北海道和種が未来に必要な理由|失われる日本在来馬の「最強」の遺伝子

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北海道和種が未来に必要な理由|失われる日本在来馬の「最強」の遺伝子

「ドサンコ(北海道和種)」という日本独自の走り馬を知っていますか?(以下、ドサンコと表記)ドサンコは北海道を代表する日本在来馬です。

しかし、ドサンコには、地球の未来に関わる「取り返しのつかない損失」が進行していることを知っている人は多くありません。

かつて北海道の厳しい開拓期を支え、人と共に生きてきた北海道和種。明治以降の近代化、軍馬の大型化、そして戦後の機械化という荒波の中で、彼らの居場所は急速に失われてきました。2026年現在、純血を守り抜くための最後の砦である「種雄馬」は、日本馬事協会の登録上ではわずか19頭

19頭という数字をどのように解釈するかですが、種の存続としては、もはや絶滅危惧種と言っても良いレベルです。

とはいえ、なぜ私たちはこの小さな馬を守らなければならないのでしょうか。それは、彼らが数千年かけて日本の風土の中で研ぎ澄ませてきた「独自の遺伝子」は、現代の私たちが直面する気候変動や資源枯渇という地球規模の課題に対する無二の回答を秘めているからです。

この記事では、北海道のドサンコ(北海道和種)についての現状や課題、また今後どのようにアクションをすれば良いかについて紹介します。

ドサンコとは、2000年を生き抜いた「日本独自の血統」

ドサンコとは、2000年を生き抜いた「日本独自の血統」

ここでは、まずドサンコとはどのような馬であるか、またルーツは何かといった基礎知識から解説します。

そもそもドサンコとは

ドサンコは、日本にわずか8種しか残っていない「日本在来馬」の一つです。123~130cmの体高であり、体重は350~400kg。北海道文化遺産として登録されており、外国産馬とは全く異なる進化を遂げてきた、いわば日本の固有種に近い存在です。

どこから来たのか?

ドサンコのルーツは、はるか古の時代、ユーラシア大陸から朝鮮半島を経て日本に渡ってきた馬にあります。中世以降、東北地方で「南部馬」として大切に育てられていた個体が、江戸時代に松前藩の交易や運搬の担い手として持ち込まれ、後のニシン漁全盛期を支えてきました。

最大の特徴は、冬の北海道での飼育方法にあります。農家は冬の間、馬を厩舎に入れず、雪深い山野に放ちました。馬たちは自力で雪を掘り起こして笹や枯草を食べ、氷点下30度を下回る極寒の中で冬を越しました

この過酷な「歳年(としどし)放牧」という環境下で、生き残った個体だけが血を繋いだ結果、世界でも類を見ない強靭な生命力を持つ「北海道和種」が確立されたのです。

「西洋馬」と「ドサンコ」の違い:蹄(ひづめ)に刻まれた生存戦略

ドサンコの真の価値は、その足元に隠されています。サラブレッドに代表される西洋馬とドサンコを比較すると、彼らがいかに日本の過酷な環境に「最適化」されているかが一目でわかります。

西洋馬:アスリート仕様

サラブレッドなどの西洋産馬は、速く走るために骨を細く、皮膚を薄く改良されてきました。彼らの蹄は湿気に弱く、摩耗しやすいため、人間が鉄の「蹄鉄(ていてつ)」を打ち、数週間ごとにメンテナンスをしなければ歩けなくなることも珍しくありません。いわば「舗装路と手厚い整備」を前提とした、高コストな設計です。

ドサンコ:オフロード仕様

対してドサンコの蹄は、驚くほど緻密で硬く、厚い組織で覆われています。泥濘地や鋭い岩場、雪深い山道でも、蹄鉄なしで力強く踏みしめることが可能です。

この「裸足でどこまでも行ける」という特性は、単なる頑丈さではなく、外部の資源(鉄や職人の整備)に依存せずに自立して機能できるという、生存戦略において圧倒的に優位なのです。

特徴 西洋馬(サラブレッド等) 北海道和種(ドサンコ)
体格 大型・脚が長くスマート 中型(ポニーサイズ)・脚が太く短め
性格 繊細・臆病 温厚・我慢強い・従順
歩法 三拍子の駆け足(上下動が激しい) 側対歩(そくたいほ):左右の脚を同時に出す
用途 速度重視(競技・スポーツ) 持久力・運搬重視(生活・労働)

「ポニー」という呼称の誤解

ドサンコは体高(肩までの高さ)が130cm前後であるため、国際基準では「ポニー」に分類されます。しかし、子供が乗るような愛玩用のポニーとは中身が全く違います。骨太で筋肉質、体重の数倍もの荷を引く力強さは、大型馬にも引けを取りません。

ポニーと馬の規格の違いは以下のとおりです。

  • ポニー:体高が147cm以下(施設や団体によっては148cm以下)のウマ
  • 馬(ホース): 体高が147cm(または148cm)を超えているウマ

「コンパクトでありながら高出力、かつ超省エネ」。これは、現代が目指すべき究極のスペックを、すでに数百年前に体現していたことを意味します。

「側対歩(そくたいほ)」という失われたテクノロジー

ドサンコの最大の特徴の一つが、右の前後の脚、左の前後の脚をセットで出す「側対歩」という歩き方です。 これは上下の揺れが極めて少なく、重い荷物を背負っても疲れにくい、また乗っている人間も長距離移動で疲弊しないための特殊なスキルです。かつて日本人が着物で馬に跨っていた時代、この揺れない歩法は必須の「文化」でした。

ドサンコは気候変動と食料危機への「バックアップ」となれる

ドサンコは気候変動と食料危機への「バックアップ」となれる

なぜ今、この遺伝子が重要なのか。答えは現代の畜産や農業が「最適化されすぎている」からです。

世界の家畜は特定の高効率な品種に偏り、豊富な飼料と安定した環境を前提に設計されています。しかし気候変動による環境激変や、国際情勢の不安定化による飼料供給の停止が起きたとき、その「最適化」は一転して脆弱性に変わります。贅沢な環境でしか生きられない品種は、真っ先に危機に瀕するのです。

その点でドサンコは異質な存在です。

ササや野草だけで厳冬を越せる代謝機能、輸入飼料ゼロで稼働し続ける自律性を持っているためです。単なる「丈夫さ」ではなく、人類の食料生産が崩壊の瀬戸際に立たされたときに発動する生物学的なバックアップシステムです。

一度失われたら、二度と再現できない

一度失われたら、二度と再現できない

AIやバイオテクノロジーがどれほど進化しても、自然淘汰の中で数千年かけて蓄積された環遺伝子をゼロから作り出すことは不可能です。ドサンコを失うことは、人類が持つ生存の選択肢を一つ消去することを意味します。

多様性を守ることは「弱者を救う」ことだけを意味しません。「未知の課題に対する解決策をストックしておく」ことです。ドサンコが体現する解決策は現実の課題と接続しています。

  • 石油が枯渇した地域での、化石燃料に依存しない運搬手段として。
  • 重機が入れない山林での、環境保全型林業(馬搬)の担い手として。
  • 災害時に通信・輸送が途絶した際の、ラストワンマイルの手段として。

それでも私たちは、ドサンコが持つ「強靭な新体制」という解決策を「維持コスト」という目先の数字だけで切り捨てようとしています。種雄馬わずか19頭という現状は、日本という国の危機管理能力の欠如を、静かに、しかし確実に露呈しています

化石燃料に依存しない、日本在来馬が秘める復元の力

化石燃料に依存しない、日本在来馬が秘める復元の力

現代文明が抱える最大の脆弱性の一つは「極端な依存」です。トラクター、トラック、重機。日本の農業と物流を支えるすべては、輸入された化石燃料という一本の細い糸の上に成り立っています。

その糸が、大規模災害や地政学的紛争によって断ち切られたときに何が残るか。その問いへの答えの一つがドサンコです。

  • 自給自足のエネルギー: 道端の雑草や笹を燃料に変え、外部供給ゼロで稼働し続ける。
  • ラストワンマイルの救世主: 重機が入れない瓦礫の中、燃料の尽きた被災地で、100kg以上の物資を運び、人を乗せて前進する。
  • メンテナンスフリー: 蹄鉄も不要、過酷な自然環境に放たれても自力で生き抜く強靭さ。

ドサンコを維持することは、贅沢な保存事業ではありません。不測の事態に備えて国が保持しておくべき生きたライフラインの一つといえます。国家レベルの危機管理(リスクマネジメント)そのものでしょう。

巴牧場の挑戦|ドサンコの希望をつなぐ現場

巴牧場の挑戦|ドサンコの希望をつなぐ現場

引用元:巴牧場公式サイト

この「日本のバックアップ」とも言える貴重な遺伝資源を、絶望的な数字(種雄馬19頭)から守り抜こうとしているのが、函館を拠点に活動する巴牧場です。

彼らの活動は、単なる種の保存の枠を超え、サステナビリティ(持続可能性)の体現そのものです。

1. 100%地産地消の「循環型飼育」

巴牧場では、牧場内の広大な敷地で育つ草だけを餌としています。輸入穀物飼料に一切頼らないこのスタイルは、現代の畜産業が抱えるカーボンフットプリント(二酸化炭素排出)の課題に対する一つの答えであり、真の自給自足を証明しています。

2. 「和式馬術」という身体知のアーカイブ

ここでは、西洋式の乗馬とは一線を画す、日本伝統の「和式馬術(侍の馬術)」を継承しています。片手で手綱を操り、もう片方の手を自由に使う技術は、かつての武士や農民が馬と共に生きてきた知恵の結晶です。馬との接し方、操り方という「人間側の技術」を失わせないための、重要な文化拠点としての役割を担っています。

3. 社会と繋がる「実用」のモデル

「役に立たないから減らす」という近代の論理に抗い、トレッキング、外乗、さらにはホースセラピーなどを通じ、馬が自ら「稼ぎ」、社会の一員として機能する持続可能なモデルを構築しています。彼らは「未来に必ず必要になる力」を、今まさに現場で繋ぎ止めています。

19頭の未来と人間を守るために、私たちができること

19頭の未来と人間を守るために、私たちができること

「19頭」という絶望的な数字を前に、一人の力は無力に感じるかもしれません。しかし、絶滅を食い止める力は、行政の予算や専門家の技術だけではなく、私たち一人ひとりの「関心の総和」から生まれます。

今、あなたにできる具体的な3つのアクションを提案します。

1. 「知る・広める」=沈黙の絶滅を食い止める

最大の敵は、彼らが絶滅の危機にあることが「知られていない」という事実です。

この記事や、北海道和種の現状をSNSでシェアしてください。「#ドサンコを救え」といったハッシュタグを使い、あなたの言葉で危機を伝えることが、大きな世論を動かす一歩になります。さらには、日本在来馬が持つ「遺伝資源としての価値」や歴史について、家族や友人と話題にしてみてください。

2. 「訪れる・触れる」=経済的な循環を支える

最も直接的な支援は、彼らの「仕事」を創ることです。巴牧場のように、ドサンコと触れ合える場所へ足を運んでください。トレッキングや餌やり体験をすることが、そのまま馬たちの飼育費用や保存活動の資金となります。

実際に彼らの背に乗り、その独特の揺れの少なさを体感してみましょう。その驚きこそが、保存の意義を誰かに語る際の強力な原動力になります。

3. 「支える」=持続可能な保存の基盤を作る

直接足を運ぶことが難しくても、遠隔からできる支援があります。

  • 寄付やクラウドファンディング: 保存団体が実施するプロジェクトを支援してください。19頭の種雄馬から血統を繋ぐための「血統登録作業」や「飼育環境の整備」には、継続的な資金が必要です。
  • エシカルな消費: ドサンコを活用した工芸品や、保存活動を支援している企業のサービスを選択することも、立派な支援の形です。

ドサンコを守ることは、私たちのルーツと、未来への生存戦略を守ること。あなたの小さな一歩が、2000年続いてきた蹄の音を、次の100年へと繋ぐ確かな力になります。

まとめ|日本在来馬(ドサンコなど)への理解を通じて、未来を考えよう

まとめ|日本在来馬(ドサンコなど)への理解を通じて、未来を考えよう

種雄馬19頭。 この数字は、私たちが「便利さ」や「効率」と引き換えに、どれほど脆い社会を築き、どれほど多くの「生存の選択肢」を捨ててきたかを突きつける最後の警告です。

北海道和種を守ることは、過去を懐かしむことではありません。不確実な未来に対し、私たちが「強靭さ」という種をまく、極めて論理的な戦略的投資です。北海道の厳しい風土が2000年かけて育て上げた、世界に誇るべき遺伝資源を、私たちの代の怠慢で途絶えさせていいはずがありません。

今、この瞬間も、北の大地で力強く蹄を鳴らす彼らの鼓動を、未来の子供たち、そして未来の日本へと繋いでいくために。 まずは、この現状を「知る」こと。そして、道南どさんこ保存会のような現場で、実際に彼らの背中に触れ、その温もりと力強さを体感することから始めてみませんか。

私たちの選択が、19頭の運命を、そして日本の未来を変えるのです。

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