マイクロプラスチックが与える人体の影響|ヒトの精巣からも検出、各国が急ぐ廃棄への対策を解説
米国から、マイクロプラスチックに関する興味深い報告がありました。マイクロプラスチックが男性に特殊な危険をもたらす可能性があるという報告で、最悪の場合には人類の存続に影響を及ぼす可能性があるとのことです。
上記の報告は、米ニューメキシコ大学のMatthew Campen教授らの研究によるもの。人間の精巣の中には、動物の精巣や人間の胎盤と比べて3倍ものマイクロプラスチックが存在していたというのです。
マイクロプラスチックの危険性とは
マイクロプラスチックの問題点は、分解されずに存在し続けてしまい、かつ、小さくなりすぎているため回収もできないことです。さらに、PCB・ダイオキシン・DDTなどの海中にある有害物質を吸着しやすいという厄介な特徴も持っています。
海の生物がエサと間違えて食べてしまうと、マイクロプラスチックを体内に溜めてしまう可能性があるほかに、これらの有害物質を体内に蓄積してしまう危険性もあります。
魚類に対する調査が実施されたところ、マイクロプラスチックが体内から見つかり、その影響が懸念され始めました。そして今回の米国の研究結果から、その影響が人間にも広がっていることが分かったのです。
精巣は人間の生殖活動に必須の器官のため、マイクロプラスチックが溜まることによって影響が発生しないかが心配されています。ただし、人体にどのような影響が出てくるのかは明確には分かっていません。そのため、この情報だけでは生まれてくる赤ちゃんに奇形児が増えることや、生殖能力が落ちるなどのようなネガティブなことに直結するとは言えません。しかし、今後も注意が必要な状況といえるでしょう。
厄介な海洋のプラスチック|海の中に沈み、回収しづらい
マイクロプラスチックは、大きなプラスチックが風や波などで細かくなってできるものです。そのため、まずはゴミを捨てないところからスタートしなければなりません。また、海にあるゴミが細かくなる前の段階で回収する必要もあります。しかし、海洋ごみ独特の問題が立ちはだかります。それが回収の難しさです。
海洋ごみというと海に漂う姿をイメージしますが、実際に海洋ごみの7割が沈んでいるという調査もあり、そういったゴミを回収するためには、ダイバーが潜って回収するしか方法がありません。
すでに深海にもプラスチックのゴミが到達しており、そうなると回収はほぼ不可能です。このように海洋ごみは、陸上でゴミ拾いをするように簡単にごみを集めることができないのです。
回収が難しいまま放置してしまうと、細かく砕け、マイクロプラスチックになってしまい、より回収が難しくなってしまう悪循環となります。
また、拾ったゴミの処分も問題です。海洋ごみは、水分を多く含んでいたり、砂やヘドロがこびりついていたりするため、焼却処分がしにくいのです。
使い捨てプラスチックに対して各国が動きを加速する
上記のような状況を受け、プラスチックごみを減らすための国際合意に向けた動きが出てきています。2024年11月・12月には韓国釜山で170か国が集まり、プラスチックごみの削減に向けた国際条約案の合意を目指しています。そのために、各国でもプラスチックの規制が進んでいっています。
環境対策が進むEUでは包装廃棄物を2030年に2018年比5%削減する規制案をまとめたり、使い捨てのプラスチック(ホテルなどで利用される小さなシャンプー容器など)の利用を禁止したりしています。
カナダでは2022年に、使い捨てプラスチックを禁止しました。レジ袋、ナイフ・フォーク・スプーン、外食の持ち帰り容器(リサイクル困難なもの)、ストローなどのプラスチック使用が禁止されています。
米国では州ごとに対応を進めており、その中でもカリフォルニア州ではリサイクル率が目標に達しない場合、州内での発泡スチロールの販売を禁止する法律が成立しました。そのほか中国、インド、アラブ首長国連邦、コロンビアといった新興国でも、プラスチックの規制に動いています。
使い捨てプラスチックに対する日本の取り組み
各国がプラスチック規制に動き始めた中で、日本でも2022年4月にプラスチック資源循環促進法が施行されました。基本原則に「3R+Renewable」とし、具体的に下記の目標数値を掲げました。
<Reduce>
・2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制<Reuse/Recycle>
・2025年までにリユース・リサイクル可能なデザインに
・2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクルに
・2035年までに使用済みプラスチックを100%リユース・リサイクルなどにより、有効活用<再生利用・バイオマスプラスチック>
・2030年までに再生利用を倍
・2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入
また、海洋プラスチック対策も明言しており、「ポイ捨て・不法投棄撲滅、適正処理」「マイクロプラスチック流出抑制対策」「海岸漂着物などの回収処理」「代替イノベーションの推進」「海洋ごみ実態把握」の5つが基本戦略に盛り込まれました。
まとめ
今年の国際条約締結に向けて、各国が使い捨てプラスチックに対して厳しい姿勢を取っており、それは海洋ごみの削減につながっていくことでしょう。
しかし、すでにゴミとなっている海洋ごみの回収については課題が多く、細かく砕けてしまったマイクロプラスチックへの対策は今後も技術開発が必要になります。今後の各国の動きに注目が必要です。