物流のモーダルシフトの事例が続々—トラックから船・鉄道でCO2排出量を削減
私たちの生活を支える物流の二酸化炭素排出量は、工場などを含む産業部門に次いで国内第2位。
環境対策を求められる物流業界では、モーダルシフトの事例が続々と出てきています。
以前紹介した物流における輸送モードと環境負荷に関連し、今回は、物流のモーダルシフト事例を紹介します。
モーダルシフトについては過去記事で解説していますので、ぜひ関連記事をご覧ください。
関連記事:私たちの生活に欠かせない物流業界の環境問題に対する取り組みを解説
輸送モード別環境負荷は鉄道が一番少ない
物を運ぶ上での環境負荷は、輸送モードによって大きく異なります。
国土交通省によると、1トンの荷物を1キロ運ぶのに発生する二酸化炭素の量は、自家用貨物車が1,124グラムと一番多く、ついで営業用貨物車が216グラム、船が43グラム、鉄道が20グラムとなっています(2021年度)。
自家用貨物車は自社の荷物のみを運ぶトラックです。
運行ルートや集荷・配送の時間を自分で決めることができるので、小回りが効きます。ただし、荷物の量が少ないためトラックの積載効率が悪くなります。
さらに、行きの荷物だけになりがちのため、帰りは空で帰ってくる(片荷問題)ということも発生します。
一方の営業用貨物車は、日本通運やヤマト運輸などの物流企業が運行しているトラックです。
ユーザーにとっては集荷時間などが決められていますが、様々なお客さんの貨物を集めることで積載効率は格段に良くなります。また、帰りの荷物もあるので、積載効率はさらに良くなります。
鉄道は主にJR貨物が運行している輸送モードになります。鉄道用のコンテナに荷物を積み込んでトラックで貨物駅に持って行き、配送先の最寄りの駅までは鉄道で運べます。そこから先の配送先までは、またトラックとなります。大量の荷物を運ぶことができますが、ダイヤが決まっているため、営業用貨物車以上に集荷時間などの制限が発生します。
また、貨物専用線は少ないので、一般の線路も走ります。人身事故や災害などでダイヤが乱れてしまうリスクがあります。
船も、港までの輸送と、港からの輸送はトラックに依存します。また、航路がある程度決められてしまうというデメリットがあります。
一方で、トラックごと船に乗せることができるため、鉄道のようにコンテナを積み替えるような振動=荷物への負荷がないというメリットがあります。また、ドライバーさんが船で休めるという点もあります。
このような中、先日8月に国土交通省が「モーダルシフトに関する事例(物流総合効率化法の認定事例より)」を発表したので、その事例を見ていきましょう。
異業種で片荷問題をクリアする大王製紙とサントリー
自家用貨物者の場合、行きの荷物しかない片荷問題が環境負荷を高めている点を説明しました。それを大王製紙とサントリーという製紙と飲料という異業種間でクリアし、さらにトラックから鉄道に輸送モードを変えることで、さらに環境負荷を削減した事例があります。
具体的には従来、サントリーでは、神奈川県から大阪府に飲料をトラックで運んでいました。一方、大王製紙は、兵庫県から神奈川県に紙製品をトラックで運んでいました。
帰り荷のことは説明されていないですが、空のトラックで関東―関西間を戻っていたと考えられます。
それを関東―関西間の輸送を鉄道にモーダルシフトし、トラック輸送を駅とそれぞれの倉庫に限定。さらにトラックを共同にすることで、行き帰りともに荷物を載せて運べるようにしました。
具体的には、神奈川県の飲料の倉庫で鉄道用の31フィートコンテナに積み込まれた荷物を、トラックが東京貨物ターミナル駅に運び、そこでJR貨物の鉄道に積み替えます。
鉄道でJR貨物安治川口駅(大阪府)まで運ばれたコンテナを、関西側のトラックがピックアップし、大阪府の物流施設に下ろします。空になったトラックは兵庫県の紙製品の倉庫に行き、31フィートコンテナに荷物を積み込みます。
そして、JR貨物安治川口駅に戻り荷物を鉄道に積み替え。関東のトラックが荷物をピックアップし、神奈川県の紙製品の倉庫に下ろして、空のコンテナを神奈川県の飲料の倉庫に持っていくというルートになります。
詳細:大型輸送コンテナ(31フィート)|JR日本貨物鉄道株式会社
)
異業種でもできたというのは、荷物の特性もあったと想像できます。どちらも重量のある貨物で大量輸送ができる荷物であり、輸送量も大きくは違わなかったということだと思われます。
輸送モードを環境負荷が少ない鉄道に変更したこと、さらに空でのトラック輸送距離が短くなったことでCO2削減量は100.8トンにもなり、従来の60%程度になっています。さらにドライバーの運転時間も70%以上削減(1,771時間削減)となり、2024年問題への解決にも役立っています。
トラック運送会社が鉄道を使って環境負荷低減
トラック運送会社が鉄道を使うというと競合なんじゃないの?と思ってしまうかもしれませんが、お客さんにより環境負荷の少ない輸送を提案するために手を組んでいることもあります。
また、物流会社の2024年問題は深刻で、ドライバーの運転時間を減らす取り組みにもなっています。
紹介されているのは西濃運輸と九州西濃運輸、JR貨物による中部-九州間の取り組みです。
従来、10tトラック22台が毎日、中部-九州の拠点を行き来していました。それを名古屋貨物ターミナル駅・岐阜貨物ターミナル駅(中部エリア)と福岡貨物ターミナル駅・北九州貨物ターミナル駅(九州エリア)を使って、中部-九州間の輸送モードを鉄道に切り替えました。
結果としては、CO2削減量は約75%削減(年間5,834トン削減)、ドライバーの運転時間は約85%削減(年間100,490時間削減)と大幅な削減を達成しています。
ビールメーカー4社が船を使って共同で運ぶ
競合会社が物流では手を組んで運ぶということが、最近増えてきています。
従来、輸送量は重要な経営情報のため、競合他社に知られるのを嫌い、同業での共同輸送というのは難しいとされていました。
しかし、物流会社が間に入ることで、情報の機密が守ることができるようになり、さらに同業であれば荷物の荷姿が似ているため、共同配送がやりやすいという点も共同配送にプラスになっています。
今回紹介されている事例は澁澤倉庫と大王海運によるビールメーカー4社(アサヒ、キリン、サッポロ、サントリー)の共同配送です。
従来は関東から関西に各社がトラックでビールを運んでいました。帰りについては資料に記載されていないため、空で帰ってきた可能性が高いです。
それを、各社の荷物を千葉港で船に乗せて輸送。堺泉北港(大阪府)に揚げて、各社の関西の物流拠点に配送する輸送に変更しました。
この時に普通のトラックではなく、トラックの運転席部分(ヘッド)と後方の荷物部分(トレーラーシャーシ)を分けることができるトラックを利用しています。そうすることでドライバーは各拠点と港の往復だけで良く、船には荷物部分のトレーラーシャーシのみを乗せて運ぶことができます。
この活動は、輸送モードの変更によるだけでなく、共同配送による積載率の向上も行われ、さらなる環境負荷低減を図ったことがポイントです。
この事例によって、CO2排出量削減は約60%削減(1,648トン削減)となり、ドライバーの運転時間も約80%削減(3,793時間削減)となっています。
このように、輸送モードを変更するだけでも環境負荷を低減できるのですが、さらなら輸送効率を図って、より効率的な物流網を構築するようになってきています。
まとめ
今回は、国土交通省が発表した事例を紹介しましたが、これ以外に輸送モードを変更したモーダルシフトによる活動を、メーカー、物流企業が共同して取り組んでいます。身近な製品の輸送について、調べてみてはいかがでしょうか?