パンの耳から作られるビール「ブレッドヴァイツェン」で食品ロスの削減へ
麦を発酵させてつくるビール。
ビールの歴史を紐解くと、紀元前4000年以上前に遡ると言われています。
さらに、ドイツでは、「ビールは麦芽、ホップ、水、酵母のみを原料とする」という法律まであるほどです。この法律は、1516年にバイエルン公ヴィルヘルム4世が制定したもので、食品に関連する法律として、現在でも有効なものでは世界最古です。
これほど、ビールと人間の歴史は深く長く結びついています。
ビールをつくることで、食品ロスの削減につなげる取り組みをしているのが福岡県の北九州市の「門司港地ビール工房」
取り組みは原始的なビールのつくり方を参考にしたものでした。
シュメール人が作っていたビール
大昔、メソポタミアのシュメール人がビールを作っていたということが分かっています。
ビールの作り方が粘土板に書かれた楔形文字によって残されています。
楔形文字の資料によると、まず麦を乾燥させて砕き、粉にします。そして、それに水を加えて焼いてパンにしていました。そのパンを再度砕いて水を加えて、自然発酵させてビールにしていたとのことです。
当時は発酵の原理が分かっていなかったでしょうから、今から考えると手間暇をかけたものでした。さらに自然発酵なので、作るたびに味が微妙に違っていたでしょう。
現代のビールの作り方
現在のビールの作り方を簡単に説明します。
麦を分解・溶けやすくするため、まずは水に浸して発芽させて麦芽にします。
その麦芽を乾燥させ、砕いて、温水と混ぜ合わせます。
ここで酵素の働きによって、麦のデンプンが糖へと変換されます。これが糖化液です。
この糖化液をろ過して、ホップなどをくわえることでビールの基の麦汁(ばくじゅう)となります。
この麦汁に酵母を加えることで、糖が酵母によって発酵し、アルコールと炭酸ガスになります。
この段階のビールは「若ビール」と呼ばれ、普段私たちが口にするビールよりも味や香りが薄いです。
若ビールを貯酒タンクに移し、数十日熟成することで、私たちがよく知るビールが生まれます。
食パンの耳から作られるビール
門司港地ビール工房が挑戦したのは、食品廃棄される食パンの耳を原料にしたビールです。
その名も「ブレッドヴァイツェン」
ブレッドはパン、ヴァイツェンは小麦を原料にしたビールの意味です。
食パンの耳からビールを作ることになったきっかけは、地元のクラウン製パンからの相談でした。
同社は、地元の学校給食用の食パンを製造しています。福岡県では「子どもにとってパンの耳はかたい」という理由から、焼きあがった食パンの両端をカットしていました。その量は多い時で1日100キロにも上ります。
カットされたパンの耳は家畜の飼料などに再利用はされていましたが、人が飲食して活用する方法に悩んでいました。
「ブレッドヴァイツェン」の開発への道のり
門司港地ビール工房は、シュメール人が一度パンを焼いてからビールを作っていたのであれば、廃棄されるパンの耳を原料にしても、同様にビールができるのではないかというところからスタートしたとのことです。
大昔のビール製造方法が、現在の食品ロス削減へとつながった瞬間でした。
しかし、取り組みは簡単なものではなかったそうです。
うまく発酵するための条件や、できたビールが現在の人の舌に合うものにするために試行錯誤をしたとのことです。
例えば、ビールの原料はパンの耳の他に、通常の小麦なども利用し、その割合を調整しました。
その結果、通常のヴァイツェンに利用する小麦の量の1割をパンの耳に置き換えることになりました。
パンの耳をどのくらい細かくするかでも、発酵の進み具合が変わったそうです。
このような試作を半年かけて行い、製品化への道筋が拓けました。
出来上がった「ブレッドヴァイツェン」
門司港地ビール工房によると、仕込み時の麦汁は「いつもよりまろやかでパンっぽい小麦感を強く感じた」ということです。
味わいは小麦のまろやかさが強まった、マイルドな味わいで、泡立ちも良いもの。
結果として「ヴァイツェン以上にヴァイツェンなビール」になったと、自信の一杯となりました。
まとめ
気になる「ブレッドヴァイツェン」は、限定4,000本。
7月から販売を開始しています。350ミリリットル缶で550円です。
北九州市の酒屋さんやお土産物屋さんなどで売っていますので、九州の方に行かれる方は立ち寄ってみてください。
そのほか、オンラインショップでも販売中なので、気になる方は是非注文してみてください。
ビールを飲んでいい気分になりつつ、食品ロス削減にも貢献できる最高の一杯です。
暑い夏のお供に、サステナブルなビールを楽しんでみるのはいかがでしょうか。