展示会業界のパイオニアとして、年間2万トンの廃棄問題に挑む。- SUPER PENGUIN株式会社 –


煌びやかなライトに照らされ、企業の最新技術や製品が競い合う展示会場。数日間の熱狂の裏で、毎週のように繰り返されている厳しい現実をご存じでしょうか。
実は、日本全国各地で開催されている展示会・サミット・フォーラムなどのイベントで排出されている木材廃棄量は、年間2万トンにも及びます。2万トンという数字は一般的な杉の木1本から取れる木材の重さを基点にすると、およそ10万本分以上の木が毎年展示会のためだけに伐採され、そのまま廃棄されている計算になります。
「美しい空間を作れば作るほど、ゴミが増えていく」。代表の竹村氏は毎週のように展示会会場を訪れるなかで、撤収時間になるとバタバタと次々に解体され処分されていく光景に胸を痛めたといいます。
この記事では業界の慣習に抗い、職人の雇用を守りながら環境負荷を減らすために開発した「置き換え工法」と、その挑戦の軌跡をお伝えします。
華やかな舞台の裏側で抱え続けた「罪悪感」


同社が展示会ブースのデザインを手がけるようになったのは2010年頃からです。年間約100件のブースデザインを担当し、毎週のように現場に立ち会ってきました。そこで目にしたのは、前述したように撤収時の衝撃的な光景でした。
特に、大阪で開催されたとある展示会撤収時の記憶は鮮烈だったといいます。会場のあちこちで破壊音が響き渡り、大量の廃材が山積みになっていく。トラックが次々とゴミを運び出していく様子を目の当たりにし、強い精神的な負担を感じていたそうです。
「自分たちが一生懸命デザインしたものが、数日後にはただの産業廃棄物になる」。
環境負荷への加担に対する罪悪感は、日を追うごとに強くなっていきました。再利用可能なシステムパネル(アルミ製の規格部材)という選択肢もありますが、デザインの自由度が低く、企業ブランドを表現するには限界があります。
「デザイン性を犠牲にせず、かつ環境にも配慮する方法はないか」
「木工造作のような自由な表現ができ、かつリサイクル可能な素材はないか」
この問いへの答えを見つけるために同社は「再生板紙構法」という根本的な発想の転換を見つけ出しました。
逆転の発想|展示会ブースの「木」を「紙」に置き換える


たどり着いた答えは、「木材を否定するのではなく、素材だけを置き換える」というデザイン会社ならではの発想の転換としてのアプローチ。それが独自に開発を進めている「置き換え工法」です。
この工法の最大の特徴は、素材に「強化ダンボール(紙)」を使用している点。しかし、ただのダンボールではありません。従来の展示会ブース施工で使われる「木の棒」や「木の板」と全く同じ形状・サイズの資材を紙で作ることに成功しました。
なぜ「木と同じ形状」にこだわったのか


「再生板紙構法」には、単なる環境保護以上に重要なサステナビリティの視点が含まれています。それは、「職人の雇用」を守ることです。
展示会業界には、長年の技術を持つ多くの木工職人や大工さんがいます。もし全く新しい施工システムや特殊な機械が必要な工法を導入してしまえば、彼らの培ってきた技術は不要になり、職を奪うことになりかねません。
しかし「置き換え工法」であれば、素材が木から紙に変わるだけで、施工方法は従来通りのままです。釘やタッカーを使い、いつもの道具で、いつもの手順で組み立てることができます。
実際に現場の職人さんからは「表面が平滑で、壁紙を貼る作業が木工よりも楽だ」といった予想外の好評をいただいています。木工特有の表面の凹凸がないため、仕上がりの美しさは木工と同等、あるいはそれ以上です。
展示会が終われば「資源」に変わるサイクルも、コスト面が課題


展示会が終われば、ブース設営に使用していた資材は「ゴミ」ではなく「資源」になります。古紙から作られた素材たちは使用後に回収して溶かせば、再び紙として生まれ変わります。今までの実証では、約2回程度のリサイクルが可能であることがわかっています。
とはいえ、理想の実現への道のりは平坦ではありません。現在進行形で大きな課題に直面しています。その最たるものが「コスト」です。展示会場において、最も重視される安全基準の一つが「防炎性能」。紙という燃えやすい素材を展示会で使用するには、厳格な防炎処理を施す必要があります。
現状、この防炎加工には非常に高いコストがかかります。段ボール材に防炎剤を塗布するだけで、1ブースあたり30〜40万円の追加費用が発生してしまうこともあります。木工資材と比較して約1.5倍のコストがかかる計算となり、経済合理性だけを見れば、導入のハードルは極めて高いと言わざるを得ません。
また、製造技術上の制約もあります。 一般的な展示会パネルの規格幅は90センチ(3尺)ですが、現在の製造機械では40センチ〜60センチ幅までしか製造できません。これにより、施工の手間が増え、歩留まりが悪くなることもコスト高の一因となっています。
利益度外視の「ファーストペンギン」精神


竹村氏は「正直に言って利益はほとんどない」と語ります。現段階でこの紙製ブースを導入してもコストは高くつき、あらゆる調整の手間もかかります。しかし、同社では自らを「展示会業界のファーストペンギン」と位置づけ、リスクを恐れずにこの海に飛び込むことを決意しました。
ペンギンの群れの中で、最初に海に飛び込む1羽を「ファーストペンギン」と呼びます。そこにはシャチやアザラシといった天敵がいるかもしれない。それでも、勇気を持って飛び込んだ者だけが、最初に魚(利益や先行者利益)を得ることができる、というビジネス用語としても知られています。
ただ、特筆しておきたいのは、同社が目指しているのは「利益の独占」ではないことです。むしろ「どんどんうちの手法を真似してほしい」と公言するほど、メソッドやノウハウが広まることを願っています。
その意図は、一社だけが頑張っても年間2万トンの廃棄物は減らないことが分かっているから。 需要が増えれば素材メーカーは設備投資ができ、90センチ幅の資材が作れるようになります。生産量が増えれば、防炎加工の自動化が進み、コストも下がります。そうして初めて、木工資材と対等に戦える選択肢となり、業界全体のスタンダードが変わっていくはずです。
今後の展望
近年のビジネスにおいて、CSRやSDGsへの取り組みは、企業のブランディングそのものになりつつあります。 コストが高いにもかかわらず紙製ブースを採用するクライアント企業様もいらっしゃいます。彼らは単なるコストパフォーマンスではなく、「環境に配慮したブースで出展する」という企業姿勢(スタンス)に価値を感じているのです。
「今回のブースは、全て再生紙で作られています」と来場者に伝えることは、豪華な装飾や派手な演出以上に、企業の誠実さや未来への眼差しを雄弁に語る強力なPRツールとなります。再生板紙構法の良さを伝えるとともに、紙素材という環境に優しい選択肢を多くの企業が取り、2万トンの木材排気量を減らしていくことが目標になっています。
まとめ|未来の展示会をデザインするために


同社の挑戦はまだ道半ばです。防炎加工のコストダウン、大判サイズの製造実現、そして何より「使い捨てが当たり前」という業界の意識変革。乗り越えるべき壁はまだ高く、数多く存在します。
しかし、毎週のようにトラックで運ばれていく廃材の山を少しでも減らしたい。 「作り、使い、捨てる」という一方通行の流れを「作り、使い、還す」という循環型のサイクルに変えていきたい。 そして、その過程で職人の技術と雇用を守り続けたい……。それが展示会業界における「サステナビリティ」の形です。
これからも空間デザインの力で、クライアントのビジネスの成功だけでなく、業界の未来そのものをより良い方向へデザインするために泳ぎ続けていきます。








