無農薬ゆずの商品で、高齢化する農家を支援。真心こめた商品づくりを行う「株式会社柚りっ子」の取り組み

原点はゆず味噌、そして農家の高齢化で放置されたゆず畑
株式会社柚りっ子は先代の代表・三澤澄江氏が、放置されたゆず畑を目の当たりにしたことから始まりました。
趣味だったゆず味噌づくりが近所で評判になっていた三澤氏は、ゆずを分けてもらおうと知り合いの農家を訪れました。すると、収穫時期にもかかわらず沢山のゆずが木になったままだったそうです。
話を聞くと「高齢になり、体力がなく収穫できない」ということ。これはその方だけに限った話ではなく、周囲の農家全体にいえることでした。三澤氏は農家の高齢化問題を実感することとなります。
さらに農家へゆずの代金も支払ったところ「捨てるしかなかった、朽ちていくだけのゆずに対価を払ってくれるとは」ととても感謝されたそうです。
そこで、三澤氏は高齢化が進むゆず農家と美味しいゆずを守りたいという思いから66歳の時に会社を立ち上げました。以来、看板商品であるゆず味噌をはじめ、無農薬ゆずを使用した無添加の加工食品を製造・販売しています。
徳島の農薬不使用ゆずを使い、誰もが安心して食べられる商品づくり
徳島県はゆずの名産地であり、なかでも那賀町木頭(きとう)の「木頭ゆず」は豊かな香りで品質が高いことで知られています。
ゆずの栽培は朝晩の温度差がある山間部が適しているといわれていますが、木頭は標高が高く、寒暖差が大きい地域でゆず栽培に適した土地でした。また、木頭ゆずはGI(地理的表示)マークを取得しており、GIマークは地域ならではの自然条件や伝統的な製法などの特徴を持つ産品を保護するための制度です。木頭ゆずは品質が高く、地域に根ざした産品であると言えます。
同社ではこの木頭ゆずをはじめとする、徳島県産ゆずを使用しています。GIマークを取得しているゆずではないので、同社が扱うゆずはどちらかというとゴツゴツした見た目で、その多くは傷や黒いシミができています。
決して形の良い姿とは言えませんが、それは自然に任せ、農薬を使用せずに育てているから。同社では15軒ほどの農家からゆずを仕入れていますが、すべて農薬不使用で育てています。そのため、果肉よりも栄養価の高いといわれている皮も、安心して商品に使用することができています。
国産素材と手間暇をかけた製造工程で美味しさを追求
農薬不使用の徳島県産ゆずを使用して、ゆず味噌やジャム、ゆず茶、シロップなどを製造・販売している同社ですが、創業時から変わらないこだわりのひとつが国産の原材料・素材を使うということです。小さな子どもから年配の方まで、誰もが安心して食べられる食品づくりを心がけています。
多彩な商品ラインアップを展開していますが、主な素材は6つとシンプルです。
- 木頭をはじめとする徳島県産ゆず
- 国産原材料を使用した徳島伝統の味噌である御膳味噌
- 北海道産てん菜糖
- 徳島県産みまから唐辛子
- 徳島県産れんこん
- 徳島県鳴門市のうず塩
原材料が少ないため、素材自体の味がとても重要です。そのため素材選びは徹底的に行ってきました。例えば、北海道産のてん菜糖は、コクのある甘みがゆず味噌と相性が非常に良かったことから採用されています。
また、同社の商品は添加物を一切使用していません。添加物を使用すれば賞味期限は長くなりますが、それ以上に安全性を重視しています。
さらに美味しさへのこだわりも徹底しており、それは製造過程に反映されています。そのひとつがゆずの手搾りです。機械で搾るとひとつの実からより多くの果汁を抽出でき、原価を抑えることができますが、皮や袋に含まれる苦味やアクも果汁に含まれてしまいます。
そのため、ゆずは外皮のしみやキズをひとつずつ丹念に手作業で削り取った後、やさしく手搾りで果汁と皮に分けています。さらに手作業で加工し、果汁、外皮、果肉、房、種に分けて各商品の原材料に仕上げていきます。例年1,000個以上ものゆずを約1か月かけて加工しており、手間をかけた分だけ、ゆず味噌やシロップなどの商品は、苦みがない澄んだ味わいに仕上がります。
高齢化する農家を支えるため収穫ボランティアを実施
2020年の国勢調査によると、木頭ゆずの産地である那賀町は、人口7,367人に対して65歳以上が3,816人(51.8%)と高齢化が進む地域です。ゆず農家も例外なく高齢化が進んでおり、同社取引農家の多くは60~85歳となっています。
高齢化に伴い収穫作業にもさまざまな課題が生じています。例えば、大きく育った木は2~3mになり収穫が困難になること、危険を伴う場所での作業、車で入れない畑から重いゆずを運ぶ負担などが挙げられます。さらに鳥獣被害の深刻化などもあり、ゆず農家の数は年々減少しています。
こうした現状を受けて取り組んでいるのが、「ゆず狩り隊」というボランティア活動です。毎年11月頃の収穫時期に合わせて募集を行い、農家の収穫をサポートしています。
これまでボランティアには、東京、大阪、神戸、香川などから人が集まり、取引先の社員が参加してくれることもありました。このような活動を通じて、困っている農家をみんなで支えながら、ゆず産業の未来をつないでいます。
徳島県ゆずの魅力を世界へ発信
国産原料100%、無添加が特徴の柚りっ子の商品は、海外からも取り扱いたいというオファーが寄せられ、実際にマレーシアやフランスなどで販売できました。
その理由のひとつとして、同社ではほぼすべての商品が「ハラール認証」を受けており、毎年更新を行ってることが挙げられます。
イスラム教には食事に関する規則があり、豚肉やアルコールといった一部の食品や飲み物が禁止されています。それらを含まないことを確認し、認証するのが「ハラール認証」です。
安全で美味しさにこだわった同社商品は、イスラム圏だけでない諸外国からも支持されています。今後はさらに海外展開に力を入れ、より多くの人々に商品を楽しんでもらうことで、徳島のゆず産業や農家を支援していきたいと考えています。
そのうえで必要になってくるのは、契約農家を増やし、ゆずの収穫量を増やしてくこと。多くの人や企業、自治体などが力を合わせて協力すれば、農地活用や収穫体制を整えることができます。そうすると収穫量も品質も安定化できます。
このように山の恵みを分かち合い、ゆずりあいながら、徳島のゆずや産業を守り、農家を支えていきたいと考えています。