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全国の自治体で、水道料金の値上げが相次いでいます。その背景には、物価高だけでなく、高度経済成長期に整備された水道管の老朽化や、人口減少による事業収入の減少があります。
この記事では、水道料金の値上げを家計負担ではなく、社会インフラの維持課題として捉え、老朽化を放置した場合に起こり得るリスクを解説します。

水道料金の値上げは、単に「水の価格が上がる」という話ではありません。まずは、なぜ水道料金の改定が必要になるのかを整理します。
蛇口から水が出るようにするための過程には、施設の維持管理、点検、修繕、更新工事、災害対策などが含まれます。
国土交通省の資料では、令和4年度における水道の管路経年化率は23.6%、管路更新率は0.64%とされており、老朽化が進む一方で更新ペースが低い状況が示されています。管路総延長は約74万km、そのうち法定耐用年数40年を超えた管路は約17.6万kmです。
つまり、水道料金の値上げは単なる料金改定ではなく、老朽化した管路や施設を更新するための財源確保という側面を持っています。
水道管は地中に埋まっているため、老朽化が見えにくいインフラです。道路や橋のように、ひび割れやサビが日常的に見えるわけではありません。蛇口をひねれば水が出る限り、多くの人にとって水道管の老朽化は「まだ大丈夫」に見えます。
見えないからといって、劣化が止まるわけではありません。管路の更新を先送りすれば、漏水、断水、道路陥没、災害時の復旧遅れといった形で、ある日突然リスクが表面化します。
水道料金の改定は、こうした更新費用の先送りをどこまで続けられるのかでもあります。安定供給を維持するには壊れてから直すのではなく、壊れる前に計画的に更新する必要があります。
水道事業は、利用者からの料金収入を主な財源として運営されています。人口が増え、水の使用量も多かった時代は、料金収入によって施設の維持管理や更新を支えやすい構造がありました。
しかし、人口減少が進むと、水道を使う人や事業所が減り、料金収入も減少します。さらに、節水型トイレや節水家電の普及により、1人あたりの使用量も以前より少なくなっています。
一方で、過去に整備した水道管や浄水場、配水池は、利用者が減ったからといってすぐに縮小できません。ここに、水道事業の難しさがあります。収入は減るのに、維持しなければならないインフラは残る。これが、全国で水道料金の見直しが進む大きな背景です。

水道インフラの老朽化は、すでに全国共通の課題になっています。高度経済成長期以降に整備された管路が更新時期を迎える一方で、更新率は十分とはいえません。ここでは、公表データをもとに老朽化の規模感を確認します。
水道管の法定耐用年数は40年とされています。国土交通省の資料では、令和4年度時点で管路総延長約74万kmのうち、約17.6万kmが法定耐用年数を超えています。これは管路全体の23.6%にあたります。
法定耐用年数を超えたからといってすべての管がすぐに破損するわけではありませんが、更新対象となる管路が全国規模で膨大に存在していることは確かです。
水道管は一度整備すれば終わりではありません。地中で長く使われるうちに腐食、継手の劣化、地盤変動、交通荷重などの影響を受けます。老朽化した管路が増えれば、漏水や断水のリスクも高まりやすくなります。
同じ国土交通省資料では、令和4年度の管路更新率は0.64%とされています。これは、管路総延長約74万kmに対し、1年間に更新された管路が約4,800kmだったことを意味します。
単純に計算すると、更新率0.64%のペースで全体を一巡するには、100%÷0.64%=約156年かかる計算です。もちろん実際にはすべての管路を一律に更新するのではなく、老朽度や重要度、漏水リスクなどを踏まえて優先順位をつけます。
それでも、老朽化している管路の量に対して、更新ペースが追いつきにくい構造にあることは見えてきます。水道管は地中に張り巡らされた巨大なネットワークです。数年で一気に取り替えることはできず、長期的な計画と財源が必要といえます。
水道インフラは、平時だけでなく災害時にも機能する必要があります。地震や豪雨の際に水道管や浄水施設が被害を受ければ断水が長期化し、避難所、病院、福祉施設、学校などの運営に影響します。
厚生労働省が公表した令和4年度末時点の調査では、基幹的な水道管のうち耐震性のある管路の割合は42.3%、浄水施設の耐震化率は43.4%、配水池の耐震化率は63.5%で、依然として低い状況とされています。
老朽化対策と耐震化は別々の問題ではありません。古くなった管路を更新する際に耐震性の高い管へ替えることで、平時の漏水リスクを下げるだけでなく、災害時の断水リスクも下げられます。
水道管の老朽化は、普段は見えにくい問題です。しかし、断水や漏水として表面化すると、影響は家庭内にとどまりません。ここでは一定の前提を置き、老朽化を放置した場合に起こり得る社会的影響を概算します。

日本人の一人一日平均の生活用水使用量は、2022年度で282L/人・日とされています。これは家庭用水だけでなく、オフィスや飲食店などで使われる都市活動用水も含む「生活用水」の数値です。国土交通省も、家庭用水と都市活動用水をあわせて生活用水と呼ぶと説明しています。
この数値をもとに、人口1万人の地域で24時間断水した場合を概算すると、通常であれば1日に使われている生活用水は次の規模になります。
・1万人×282L=282万L/日
・水量にすると、約2,820㎥/日
つまり人口1万人の地域で1日断水すると、通常時に使われている約282万L分の生活用水が利用できなくなる計算です。
実際の断水時には、入浴や洗濯、清掃などを控えるため、代替水として必要な量はこれより少なくなります。それでも、トイレ、手洗い、調理、清掃、施設運営など、地域の生活機能は大きく制限されます。
ここで重要なのは、飲み水だけが問題ではないという点です。断水は「水が飲めない」だけでなく「流せない」「洗えない」「清潔を保てない」という問題でもあります。

災害時の備蓄では、一人一日3L程度の飲料水を確保する考え方がよく用いられます。この前提で人口1万人の地域を考えると、飲料水だけでも次の量が必要です。
・1万人×3L=3万L/日
・3日分なら、9万L
これはあくまで飲料水の最低限の目安です。実際には、調理、手洗い、トイレ、乳幼児や高齢者のケア、医療・福祉施設での衛生管理などにも水が必要になります。
生活用水282万Lと、飲料水3万L。この差を見ると、水道が支えているのは「飲み水」だけではないことがわかります。水道インフラは、地域の衛生、福祉、教育、産業活動を含めた生活基盤そのものです。

病院は水道インフラへの依存度が高い施設です。手洗い、消毒、トイレ、清掃、給食、検査、透析、洗濯など、多くの場面で水を使います。
仮に300床規模の病院で1床あたり1日1,000Lの水を使うとすると、1日に必要な水量は次のようになります。
・300床×1,000L=30万L/日
・水量にすると、約300㎥/日
実際の使用量は、病院の機能、外来患者数、透析設備の有無、厨房や洗濯設備の有無によって変わります。そのため、これは一つの目安にすぎません。ただし、病院が日常的に大量の水を必要とする施設であることは明らかです。
断水が発生すれば手術、入院患者のケア、感染対策、給食、清掃などに影響が出る可能性があります。水道管の老朽化は、単なる生活上の不便ではなく、医療機能を支えるインフラリスクでもあります。

災害時に避難所で断水が続いた場合も、影響は大きくなります。飲料水を一人一日3Lで計算すると、500人規模の避難所では次の水量が必要です。
・500人×3L=1,500L/日
・3日分=4,500L
これも飲料水だけの最低限の概算です。実際の避難所では、トイレ、手洗い、清掃、調理、乳幼児や高齢者のケアなどに水が必要になります。断水が長引くほど、衛生環境の維持が難しくなり、感染症や体調不良のリスクも高まります。
水道インフラの耐震化や老朽管の更新は、災害が起きた後の避難生活を支える備えでもあります。平時には見えにくい投資ですが、災害時には「水が届くかどうか」という形で差が出ます。

水道管の老朽化を放置すると、リスクは断水だけにとどまりません。漏水、道路陥没、病院や避難所の機能低下、地域経済の停止など、社会全体に影響が広がります。ここでは、老朽化が表面化した場合の具体的なリスクを整理します。
老朽化した水道管が破損すると、地域一帯で断水が発生する可能性があります。断水は、家庭の飲み水やトイレだけでなく、学校、保育園、介護施設、飲食店、工場などにも影響します。
たとえば、学校で断水が起きれば、給食、トイレ、手洗い、清掃が制限されます。介護施設では、入浴介助、排泄ケア、食事提供、感染対策に支障が出ます。飲食店や食品工場では、営業や製造を止めざるを得ない場合もあります。
老朽化した管路から漏水が続くと地中の土砂が流され、地盤がゆるむ可能性があります。その結果、道路陥没や交通規制につながることがあります。
ニュースでも取り沙汰されましたが、2025年1月に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故では、下水道管の破損に起因すると考えられる道路陥没が起き、トラック1台が巻き込まれました。この事故により約120万人に下水道の使用自粛が求められるなど、大きな影響が発生したといわれています。
これは下水道の事例ですが、地下インフラの破損が道路、交通、物流、地域生活に広域の影響を与えることを示す具体例です。管路の老朽化は地盤、道路、交通、物流、住民生活へと、影響が連鎖する可能性があります。
老朽化した水道管や耐震化されていない施設は、地震などの災害時に被害を受けやすくなります。平時には何とか使えていても、大きな揺れや地盤変動が起きたときに破損し、断水が長期化する可能性があります。
令和4年度末時点で基幹的な水道管のうち耐震性のある管路の割合は42.3%、浄水施設の耐震化率は43.4%にとどまっています。
災害時の断水は、避難所の衛生環境、病院や福祉施設の運営、消火活動、復旧作業に影響します。水道インフラの更新は、災害が起きてからの対応ではなく、災害前に進めるべきリスク対策です。
人口減少が進む地域では、水道を使う人が減り、料金収入も減ります。しかし、既存の水道管の距離や浄水施設は、人口に合わせてすぐに小さくできるわけではありません。
特に郊外や山間部では、少数の住民のために長い管路を維持する必要があります。利用者が減っても、点検や修繕、更新の必要性は残ります。結果として、1人あたりが支えるインフラ負担は重くなりやすくなります。
更新費用を確保できなければ、老朽管の更新が遅れ、漏水や事故のリスクが高まります。事故が増えれば、緊急修繕費も増えます。料金収入の減少、更新の先送り、事故対応費の増加という悪循環に陥る可能性があります。
水道管の更新には多額の費用がかかります。また工事では仮設水道管の布設や道路の掘削・復旧など、多くの工程が必要です。
更新費用の規模感は次のようになります。
・1km更新|約2億円規模
・10km更新|約20億円規模
・50km更新|約100億円規模
もちろん、実際の費用は管の口径、道路状況、地盤、交通規制、埋設物の有無などによって変わります。そのため、全国一律の単価として断定することはできません。ただし、水道管の更新が大規模な投資であることは確かです。
更新費用を避けるために先送りすれば、一時的には支出を抑えられるように見えます。しかし、破損や陥没が起きてから対応する場合、緊急工事、交通規制、給水支援、住民周知、営業停止への影響、復旧工事など、より広い範囲でコストが発生します。
老朽化リスクを理解するには、抽象的な表現だけでなく、数字で規模感をつかむことが有効です。ここでは、断水、飲料水確保、病院、避難所、老朽管延長、更新費用について、前提を置いた概算を整理します。
これらの数字は、すぐに事故が起きることを示すものではありません。万が一が起きた場合にどの程度の生活機能が影響を受けるのか、更新にどれほどの規模の投資が必要なのかを把握するための数字として捉えてください。
生活用水の多くは、入浴、トイレ、炊事、洗濯、掃除などに使われています。水道が止まると飲めないだけでなく、流せない、洗えない、清潔を保てない状態になります。
病院、介護施設、学校、避難所では特に深刻です。手洗いや清掃が制限されれば、感染症対策にも影響します。トイレが使えなければ避難所や公共施設の運営も難しくなります。
水道管の老朽化は単なる設備更新の話ではありません。地域の衛生を支える基盤の話です。

水道料金の値上げは、利用者にとって歓迎しにくいものです。しかし、老朽化した水道管を更新せず、事故や災害時の機能停止を招けば、社会全体の損失はより大きくなります。ここでは、料金改定をどう捉えるべきかを考えます。
水道料金の値上げは、生活者にとって負担増です。その点を軽く扱うべきではありません。一方で、老朽管の更新や耐震化に必要な財源を確保できなければ、将来的な断水、漏水、道路陥没、災害時の復旧遅れといったリスクが高まります。
つまり、水道料金の改定は、現在の支出を増やす話であると同時に、将来の事故や混乱を減らすための予防投資でもあります。
重要なのは「値上げは仕方ない」と一方的に受け入れることではありません。なぜ値上げが必要なのか、どの施設を更新するのか、どのリスクを下げるのかを、自治体や水道事業者が具体的に説明することです。
水道料金の値上げは、政治的にも住民感情としても難しいテーマです。そのため、料金改定が先送りされることもあります。
しかし、料金を据え置けば問題が消えるわけではありません。老朽化した管路は年々増え、更新費用は資材費や人件費の上昇によって膨らむ可能性があります。更新が遅れるほど、事故後対応の比重が大きくなるおそれもあります。
値上げを避けることは、短期的には負担を抑える選択に見えます。しかし、長期的には、より大きな修繕費や復旧費、社会的損失につながる可能性があります。

水道インフラの老朽化は、料金改定だけで解決できる問題ではありません。限られた財源と人材の中で、更新の優先順位をつけ、広域化やDX、官民連携を進めることが必要です。持続可能な水道事業に向けた対策を整理します。
すべての水道管を一度に更新することは現実的ではありません。そのため、老朽度だけでなく、事故が起きた場合の影響度を踏まえて優先順位をつける必要があります。
優先度が高いのは、病院、避難所、学校、福祉施設、災害拠点などにつながる管路です。これらの施設で断水が起きると、医療、福祉、教育、避難生活に直接影響します。
水道管の更新は、単に古い順に取り替えるだけでは不十分です。どこが止まると地域全体に影響が大きいのかを考え、リスクベースで更新計画を立てることが求められます。
人口減少が進む地域では、自治体単独で水道事業を維持することが難しくなります。技術職員の確保、施設更新の財源、災害対応力などに限界が出やすくなるためです。
そのため、複数の自治体で水道事業を広域化し、施設、人材、財源、ノウハウを共有する取り組みが重要になります。
広域化には、地域ごとの事情や住民合意、料金体系の違いなど難しさもあります。それでも、小規模な事業体が単独で老朽化と人口減少に向き合うより、広い単位で基盤を支える方が持続可能性を高めやすくなります。
水道事業では、職員不足も大きな課題です。限られた人員で広い管路網を管理するには、デジタル技術の活用が欠かせません。
たとえば、管路台帳のデジタル化、センサーによる漏水検知、遠隔監視、AIを使った劣化予測、更新計画のデータ化などが考えられます。見えない地下インフラをデータで把握できれば、点検や更新の優先順位をつけやすくなります。
デジタル庁も、水道事業を取り巻く環境として、施設の老朽化、現場職員の減少、人口減少に伴う収入減少を挙げ、水道事業の経営状況を可視化するダッシュボードを公開しています。
水道料金を上げる場合、自治体や水道事業者は、住民への説明を丁寧に行う必要があります。
特に重要なのは、値上げ幅ではなく、値上げによって何を守るのかを示すことです。老朽管の更新、耐震化、重要施設への給水確保、漏水リスクの低減、災害時の復旧力向上。これらを具体的に説明できれば、料金改定は単なる負担増ではなく、地域の安全を支える投資として理解されやすくなります。
水道料金の値上げは、生活者に痛みを伴う話です。だからこそ、行政側には数字と計画にもとづいた説明が求められます。

水道料金の値上げは、家計の話として語られがちです。しかし、その背景には、水道管の老朽化、人口減少による収入減、職員不足、耐震化の遅れという構造的な課題があります。
水道管の老朽化を放置すると、漏水や断水だけでなく、道路陥没、病院や避難所の機能低下、地域経済の停止、災害復旧の遅れにつながる可能性があります。
人口1万人の地域で24時間断水した場合、通常時の生活用水は約282万Lに相当します。飲料水だけでも、1日3万L、3日で9万Lが必要です。こうした数字を見ると、水道は単なる家庭内の設備ではなく、地域全体を支える社会インフラであることがわかります。
水道料金の値上げは、見えないインフラ危機を考える入口です。水が出る当たり前を守るために、社会全体でどのリスクを引き受け、どの投資を優先するのか。いま問われているのは、その選択ではないでしょうか。
早稲田大学文学部社会学コース卒業。「環境」と「教育」を軸に暮らしと社会の接点を紡ぐフリーランスライター/ディレクター。社会調査士・遺品整理士。メディア記事の執筆だけでなく、企画設計や構成、インタビュー、編集ディレクションまで一貫して手がける。ジェンダーやケア、感情のグラデーションといったテーマにも関心が深く、「誰かの違和感をことばにする」ことを大切にしている。
