子供の育てやすい環境へ│子育て支援対策の課題と事例
社会が維持していくために、人口の維持は欠かせます。一方で、日本は少子化が進んでおり、この対策に政府が様々な手を打ってきました。
今年2月、出産育児一時金のアップが閣議決定されました。今年4月から現行の1人あたり42万円から50万円に8万円のアップとなる予定です。また、昨年の4月からは不妊治療の保険適用がスタートしており、もうすぐ1年が経ちます。
保険適用により不妊治療を受けるコスト面でのハードルが下がったと言われています。一方で、保険適用外の検査などを受けることで混合診療となり、保険適用外となってしまうなどの問題も発生しています。こういったところは、今後制度の調整がされていくことと考えられます。
少子化は50年前からの課題
このように国としても出産・育児面でのサポートを強化しています。低迷し続ける出生率の問題を抱えており、対応をすすめないといけなくなっているからです。
<出生率の推移グラフ>
人口の維持には合計特殊出生率が2.1以上必要とされていますが、1974年に2.04となって以降約50年にわたり、2.1を下回っています。このグラフを見ると、少子化の問題は最近の話ではなく、もっと昔から問題になっていなければならなかったのだと思います。それでも人口が増えてきていたのは、平均寿命が伸びてきたからです。そのため人口が増加していても、現実は子供の出生数が減る一方で、高齢化率が高まっています。その人口も2008年をピークに下がり続けており、さらなる高齢化が進んでいます。
都道府県別出生率では沖縄がトップ、九州の各県も上位に
日本の出生率は都道府県別に見ると大きく異なっていきます。
<都道府県別表>
順位 | 都道府県名 | 出生率 |
1位 | 沖縄 | 1.86 |
2位 | 島根 | 1.69 |
3位 | 宮崎 | 1.68 |
4位 | 長崎 | 1.64 |
5位 | 鹿児島 | 1.63 |
6位 | 福井 | 1.61 |
7位 | 佐賀 | 1.61 |
8位 | 熊本 | 1.60 |
9位 | 鳥取 | 1.59 |
10位 | 大分 | 1.57 |
11位 | 長野 | 1.53 |
12位 | 香川 | 1.51 |
13位 | 山梨 | 1.50 |
14位 | 山口 | 1.50 |
15位 | 和歌山 | 1.49 |
16位 | 広島 | 1.49 |
17位 | 福島 | 1.48 |
18位 | 富山 | 1.48 |
19位 | 石川 | 1.48 |
20位 | 高知 | 1.48 |
21位 | 滋賀 | 1.47 |
22位 | 岡山 | 1.47 |
23位 | 三重 | 1.45 |
24位 | 徳島 | 1.45 |
25位 | 愛媛 | 1.45 |
26位 | 静岡 | 1.43 |
27位 | 愛知 | 1.43 |
28位 | 福岡 | 1.43 |
29位 | 岐阜 | 1.42 |
30位 | 山形 | 1.41 |
31位 | 群馬 | 1.41 |
32位 | 兵庫 | 1.40 |
33位 | 茨城 | 1.38 |
34位 | 新潟 | 1.35 |
35位 | 栃木 | 1.34 |
36位 | 青森 | 1.33 |
37位 | 岩手 | 1.33 |
38位 | 秋田 | 1.32 |
39位 | 大阪 | 1.30 |
40位 | 千葉 | 1.28 |
41位 | 埼玉 | 1.26 |
42位 | 奈良 | 1.26 |
43位 | 神奈川 | 1.25 |
44位 | 京都 | 1.22 |
45位 | 北海道 | 1.21 |
46位 | 宮城 | 1.21 |
47位 | 東京 | 1.13 |
2021年のデータでは、トップは沖縄県で1.86。ついで島根県が1.69、宮崎県が1.68、長崎県が1.64、鹿児島県が1.63となり、九州・沖縄の県が上位に入ってきます。これらの理由は2つあると考えられます。1つは、女性の初婚年齢が若いことです。初婚年齢が若いことで、第一子を産む年齢も若く、第二子、第三子を産む方も多くなっています。
もう1つの理由が、地域社会のサポートです。地域のつながりで助け合い、子供の送り迎えなどを地域でサポートをしてくれ、子育てがやりやすくなっています。実際、これは数値にも表れており、出生率の高い都道府県は、社会・地域における人々の信頼関係や結びつきを数値化したソーシャル・キャピタル指数が高くなっています。
東京都、23区で様々な支援施策が
一方で合計特殊出生率の最下位は、東京の1.13となっています。東京都や23区でも様々な取り組みが行われています。
まず、東京都では、妊娠を届け出たら6万円、出産した時点で10万円相当の育児グッズをカタログから注文できます。ベビーカーやオムツなどを選べます。さらに18歳までは毎月5000円が給付されます。また、子供が1〜2歳の時に6万円相当の商品券やクーポンを受け取れます。保育料については2人め以降、完全無償になります。さらに大きくなると、私立中学生に通う子に年間10万円、都立大学の授業料が無償化されます。
都の支援とは別に23区でも個別にサポートをしています。区によって異なるので、主なサポート内容を紹介します。
例えば、千代田区や港区、渋谷区、江戸川区などでは、出産助成金や育児一時金などが用意されています。港区の例では、出産で最大31万円の女性が得られます。仕事などで子供を預ける面では、渋谷区、北区、江東区、足立区、台東区、墨田区などで整備がされています。育児サポートでは、港区、大田区などで複数のサービスが利用できます。また、練馬区では、お父さん向けのサービスもあります。
そのほか、世田谷区では「せたがや子育て利用券」(1万円分の産前・産後サービスが利用可能)、墨田区では出産子育て応援事業「ゆりかご・すみだ」(安心して出産できるよう助産師・保健師の面接、こども商品券1万円分)といったサービスを利用できます。商品券は、ほかの区でも用意しているところはあります。また、家のリフォーム代のサポート、バスやタクシーなどの交通利用のサポートなどが受けられる区もあります。
助成金よりも育てやすさが重要に
昨年、不妊治療の薬剤や機器を開発・販売するメルクバイオファーマが白書「日本が直面する 二つの危機への取り組み」(https://www.merckgroup.com/jp-ja/ysp/202207_Fertility-in-Japan2_MBJ_JP.pdf )を公開しました。それによると、ドイツの事例では、共働きやトレーニングを受けている両親を持つ3歳未満の子ども全員を対象に保育施設が提供されると、3歳未満の子どもが利用できる保育施設の数が全体の5% から35% に引き上がり、女性1人あたりの出生率が約0.13人増加したということです。一方で、児童手当などの他の施策は出生率に対する効果はなかったともいわれています。
白書においても、ファミリーフレンドリーな政策が重要とされています。日本の出生率の高い都道府県は、地域のサポートが得られやすいということもあり、東京や23区の支援では、育児サポート面もありますが、どうしても一時金などの方が中心となっています。今後は、単純な一時金だけでなく、育児休暇の充実や、男性の育児休暇の取得などを支援する施策の充実が考えられていかないといけないでしょう。