廃棄花を美しくアップサイクル。業界の未来も明るくするethicaの取り組み
約10億の花が廃棄されているフラワーロスの現状
大切な人の誕生日や結婚・出産祝い、歓送迎会などのプレゼントとして欠かせない花。
忙しい日々の中で自分の部屋に飾った一輪の花が心を癒してくれる時もあります。そんなハレの日もケの日も不可欠な存在である花ですが、その廃棄が問題視されています。
農林水産省によると、2020年の花き(観賞用植物)の国内出荷数は約32.5億本。そのうち消費者に届くまでに廃棄される花は約30%~40%ともいわれており、1年間で約10億本もの花が廃棄されていることになります。
廃棄が発生するのは生花店での売れ残りだけではありません。
花は生産者のもとから出荷される際に、品質やサイズなどで仕分けられます。その規格に当てはまらなかった規格外のものや、輸送時に傷んでしまったものも廃棄の対象となってしまいます。
また、結婚式などのイベントで使用された花は、まだきれいな状態だとしてもイベント終了後に捨てられてしまうことがほとんどです。
このように私たちの気づかないところで多くの花が廃棄されており、使える花が捨てられる現象は「フラワーロス」と呼ばれています。
キーワードは花×SDGs。ethica設立の背景と取り組み
株式会社ethica(エシカ)はこのフラワーロスの問題に着目し、削減に取り組んでいます。
農家や市場などから仕入れたロス対象の花をドライフラワーにアップサイクルし、製造・販売を行なっており、取り扱う花の100%が廃棄花、規格外の花です。
設立は2022年2月。代表の藪中氏はもともと企業の経営やHR領域を支援するコンサル会社を運営していました。
大企業のSDGs戦略を作るプロジェクトを進める中で、大企業が掲げるSDGsの目標は消費者にとって分かりにくいものが多いと感じ、子供からお年寄りまで誰にでも分かりやすい商材を扱かった環境に優しい事業を作りたいと考えるようになりました。
新型コロナウイルスの影響でイベントの自粛が相次いだ当時、花が大量に余っていることが問題になったことで藪中氏はフラワーロスに着目します。また、花き業界の方から花は廃棄が多く、仕事が減少していることも耳にしました。
そこで「花×SDGs」をキーワードにした事業を作ることを決意し、立ち上げたのが株式会社ethicaです。
設立当初はオンラインのみで販売を行なっていましたが、同年10月に東京・蔵前に実店舗「ethica lab」をオープンさせました。ethica labではスワッグやブーケ、フラワーボトルなどを取り扱っています。
花のアップサイクルで資源活用と農家の経済的支援
花の廃棄が問題として挙げられるのは、単に使える花を捨てるのはもったいないだけではありません。
生産から流通に関わる水や燃料といった資源を無駄にしていることもつながり、廃棄される花は30~40%と前述しましたがその経済損失は年間1,500億円ともいわれているのです。
農林水産省によると品種が多様で品質の高い日本の花は海外でも高い評価を得ているものの、生産者は年々減少しています。
廃棄される花をアップサイクルし販売することは資源の有効活用に加えて、農家の雇用や経済的支援にもつながっています。
例えば、脱サラして地方へ移住し農業を始めたばかりだと、最初は思うように花が育たずあまり収入につながらない、ということが少なくありません。その際に、市場に出荷できない規格外の分をethicaが買い取ることによって、少なからず収入の目途が立ちます。
また、フラワーロスは以前からある問題ですが、農家の多くで規格外の花や制作過程で廃棄が出てしまうことは、仕方ないと考えられているのも事実です。仕入れ先である農家の方からは「こんなものを引き取ってくれるの?」と驚かれることもありますが、実際に商品としてアップサイクルした姿を報告すると喜ばれています。
独自の乾燥技術を活かしたドライフラワー
ethicaのドライフラワーは独自の乾燥技術が特長です。
一般的にドライフラワーは風通しの良いところで自然乾燥させますが、ethicaでは人工乾燥と自然乾燥を組み合わせています。また、花の種類だけでなく、それぞれの状態や大きさなども踏まえて乾燥時間や温度、風の当て方などを細かく調整し製造しています。
さらに乾燥させる前にひと手間加えている「水揚げ」という過程。水揚げで花の頭の部分までしっかり水を吸わせることで、乾燥後も花の形がきれいに残ります。
このように丁寧に製造することで、時には生花と見間違えるほどの仕上がりや、発色の良い期間を長く保つことができているのです。
出来上がったドライフラワーは、スワッグやフラワーボトルなどのアレンジメントとして販売しています。
また、結婚式や卒業式などでもらった花束をベースにフラワーボックスやブーケ、フラワーボトル等を作るリメイクフラワーも受け付けており、大切な思い出を形にして残せるこのサービスは男女を問わず、SNSなどのオンラインで特にニーズの高いサービスです。
農家の思いを尊重しながら、仕入れと発信を強化
設立当初はオンラインで販売をスタートしましたが、「実際に目で見て選んでほしい」という想いから2022年10月には路面店「ethica lab」をオープンさせました。
路面店を立ち上げたことによって直接お客様と接する機会が増え、さらにフローリスト(花に関わる仕事に従事している人)への花材バラ売りにも対応できるようになりました。
しかし、現在は花の種類によって廃棄されるタイミングが異なるためコスト面の理由からこまめに回収に行けない、花の種類が偏るなどの課題も抱えています。
大きな装飾や母の日といった花を多用するイベントでも必要な花材をしっかりと揃えるためにも、仕入先を増やしていくことが必要です。
また農家の中には、規格にあった一流の花の生産を目指しているため、規格外が出ること自体が良くないことだと感じ、規格外が出ていることを公表したくない人や、そもそもゴミとして廃棄していたものを収穫や配送する人的・時間的コストを快く思わない人もいます。
このような農家の方々の意向や立場を尊重しながら、仕入れた花の背景や商品が出来上がるまでのストーリーなどを発信していきたいとethicaは考えています。
より多くの花を活かすため将来はフランチャイズ化を視野に
また将来的にはフランチャイズ化を視野に入れているというethica。
仕入れ先が見つかったとしても、全国の花を現在の拠点に全て集めるというのは配送コストや保管場所の面で限界があります。
そこで、誰でもどこででも簡単に品質の高いドライフラワーを作れるように、その乾燥技術をDX化し、近くのフランチャイズ化した店舗で回収・製造してもらいます。
花は生ものなので、配送も含めて多くのことに気を使わなければいけません。
フランチャイズ化が実現できれば、全国の生産者、仲卸、小売店、イベントやホテル装飾などで廃棄される花をより多く救うことができ、個人からの依頼が多いリメイクフラワーにもすぐに対応できるようになります。
アップサイクルされる花を増やし、長く活かすことができるようになるのです。花は人を楽しませ、喜ばせ、時には癒し、素敵な思い出をつくる担い手です。
2023年4月までに救った草花は約3万本。花の価値を社会に投げかけ、手にする人とつくり届ける人の笑顔を増やすため、ethicaの挑戦は続いていきます。