伊勢崎銘仙を活用したアップサイクルで、日本文化に新たな価値を – 株式会社Ay


株式会社Ay(以下、同社)は、伊勢崎市の重要な文化遺産である伊勢崎銘仙を現代に蘇らせる取り組みを通じて、地域文化の継承と再評価に貢献しています。
かつて日本の普段着文化として親しまれていた伊勢崎銘仙は、ライフスタイルの変化とともに需要が減少し、衰退の危機に瀕していました。しかし、村上氏は中学生の時に地元の授業でこの伝統工芸に触れ、そのモダンで魅力的なデザインに惹かれたことがきっかけで、この文化を現代に伝える使命感を抱くようになりました。
伊勢崎銘仙を通して、文化を織りなおす
「文化を織りなおす」同社は、単に過去の文化を保存するのではなく、現代のニーズや感性に合わせて「織りなおす」という哲学を実践しています。これは伊勢崎銘仙という文化的資源を現代的な視点で再解釈し、新たな価値を創造する取り組みといえるでしょう。
特に注目すべきは、村上氏自身が「こうあるべき」という着物文化に固執せず、そのデザインや素材の可能性に着目している点です。このような柔軟な発想があるからこそ、伝統と革新を融合させた新しい文化価値の創造が可能になっています。
村上氏の事業に対する思いの根底には、海外経験から得た気づきがあります。高校時代の留学では、伊勢崎銘仙の着物が自身のアイデンティティを表現するコミュニケーションツールとなりました。アジア人として見られることや人種差別などを経験する中で、日本の世界でのプレゼンスの低さにショックを受けたといいます。
この経験が、彼女自身の「日本を強くする」というビジョンの原動力となっています。
伝統を持つ銘仙を「古い」ではなく「おしゃれ」に|サステナブルなものづくりの実践
伊勢崎銘仙のアップサイクルは、サステナビリティの観点からも重要な意義を持っています。使われなくなった着物を丁寧に解体し、新たな形として蘇らせる過程は、資源の有効活用と廃棄物削減に直接的に貢献しています。
村上氏はアップサイクルの概念に、不要品に付加価値をつけるという一般的な定義を超え、衰退した文化的価値を再生させるという独自の解釈を持っています。
同社のアップサイクルプロセスは、着物を手作業でほぐし、クリーニングし、新たな商品として仕立て直すもの。また、着物の幅の制約(約36cm)やシルク素材の特性など、技術的な課題にも丁寧に向き合いながら商品開発を行っています。
このようなサステナブルなものづくりの姿勢は、大量生産・大量消費を前提とした現代のファッション産業のあり方に一石を投じるものといえるでしょう。
興味深いのは、日本と海外におけるアップサイクルの価値認識の違いです。
日本では「リメイク」「古いもの」といったネガティブなイメージが先行しがちな一方、海外では「手間がかかる」「より良いものになる」というポジティブな認識があるといいます。同社は「アップサイクル」という言葉が持つ「より良いものになる」ニュアンスを大切にし、単なる古い着物の再利用ではない価値創造の側面を伝える努力を続けています。
地元工場との連携|地域経済貢献と、持続可能なビジネスモデル
同社の事業は、地域経済の活性化にも貢献しています。伊勢崎市に根差した事業展開は、地元の文化的アイデンティティを強化するとともに、地域の生産者や工房との連携によって雇用創出や技術継承にもつながっています。
開発当初は伊勢崎銘仙を小ロットで縫製できるような難しい課題に対応できる工場を見つけることが困難でした。しかし、現在では数年かけて3つほどの工場と連携できる体制を構築。受注生産をメインとする事業モデルは、過剰生産を避け、お客様のニーズに合わせた丁寧なものづくりを可能にしています。
お客様の体型やサイズに合わせて調整しながら製作することにより、一点物の価値を最大化し、大量廃棄を前提としない持続可能なファッションビジネスの一例を示しています。
村上氏がこのように事業に向き合う姿勢を形作ったのは、アフリカ滞在時のプロジェクトでの経験から。現地の若者の「あなたたちがイベントを行っても、帰った後には僕たちには何も残らないよ」という言葉。ここから、一時的な活動ではなく持続可能な取り組みの必要性を強く感じたといいます。
この経験が、ビジネスを通じて継続的な関係性と価値を築く、という現在の事業姿勢の原点にもなっています。
長く愛されてきた文化を織り直し、さらに拡大していく
株式会社Ayは今後、伊勢崎銘仙だけでなく他の地域の伝統技術や工芸との連携も視野に入れています。日本各地には素晴らしい伝統工芸や技術が存在するものの、現代社会との接点を失い、衰退の危機に瀕しているものも少なくありません。
同社がこれまで培ってきたアップサイクルの手法やブランディングのノウハウを活かし、異なる地域や分野の伝統技術と横断的に連携することで、新たな文化的価値を創造する可能性を秘めています。
「文化を織りなおす」「日本を強くする」ビジョンは、地域や技術に限定されるものではなく、日本全体の文化的資産を活かした持続可能な社会づくりへ進んでいくでしょう。



