配偶者暴力相談支援センターにつながります)
- 法テラス・サポートダイヤル:0570-078374(平日9:00〜21:00、土曜9:00〜17:00)
- 養育費・親子交流相談支援センター:0120-965-419
自分が使わなくても、誰かに伝えられる情報として知っておくことに意味があります。
知ること・関心を持ち続けることがアクションになる
共同親権の制度はすでに始まりましたが、判例や運用基準はこれから積み上がっていきます。制度は施行されて終わりではなく、運用の実態に応じて見直される可能性もあります。
当事者でなくても、関心を持ち続けること、情報をアップデートし続けること、声を上げられる場面で上げることが、社会を動かす力になります。こどもの利益、ジェンダー平等、弱者保護——これらはすべて、サステナブルな社会を作るための土台です。
一人ひとりの「知っている」が、その土台を支えています。
まとめ|共同親権を「やばい」と括るのではなく、冷静な情報収集を

共同親権は2026年4月に施行されたばかりの制度です。判例も運用基準もまだ積み上がっていない段階であり「制度がある」ことと「制度が機能する」ことの間には、まだ大きな距離があります。
不安は根拠のない感情論ではありません。DVや虐待から逃げている当事者にとってのリスク、証明の壁、ひとり親家庭の貧困、拙速な立法プロセス。すべてファクトとして存在する問題です。
一方で、養育費の法定化や先取特権の付与など、前進した部分があることも事実です。どちらか一方だけを見て判断することは、この問題の複雑さを見誤ることにつながります。
だからこそ、まず一次情報にあたることをおすすめします。SNSや検索結果の「誰かの解釈」ではなく、法務省民事局が公表している公式資料や改正民法の条文を自分で読むこと。それが、情報に惑わされず自分なりの判断を持つための出発点になります。
| 項目 | ポイント |
| 施行日 | 2026年4月1日 |
| 何が変わったか | 離婚後も共同親権を選択可能に(自動的にはならない) |
| 親権者の決め方 | 協議→合意できなければ家庭裁判所が判断 |
| DVがある場合 | 単独親権維持が可能。ただし認定・証明には課題あり |
| 反対署名数 | 約24万筆(2024年5月時点) |
| まず読むべき資料 | 法務省民事局パンフレット・改正民法の条文 |
| 相談窓口 | DV相談ナビ#8008/法テラス0570-078374 |







