美容で多くの人を笑顔に。年齢や病気、障がいを超えて届けるスタイリング – 一般社団法人 理美会


美容院で髪型を変えて気分が明るくなった経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。ヘアスタイルを変えると背筋を伸ばして街を歩けたり、自信を持って大切な誰かに会いに行けたり、今まで無理だと思っていたことに挑戦してみる意欲がわいたりと、前向きな気持ちになることができます。
こうした美容の力を、年齢や病気、障がいの有無にかかわらずすべての人に届けたいという思いから、理美会では高齢者や障がいのある方々へ幅広いサービスを提供しています。
原点にあるのは祖母の髪を切れなかった後悔
理美会は出張訪問の理美容サービスから事業をスタートさせました。その原点には代表・諌山氏が新人美容師だった頃に経験した、ひとつの後悔があります。
諌山氏は美容学校を卒業し、大手の美容院に就職して1、2カ月経った頃、がんを患い抗がん剤治療を受けることになった祖母から「髪の毛を切ってくれないか」という相談を受けました。
けれども、まだ現場で髪を切った経験がなく自信が持てなかったため「また今度ね」とその場をやり過ごしてしまいます。その結果、髪を切ってあげられないまま祖母は他界し、その出来事が後悔として心に残っていたそうです。
その後、大手美容院で3年ほど経験を積んだあと、移ったヘアサロンで空き時間を利用した訪問理美容の話が持ち上がった際、祖母との出来事も思い出され「やってみたい」と手を挙げました。
まずはボランティアからスタートした訪問サービスですが、多くの高齢者に喜んでもらったことで仕事としてやっていく覚悟が決まり、2016年11月の設立に至りました。以来、高齢者だけでなく、年齢や病気、障がいに関わらず、すべての人が美容を受けられるサービスの提供に取り組んでいます。
福岡で訪問理美容を展開。外出が困難な人に笑顔と元気を
出張訪問理美容とは高齢者や身体が不自由な人など、外出が難しい人のもとへ美容師が訪問し、理容や美容の施術を行うサービスのことです。理美会では福岡を中心に病院や高齢者施設など約80か所の施設を訪問するほか、個人宅でも施術を行っています。
理美会では施設の規模によっては多い時には一日80人近く対応することもあり、高齢化社会に伴って訪問理美容が求められる機会は増えています。
株式会社リクルートによる「訪問理美容サービスに関する利用実態調査 2024」によると、ケアマネージャーが担当する要支援・要介護者のうち、訪問理美容を利用している割合は71.1%。2020年の60.5%から10ポイント以上増加しており広がりが考察できます。
歩行器を置いて自分の足で歩く姿も
訪問理美容が一般的な美容院と大きく異なるのは、その設備と環境です。訪問する施設によっても広さや設備はさまざまで、美容院にあるような数多くの道具を持って行けるわけではありません。限られた環境の中で臨機応変に対応し、可能な限り100%のパフォーマンスに近づけていくことが難しさでもあり醍醐味でもあります。
また、前述のリクルートが行った調査によると、訪問理美容の満足度はケアマネージャーで88.9%、88.0%の家族が高く評価しています。綺麗なスタイリングによって笑顔や会話が増え、活発になるなどの変化を感じる人が多く、理美会でも日々数えきれないほど感謝の言葉をかけられるといいます。
象徴的なエピソードは数多く挙げられます。たとえば、ある時、高齢女性のカットを行ったところ、その方は鏡を見て笑顔になり、それまで使っていた歩行器を使わずに自分の足で歩いて帰っていったという出来事があったそうです。
こうした光景を目にできる理美会は、美容によって健康促進への効果も担っているといえるでしょう。
訪問フットケアで足トラブルを改善
また、施設に訪問するなかで多くの高齢者が抱えていたのは、足の爪への悩み。そこで、同会は2024年に訪問フットケア(巻き爪ケア)を開始しました。
もともと爪は自ら巻こうとする性質を持っていますが、立ったり歩いたりすることで圧がかかり爪は広がった状態を保っています。しかし寝たきりや歩行が困難な人は巻き爪が進行し、痛みを我慢しているケースが見られました。
このような状況を改善するために研修を受けたスタッフが定期的な爪のカットやプレートによる矯正などを行い、痛みの軽減や歩行のサポートにつなげています。
誰もが安心して通えるバリアフリーサロンを運営
訪問理美容サービスを続けていると「本当は美容院に行きたいんだけどね」といった言葉を耳にすることが度々あるそうです。そこで、顧客が行けない理由を聞いてみると主に段差、移動、トイレがハードルになっているということでした。
当時訪問していたお客様が足を運べる美容院があれば気分転換にもつながるのではないかという着想から、2020年に福岡市博多区でバリアフリーサロンLIFEをオープンさせました。
設計時にこだわったのは徹底的に福祉向けの美容院にすること。手すりの設置や車いすが360度回転できるスペースの確保に加え、カット後にシャンプー台へ移動する負担を軽減するため、一度椅子に座ればそのまま全ての施術が完結できるようにしました。そのほかにも移動のストレスを軽減する工夫を加えています。
設備は福祉向けですが利用者は車いすや杖を使う人々に限りません。一般の人々にも広く利用されており、地域の誰もが安心して立ち寄れる美容の場づくりを大切にしています。
医療用ウィッグの提供でがん治療の不安に寄り添う
さらに2022年には医療用ウィッグの販売・メンテナンスを開始しました。病院で訪問サービスを行った際に、抗がん剤を控えた女性から「治療前に髪を切りたい」と相談を受けたことがきっかけでした。何か力になれないかと考え、医療用ウィッグの提供に取り組むことに。
医療用ウィッグはがん治療に伴う脱毛や脱毛症など、病気や治療の影響で髪を失った人のためのウィッグです。長時間の着用を前提に設計され、ファッション目的のウィッグとは異なり頭皮に直接触れるため、通気性に優れた肌にやさしい素材が使われているのが特徴です。
厚生労働省によると日本人が生涯でがんにかかる可能性は男性で約2人に1人、女性で約3人に1人と推測されています。こうした背景から、抗がん剤治療などによる外見の変化に対応するため、同会だけではなく医療用ウィッグの重要性には注目が集まっています。
自信や安心へとつながる継続的なメンテナンス
理美会の利用者は大半が女性で、年齢層は20代から高齢者までと幅広いのが特徴です。そのうち抗がん剤治療を受けている人が約8割を占めています。
提供にあたり大切にしているのは、出来るだけ治療前の髪型に近づけること。もとの髪型に寄せることで外見の変化による精神的な負担を軽減し、日常の安心感を取り戻すサポートをしたいと考えています。実際にウィッグを身に付けた利用者からは「外に出る勇気が持てた」といった声も寄せられています。
また理美会がもうひとつこだわっているのが、継続的なメンテナンスやサポートです。ウィッグは使用を重ねると、毛の絡まりや傷み、型崩れが起こりやすくなります。そのため専用のシャンプーでの洗浄やカット、セットを行うことで清潔感や自然な見た目を保つことが可能です。
特に医療用ウィッグは心身ともにデリケートな状況にある人が使用するため、安心して長く使ってもらうには信頼できる場所での定期的なケアが欠かせません。単なる商品の提供ではなく、外見のケアを通じて自信を育み、日常生活の質を維持する支援を行いたいと考えています。
福祉美容の担い手として多くの人に笑顔を届けたい
その他にも理美会では出張撮影や日本育毛増毛協会の運営などをさまざまなサービスを展開していますが、軸にあるのは「すべての人に美しさと安心を届ける」という理念です。さまざまなアプローチで外見や髪の悩みに寄り添い、一人でも多くの人に笑顔を届けることを目指しています。
こうした活動の広がりとともに、福祉美容に関心を持つ美容師からの問い合わせが寄せられるようになりました。
若手からベテランまで幅広い層から問い合わせがありますが、理美会では一般的な美容院で経験を積んだ美容師が、自分の仕事に対して迷いや疑問を抱いたり新たな道を求めたりした際に、培ってきた技術を活かしてやりがいを実感できる場のひとつでありたいとも考えています。
利用する人も働く人も前を向ける場所でありたいという思いのもと、今後も人々に笑顔と安心を届ける福祉美容の担い手として歩みが進められていきます。